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Interview 光藤 佐「轆轤で描く気韻感」 3/4

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子/Nov. 2015

養父から和田山へ

根本 光藤佐さんというお名前で、養父で15年間活動後、現在の和田山町に引越しをされてきて、どのくらい経ちましたか?

光藤 2004年に引越してきたから、もう11~12年。

インタビューイメージ画像

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根本 久しぶりに今回お邪魔してみたら、家の周りの緑が育っているのに圧倒されました。庭師になっているのかっていうくらいの環境ですね(笑)。こちらでは、待望の薪窯をつくられたことも大きな出来事だったと思いますが、いかがですか?

光藤 穴窯を焚きだして6年かな。焼き締めがしたいとかっていうことではなくて、ガスではちょっと難しいというくらいのよく焼けた感と、もう一つはガスではなかなかできない窯変とかをやりたかった。

根本 窯そのものもご自分でつくられたんですよね。職人さんに入ってもらったところはないんですか?

光藤 そう、自分でやった。窯をつくる1~2年前くらいからあれこれ見せてもらったり、焚きに行ったりしてね。腱鞘炎になりながら、つくるのに3ヵ月くらいかかったかな。毎日そればっかりしてたから長かったよ。6~8月にかけてつくって、初窯焚いたのはその年の12月だったからね。

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根本 薪窯を焚いたことによって、土に対する想いとか、制作の感じとか、つくりたいもので変わってきたところはあるのでしょうか。

光藤 最初はどういうものがどういうふうに焼けるのか、どういうふうに焼いたらどうなるのか、実験みたいなことから始まって。だいたいこういう感じかなみたいなのが漠然とだけどわかってきて、その中である程度絞っていって、最近はちょっと焼けるようになったんちゃうかな。最初の頃は読めなくて、どうせあかんやろって、窯出しするのも嫌なくらいで。今はちょっと次が読めるから安心してる。

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根本 そういうことを重ねることで、ある程度自分の核心に近いものができつつあるということは、ここ数年の光藤さんの外へ向けての活動の変化というもののきっかけになったのでしょうか?

光藤 ある程度、先々、焼くものが決まってきたという言い方はおかしいけれど、そういうところがないと、展示会させてくれませんかなんて言えないから。そこが7~8割近く好きな感じに上がって来てくれてるから、頼めるんだろうなと思う。

根本 キャリアに対して、もっともっと認知されるべきつくり手のお一人だとずっと思ってつきあせていただいているので、そうしたご自身の活動というのは私もすごく嬉しいです。それが形になってきつつあるのではないですか。

光藤 ありがとうございます。形にしようと努力しています。だいたい今見てもらっている感じで、食器、花器のグレードを上げてまとめていきたいし、もう少し興味のあるところもつまんでみたい。あとは展示会をもう少し増やして、活動できたらなと。

定番と一点物

根本 作家物の器が好きなお客様というのは、増えているのか減っているのか、私も今一つ把握はできないのですが、センスのいい生活をしたいと思っている人でも、それが作家物の器でなくてもいいと思っている人、いい物であればプロダクト物でもいいという人もいます。ただ、今までの光藤さんのガス窯を中心とされた仕事というのは、むしろその部分でいわゆる定番的な底力をずっと持ってきたと思うんですね。突出している個性ではなく、使った後の感じの良さとか、困った時についつい使っちゃうとか、そういう定番部分のよさをもう一度皆さまに推し進めていくと、薪窯の上質なものがほしいという展開もあるでしょうし。私は今また定番品をやるべきかと思っているんですけれど、その辺りはいかがですか?

光藤 10年前は、自分が定番に重きを置き過ぎていた気がするし、そこに胡坐をかいていたようにも思う。どうも時代的に見て行くと、もうちょっと展示会を中心とした活動をしていかないといけないんちゃうかなと最近思う。違うかもしれないけどね。

根本 キャリア的にも年齢的にも、大量多売ということは難しくなってきますよね。それは世の中も含めて。

光藤 定番づくりは、言い換えたら、一人でやっている陶器屋さんというわけで。別にそれが悪いわけじゃないんだけど、もう少し突っ込んで、一品の良さみたいなところを追及するつくり手の方に、もうちょっと突っ込んで行きつつ活動できれば、あるいはそういうふうに進んでるんかなと思う。

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根本 最近のお客様のご意見の中に、さきほど私が話した、いいものであれば作家物である必要はないという部分のリクエストがあって。それはデザインされ過ぎているものをあまりにも見過ぎた人たちが、そういう個性的な作家物でなくて、本当にいいものだけを、それこそ骨董として残って行く、名もない陶工が焼いた、でも今も使い続けられているようなものを、今のつくり手のもので欲しがっているということだろうと思います。技術力の優れた職人が、自分の器をつくってくれるようなそういうものをほしいと思っていらっしゃる。

光藤 そんなのは好きやけどね。

根本 そうですよね。なので、一点物で窯の力のある物ももちろんですが、光藤さんにはそれだけではなくて、定番物も素晴らしいので、両方をやってほしいなという気持ちが私は強いんです。

光藤 僕は使うということが第一で、飾りものをつくるという意識はまったくないんやけどね。ただ使うものであって、なおかつ品質のいいもの、そういうところが目指すところになる。

根本 何でもないものの品の良さとか、丁寧さというのは、光藤さんの仕事に常に感じているところで、それは作家さんを知らないお客様でもちゃんと感じ取ってくださっています。光藤さんの器に花を生ければ、やっぱり皆さんにいいと言ってもらえたり、引きつけられてしまうさり気ない魅力が器にあるので、そこは大事にしてほしいと感じます。

光藤 だから、使うものだね。絵で言ったら、額縁みたいになっちゃうのかもしれないけど、お料理を盛って美味しそうに見える、という辺りが本当に生命線みたいなところであると僕は思う。花一輪を入れて生きるような感じの花器とか、お料理を盛って美味しそうに見える器とか、当たり前なんだけどそれがすごく捨てがたい大事なところの気がする。そのためにつくり手としてはどうかというと、やっぱり焼けてないものは好きじゃないし、使いにくいものは嫌だし、飽きてしまうようなものも嫌。そういうところを、自分のもっている言葉を全部まとめて、それを一つ一つに込めたいというのは本当のところ。

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光藤 佐展

光藤 佐展

2015/11/13(金)〜11/18(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分