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いい木目、いい木味
その気持ちよさを伝えたい
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根本
佃さんが以前、いい木を使わないと技術が身につかない、というようなことを仰っていたのが印象的です。いい材に出合って、技術が身についたら、それを何とかしようと思うのも一つだけど、佃さんは木と向かい合い、たとえ失敗しても、いい木と仕事をした方がよいと。佃
僕らの仕事は、素材を生かす仕事なんでね。だから、最初から「これでもいいか」というような木を使うと、「この程度の木やし、こんなもんでいいか」という仕事になってしまう。でも、「これは失敗できない」というとっておきの木を使うと、やっぱり心がけが変わってくるんですね。根本
なるほど佃
それと、いい木目とか、いい木味というものが、今ひとつ一般のお客様に伝わりにくいですね。いい木でつくられたものって、やっぱり気持ちがいいなって。そこを表したいし、伝えたいって思うんです。根本
木目のよいものと見比べる機会がなかなかないから、お客様も何となくいいなとは思うけれど、どこがいいかってなるとまだ伝わっていないこともありますね。佃
見たら感じる、というだけでも、わかってらっしゃるんですよ。「何かいいな、何がいいんだろう、木目かな」っていうくらいに印象を残せた方がいいなと思っています。根本
大事なところなんですね。ギャラリー側としても、お伝えしていきたいです。
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佃
今、注文でつくっているものに、「手紙入れ」があるんですけど、それは典型的ないい木目で、クジャクの模様のようになっています。京都の由緒ある建物を別邸とされている方からの注文で、箱の中にはこの家だけで使う家族専用のレターセットが納まります。それは唐紙屋さんに版木からつくってもらったオリジナルのものです。その横に、香木を入れておくスペースがあって、この家の香りを香木屋さんに調合してもらっています。根本
素晴らしいですね。箱は、参考になっているものがあるんですか?佃
正倉院の箱をアレンジしています。位の高い方が使っていたもののように、少し台を付けて底を上げて、気品のある雰囲気にしています。根本
工房を構えているのが京都ということもあると思いますけど、注文品は、つくり手の技術を支えてくれる一番の仕事でしょうね。佃
勉強になりますね。たとえば、昔の人がつくった香木を入れる小箱があって、これと同じものをつくってくれとか言われます。引出しのあるすごく小さな箱で、品があって、よく見ると真四角ではなくて、上面がちょっと膨らんでいる。こういう曲面は、機械では無理で、鉋でないと取れないんです。引出しの小さな取っ手も銀細工でできています。根本
その銀細工のパーツにしても、こういう物がつくりたいという時に、職人世界の横のつながりというのが、京都ならではのシステムに組み込まれているんですね。佃
京都も減ってきていますよ。あることはあっても、そこはものすごく値段が高いとかで、なかなかちょうどよい所はなくなってきました。 -
京都のものづくり
注文の仕事で培う技術
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根本
それはもったいないですね。こういう仕事は、やりがいのある仕事でしょうし。佃
小さい物をつくるには、どういう木目を使うかという面白さがあります。細かい木目でないと、大柄な木目では映えない。盆栽と一緒で、大きな箱をそのまま小さくしたような風につくらないとってことです。根本
京都らしい仕事を通して、いろいろな発見があるでしょうし、ますます楽しみですね。
ところで、11月に銀座の「日々」で、佃さんの作品展をさせていただくことになっていますが、何か決められていることはありますか?佃
指物の箱をいくつか出そうかと。ヨーロッパやアフリカの木材を使った、ちょっと面白いものがつくれそうです。根本
それは素敵ですね。
2年前の「日々」での作品展の時は、佃さんが美しい厨子をつくってくださって、お客様も興味をお持ちでした。チェストの上にちょっと置くようなものがほしいというリクエストもいただきましたよね。佃
はい。厨子はいろんな注文がありますね。キリスト教向けの厨子とか。根本
こういう時代になると、意識する方も多いですし。佃
仏壇ほど雰囲気が重くなくっていうものですよね。根本
そうです。李朝の家具のようなものだったり、厨子というよりは、大切なものを納める場所、飾り棚などを求めている方も多いようです。佃
わかります。考えておきますね。根本
楽しみにしております。有難うございました。
佃眞吾作品展
2012年11月9日(金)〜14日(水)
「木は植物です。
五感で見る事のできる素材。
落ち着きさえ感じさせる木目に
魅入ってしまうことがあります。
昔から、木の文様を「杢」(もく)、
木肌の変化を「産つ」(そだつ)と
愛でられてきました。
無意識のうちに手にとってみたくなるのは、
そのためでしょうね。」
ー 佃眞吾
» エポカ ザ ショップ銀座 日々
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分
インタビューを終えて
4年ぶりに訪れた佃さんの工房は、道具をはじめ、試作品や骨董が所狭しと積み上げられていました。
職人の世界で学んだ技術を、肩肘張らず貫き、佃さん流時間の中で作られた作品は使う人を豊かな気持ちにさせてくれるのでしょう。
さりげない佇まい、使うほどに味わえる上質な木工藝、早く使って楽しまないともったいない!と実感するインタビューでした。
根本美恵子
ギャラリー勤務を経て、2004年エポカザショップ銀座・日々のスタートとともに、コーディネーターを勤める。
数多くの作り手と親交があり、日々の企画展で紹介している。
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