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パノラマ対談 花師 齊藤謙大さん × 陶芸家 松葉勇輝さん

パノラマ対談 齊藤謙大さん(花師) × 松葉勇輝さん(陶芸家)

「花と器、春の景色を取り込む」


文・構成:竹内典子 / Mar. 2023

茨城県古河市で 「野草五芒」を営む齊藤謙大さんは、自ら育てた野草を用いて、いけばなの教室やワークショップを開き、花師としての活動もされています。
陶芸家の松葉勇輝さんは、独立した当初、花器ばかり作っていたというほど、花器作りに想いを寄せています。古陶のような土味や窯変の面白さがありながら、どこか現代的で端正な佇まいの器です。
2月中旬、花いけ撮影のために新宿の小灯にいらした齊藤さんと、大阪に暮らす松葉さんに、オンラインで対談をしていただきました。大阪でのふたりの出会いから、松葉さんの作風の背景、器の形状と花いけの季節感など、楽しいお話です。

ふたりの出会い

齊藤 松葉くんとは、本人に会うより先に、器の方と出会ってるんですよね。僕がなげいれの教室をやっている大阪の 「花器工藝汀」さんに、松葉くんの花器があって、ワークショップか教室で使わせてもらったのが最初です。

松葉 僕も一方的に齊藤さんのことを知っていたんです。齊藤さんのインスタを見て、すごいかっこいいお花を生けられるなって、しかも男性なんやって。汀さんから今度齊藤さんが来られるときに参加してみたらどうですかっていう感じだったと思います。お花は自分で生けているというほどでもなかったので、参加してみたいなと思って。齊藤さんの教室に参加したのが初対面でした。

齊藤 僕が最初に松葉くんいいなと思ったのは、鍬形の須恵器で、掛け花入でした。

松葉 平たいのですね。当時、農機具とかをモチーフにして、掛け花をたくさん作っていたんです。今回、小灯さんに送らせてもらったのは、昔の青銅器のイメージを掛け花にしたらどうかなというので作ったものですけれど。結構、ああいう形が好きなんです。それを齊藤さんが面白いと言って買ってくれはったよということをお聞きして、すごく嬉しかったのを覚えています。

陶芸との接点は高校生の時

齊藤 松葉くんが陶芸を始めたきっかけというのは?

松葉 図画工作や美術は好きだったんですけれど、そういう方向に進むつもりはなくて。たまたま美術系の学校のオープンキャンパスに行って、いくつかの中から陶芸を選んで電動轆轤をやってみたら、 「君すごく上手だねー」とか褒められて。たぶん人を集めたいから言ってくれたんでしょうけれど、当時高校生だったので”僕って結構上手なのかもしれん”とちょっと思ってしまいまして。そういうのが頭に残っていて、後々始めたというのはあるかもしれません。



花いけ:齊藤謙大 / 器 「黒釉俵壺」:松葉勇輝

齊藤 違う職種に就いていて、それから陶芸をやりたいなと思ったんですね。

松葉 そうです。25歳の時に仕事を辞めようと思って、26歳になったら何か新しいことを始めようと。仕事に疲れていたというのもあるんですけれど、その世界で自分があと10年20年やっていけるかというと、もうちょっと違うものに10年くらいかけてチャレンジしてみたいと思ったんです。それで転職を考えて、やるんだったら工芸とかクリエイティブなことがいいなと思って陶芸を選びました。その時は信楽とか備前焼の職人になりたいと思っていました。

齊藤 高校生の時の体験が後押しになったわけですか?

松葉 実は、その上手だねと言われた記憶があったので、大学生の時にも少し陶芸をやっていたんです。美大ではないんですけれど、大学の中に陶芸の施設もあって。僕は文芸学部で、美術とか文学とかいろんなことを学べるところで、体験という程度でしたけど、いろいろ選べる中から陶芸を選んでやっていました。

自分が美しいと思うもの

齊藤 技術的なことはどうされたんですか?

松葉 職人の道も考えたんですけれど、飛び込む勇気もなくて。大学の時に陶芸を教えてくれた先生に、どういうところで陶芸を学ぶといちばんスピーディに技術を学べるかと聞いてみたら、清水焼の職人の学校があるから、京都行ったらどうや~ってなって。その訓練校に1年行きました。それから3年弟子入りして、そして釉薬の勉強を1年して独立しました。いま39歳なので、陶芸始めて15年くらいになります。遅いスタートでしたけれど。

齊藤 松葉くんの作風がいまのこういう感じになっているのは、どういうところからなのかなというのはすごい興味があります。

松葉 装飾的な花器に花がすごい豪華に生けられている、そういうものには自分は違和感があったんですね。もっと自然な方がきれいなんちゃうかな、焼き物も花も。みたいな感じには思っていました。だから、自然釉の焼締とかそういったものが好きで、すごい手の込んだ装飾がされた物も好きですけれど、自分はそういう焼き物ではないんかなと思ってました。

齊藤 それはもともと自分が古いものが好きで、装飾されていない感じの作風になっていったんですかね。


花いけ:齊藤謙大 / 器 「焼き〆筒花入」:松葉勇輝

松葉 清水焼って染付で絵付けがされていて、磁器で薄づくりで、すごく華やかな焼き物だと思うんです。たぶんきっかけというのはその前で、仕事を辞めて清水焼の訓練校で技術を学びます、と言って仕事を辞める時に、そこの社長さんが古い焼き物のコレクターというか、そういうものが好きな人で、僕に朝鮮の器をくれたんです。これ何かわかる?って渡されて、いや、わからないです。すごい古いでって言われて、鎌倉時代ですか?って。合ってるけど、国が違うね、とか言って…。まったくわからない状態で触れた、そういう物がきっかけやったかもしれないです。

齊藤 それはすごいですね。

松葉 もともと生まれ育った家は、薪でお風呂を沸かすような家なんです。
中学時代とか恥ずかしくて。だけど今思うと、そういうところからも、朽ち果てているものとか、錆びているものとかを美しく感じたりっていうのは、あったのかなって思います。
大阪と奈良の県境くらいの里みたいなところで、地域のつながりも強くて、お祭りにはみんなが参加するような昔ながらの村です。そこで僕のおじいさんが製材屋をやっていまして。製材屋の倉庫とかも残っているので、ボロボロになったトタンのところで、小っちゃい頃は遊んでいたんです。クレーン車が錆びて野ざらしにされているとか、そういう場所で育ったというのは、たぶん自分の作風に影響していると思います。そういうものが美しいと感じます。

齊藤 僕も古いもの好きです。住んでいたところも田舎なので、裏に作業場みたいな長屋みたいなのがあって。農機具を入れてたりとか、使ってないんだけど、建物自体は残ってたりとか。そういうところって物置になっていて、いろんな物が雑多にあって、そこをひっくり返すと、いろんなものが出てきてすごく面白かった記憶はあります。僕が小学生くらいですかね。幼少期の影響というのは、何かしらあるのかなと。

松葉 家は器にこだわっているような両親ではないですし、暮らしからこう育ったというものはないと思うんですけれど、何か探してみると、自分はそういうものやったのかなと思います。

器の形による見え方

齊藤 今日は小灯さんに来て、春のワークショップの告知のための撮影で、松葉くんの花器に花を生けました。

松葉 すごく嬉しいです。料理人の方と仕事することも多いんですけれど、齊藤さんが使ってくれるのはその感覚と近いです。僕がつくる物はすごく地味でいいと思っているんですけれど、食べに行ったり、花を生けられているところを見に行くと、すごく華やかになっているので、自分の器も頑張ってるなと思ったりします(笑)。
以前、齊藤さんが生けるところを見せていただいたら、齊藤さんは指なんですけれどピンセットで挿しているような感じで生けられていて、すごく繊細だなというのを感じました。

齊藤 松葉くんの花器は、ホントに素朴だなというのは思います。草花自体も素朴な部分というのは多々あるんで、入れやすい器だと思います。フォルムとか焼けとかももちろん松葉くんそのものなんだけれど、ただ素朴なだけじゃなくて、無骨な枝を入れても合うし、やさしい草花を入れても生き生きとしてくる器だなと思いますね。色がない分、どっちにも行けるのかなっていう部分はあります。

松葉 ずっと小さな小壺をたくさん作っていたんですけれど、それを写真に撮ってみると、すごく大きく見えたりすることがあって。僕は石黒宗麿という人の作品が好きで、小さな壺なんですけれど、最初それが大壺だと思っていて、美術館で実物を見たらすごい小っちゃい花器だったということがあって。僕も形で大らかに見えるし大きく見えるということは、すごく意識して作っているんです。だから、齊藤さんのお花が入って、僕の器が膨らんで見える、大きく見えるというのは嬉しいですね。時代が違うので、おしゃれというとまた違うかもしれませんけれど、石黒宗麿みたいなモダンなというか、そういう焼き物をやれたらいいなと普段から思ってやっています。


花いけ:齊藤謙大 / 器 「焼き〆壺」:松葉勇輝

齊藤 形状的には、自分でこういうのを作りたいというのはもちろんあると思いますけれど、料理家さんとか使い手の人から、こういうのが欲しいんだよね、というケースはどうされていますか?

松葉 意外に、こういうものが使いたいんだよね、と言われたりするのが嬉しくて。たとえば齊藤さんだったら、 「水盤見てみたい」と言われたこともすごく覚えているんです。それでいつか水盤をと思っています。料理人の方も、こんなのあったらなと言われたのは頭の隅にあって。
人のために作るというのは、たとえば同世代の人のためにと言われても全然イメージ湧かないんですけれど、齊藤さんだったらこんなこと言ってたなとか、イメージしやすいのでリクエストも好きです。

齊藤 東京はマンション住まいの人も多いし、そんなに大きな家に住んでいる人も少ないかもしれないので、今回は掛け花とかあると、広さとか場所をそんなに気にしないで使うことは出来るかなと思ったりもします。
もちろん、個人的には水盤もほしいんですけれど(笑)。ただ水盤と言っても、形状的にはいろんな形があると思うんですよ。松葉くんがどういう水盤を作ってくるのか、すごい楽しみにしています。

松葉 最初にパーンとイメージが入ってきたのは、青磁の水仙盆という横長のもの。水盤というより、形が丸っぽい形なのかなとか…。いろいろ作ってみようと思います。

齊藤 水を張れる、水の見える器、というのがあったら面白いかなと思います。口が細いものは生けやすいのは生けやすいんですけれど、その中でいろいろ遊ぼうとか、いろんな景色を描いて行こうとなると、口が細いと限られてしまう部分はあるのかな。もちろん、それはそれでいいんですよ。水が入っていて、その中に草花が入っているという景色も、松葉くんの器で作ってみたいなっていうのがあって。具体的にどういうのっていうのはないし、言っちゃうとつまらないし(笑)。


花いけ:齊藤謙大 / 器 「焼き〆種壺」:松葉勇輝

松葉 齊藤さんは口の広いのも欲しいねと言われるんですけれど、ほとんどの人は口の狭いのがいいなって。技術がなくても花が入った時に決まりやすいんで。ということもよく聞くんです。僕も天の邪鬼なので、掛け花の口を大きくしてみたりとかしてるんですけれど、齊藤さんはもっと大きくしてもいいかなって言うんで楽しいんです。

齊藤 口が広いからってたくさん花を入れなくちゃいけないわけではなくて、口が広いとそれだけ余裕があるんですよね。余白がたくさん出来てくるんですよ。だから、シンプルに1本でも2本でも入っている雰囲気と、細い口に1本2本が入っている雰囲気というのは、全然その植物の見え方も違うと思うんですよね。
どういうふうに口が広いか、というのもあると思うんですよね。シュッとしているところでフワッと口が広くなるのかとか。自分はどっちかと言ったら、あまりボテッとしているよりは、スッとしてくれていた方が、草花も器も映えるような気がしているんです。もちろんボテッとしたかわいらしさもあるんですよ。だから、いろんなフォルムがあると、使う方としては、すごいバリエーションなんですね。
植物って毎年変わらないじゃないですか。同じものが同じ時期に咲いて、同じ時期になくなっていって。いろんな植物の入れ替わりって、毎年同じなので、それをどういうふうに入れていくか。変えられるのは器とか場所。もちろん枝とかもその時々で形とかは違うんですけれど、器が変われば、入っている花の雰囲気も変わってくるというのは間違いなくあるんじゃないのかな。なので、いろんな形状の器をお願いいたします。

松葉 今の話の中にも、いくつかヒントがあったので、いろいろやっていけそうです。

季節感を取り込む器

齊藤 今回のワークショップは3月後半~4月頭なので、まだまだ植物も出始めなんですよね。本格的に出て来るのは、4月後半とか、それくらいからになってくるかな。
今回はお花見の時期なので、桜の花とかもあるかな。秋の草花はどっちかというと背丈が高いんですけれど、春は背丈が低いので、そういう草花が主になってくるかなと思います。低めの器でも幅があってくれると、背丈の低い草花をいろいろ入れられるじゃないですか。器の背が高くて口が広くなってくると、小さい花を入れた時に、そんなにバランスよくないのが出て来る。だから、低い草花がある程度入る感じの器というのは、あったら来る人も喜ぶと思います。自分もいろいろアプローチできるので。


花いけ:齊藤謙大 / 器 「白磁小壺」:松葉勇輝

松葉 それって、すごく面白いです。季節感ですね。そういうことはいつも聞きたいなと思います。

齊藤 話が戻っちゃいますけれど、やっぱり水が見えるときれいですよ。水を張ってみて、それを見てどういう草花を入れようかなっていうのも想像出来たり。

松葉 大きいお皿とか大きい鉢に水を張って生ける、ということもされますか?

齊藤 はい、します。好きです。昔の青磁とか、脚が付いていてちょこっと高さが出てるのとかありますよね。それだけでも軽くなるんですよね。そういうのも面白いですね。春の草花は、たくさん入れることができれば、本当に面白いですよ。イメージ的には、松葉くんの家の周りにも山はあると思うんだけれど、山に入っていって、そこからすくい採ったものを入れられるような器。そのままスコップでもいいのですくい採って、それをそのまま器に入れたらどうかなっていう、感覚的にはそういう感じです。

松葉 なるほど。齊藤さんが 「これはすごく苦労したな-」っていう花器があってもいいかなと思います(笑)。

齊藤 そういうの大募集しています(笑)。考えながら生けるのはすごく好きです。この器、どう生けようかな~というのは、面白いですね。

松葉 できれば一つ一つ、全然違うものを作っていきたいと思っています。 焼締でも、自然釉がかかって激しい物があったり、あっさりしている物があったり、須恵器風に焼いている物があったり。そんなふうにして、これホントに一人の作者なの?というような面白さができたらベストです。

齊藤 むちゃくちゃ楽しみにしています。

 

齊藤謙大 「春の野草 いけばなワークショップ」

齊藤謙大

「春の野草 いけばなワークショップ」

2023/3.31㊎、4.1㊏、4.2㊐
@ 小灯 cotomosi/新宿

3.31㊎13:00〜16:30
4.1㊏10:00〜13:30/4.1㊏15:00〜18:30
4.2㊐13:00〜16:30
定員:各回4名
費用:13,200円(税込) 花材・お茶・お酒代込

小灯 cotomosi
160-0022 東京都新宿区新宿2-4-2 カーサ御苑602
tel. 03-6262-6542
https://cotomosi.com/cotomosinokai_016.html

松葉勇輝<br>「花の器」展

松葉勇輝

「花の器」

2023/4.7㊎、4.8㊏、4.9㊐ 12:00-18:00
@ 小灯 cotomosi/新宿

小灯 cotomosi
160-0022 東京都新宿区新宿2-4-2 カーサ御苑602
tel. 03-6262-6542
https://cotomosi.com/cotomosinokai_017.html