パノラマ対談「器と花」 西川聡 × 上野雄次 : 前編 1/3
冬の名残をよそに春の花がいっせいに咲き始めた3月下旬。 真鶴にある西川聡さんの自宅工房を、上野雄次さんと訪ねた。 枝垂桜の点在する道すがら、花摘みの寄り道。 その花々を、工房でいくつもの器に生けた。 その後始まった対談では、二人はすでに「同志」のような面持ち。 陶芸家と花道家。手にする材料は違っても、同世代の二人には共通する思いがある。 たくさんの矛盾や葛藤と対峙しながら、関わり合う人々の幸せを願って続けてきた仕事。 覚悟も優しさも手にした40代後半のコラボレーションに、造形の旬を感じる。
作家の器に生けること
西川 上野さんとお会いするのは久しぶりですね。最近も作家さんの器に生ける機会は多いですか。
上野 そうですね。月に1回くらいは、どこかでやっています。年間で10回くらいあるかな。
西川 個展とか?
上野 だいたい個展かグループ展ですね。12~13年前になりますが、自分からそういう機会をお願いしてやらせてもらったことが始まりです。
西川 僕もお会いする前から、上野さんの噂は耳にしていましたよ。タクシーでやって来て、ドライバーの制服のまま、器に花を生けて帰って行く人がいるってね。実際に上野さんに初めてお会いして、僕の器に花を生けていただいたのは、5年前の「SHIZEN」さんでの展覧会でした。あの時は、「うつわ楓」さんで食器を、「SHIZEN」さんでは花器の展覧会を同時開催したんだけど、僕が直接、上野さんに花生けを依頼したのではなくて、ギャラリー側から提案があって、それは僕もぜひお願いしたいってことに。
上野 そうそう。たしか、楓さんの店主・島田洋子さんからお話をいただいたんです。西川さんの作品写真を見せてもらって、これは面白いと思って、僕もぜひお願いしますと。
西川 ふだん僕の展覧会では、1〜2個の器に自分でちょっと花を差すか、何もないかって感じで、あとはギャラリーの人が少し花を差すかっていうくらい。だから、上野さんのような花の仕事の人に生けてもらうのはあの時が初めてのことで、とても新鮮だったし、かなり刺激になりました。
上野 作家さんにしてみると、どういうふうになるのか、心配もありますよね。
西川 でも、変な意味での意外性は感じなかったです。初めて上野さんと顔を合わせた時に、何をしてくれそうかという期待ができたというか。同世代ですし。
上野 そうでしたか。
西川 それから何度か上野さんとお会いするようになって、いつも思うのは、上野さんの仕事は生きがいい、鮮度がある(笑)。魚でいうと、いつも動いている回遊魚みたいな印象で、決して水の底でじっとしている感じではない。そこは上野さんのされている二つの活動というのかな、今日のようにじっくり生ける仕事と、即興性のあるライブパフォーマンスで生ける仕事の二つがあって、たぶん僕はそんなことからも感じたんだと思います。
上野 なるほど、そういうことかぁ。
西川 僕はお花の世界には詳しくないからわからないけれど、どの世界もあるところから一線を超えていく人たちというのは、人間と作品が一致しているところがある。それはかなり重要なことで、僕は上野さんに会ってみて瞬時に感じました。そこが上野さんの魅力であり、活動の高い評価を得ているところでもあるんじゃないかな。
上野 花を生けるというと、大半の作家さんは、変なことされなきゃいいなって思うんですよ(笑)。それは花を生ける人に、自己表現をしたいと思っている人が多くて、おそらく仕事として求められていることよりも自分のことの方に引き寄せちゃうから。器なんて入れ物くらいに思っている人も中にはいるでしょうし。
西川 そうでしょうね。
上野 でも、花と器の関係は全然そんなものではないんです。花と器の関係性でつくる造形は、花器の置かれている接地面から始まっていて、ほぼ器の造形で決まるものもあれば、器と花と半々くらいになってそれが一体化して決まるものもあるし、場合によっては器の足元3割くらい、膝下辺りからの安定感みたいなものに支えられるものもあったりして、それぞれバランスは違います。
だから、花器がどんなものでも同じみたいなことは、僕は全く違うと思う。ただ、花器との関係性よりも、自分の花の表現の方に引き寄せちゃっている人は多いし、そういう経緯もあって、作家さんに器そっちのけで生けられちゃうんじゃないかと、不信がられる状況はあります。それで僕はわかりやすくしようと思っているところはあるし、信じてもらうためにはどうしようかとか考えますね。
花材採集
対談当日は西川さんの器に上野さんが花を生けました。
花材の一部は真鶴の西川さんの工房近くで採取。
その花材採集の様子をご紹介します。
また、花生け作品については近日西川さんのページに掲載予定です。
西川さんの車で真鶴の工房を出発。
車道脇にヤマブキを発見。
ちょっと派手目な採集籠。
山の方へ移動。
赤は赤でもこの赤色を探していた上野さん。
どの花がいいかな〜。
「この感じ、絶対に西川さんの器に合う」と上野さん。
朽ちたツバキの花を3つだけいただく。
急斜面だって慣れたもの?
深く澄んだ山の空気に包まれて。
いい感じに集まりました。
浦島草を1輪拝借。
これにて採集終了。