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Interview 成田理俊/聞き手:根本美恵子さん (ギャラリー「日々」 コーディネーター)

繊細な鉄

成田理俊さんは、鍛鉄によって、美しい暮らしの道具を生み出す。繊細なのに素材感を放つ作品を眺めていると、重くて無骨なイメージの鉄から、こんなにも遠く、洗練された鉄の有りようがあるのかと驚かされる。インタビュアーは、銀座のギャラリー「日々」の根本美恵子さん。群馬にある成田さんの工房を訪ねて、素材に対し丁寧に几帳面に向き合う、粋な姿勢を追った。

造形屋の仕事の中で
溶接の面白さを知った
インタビュー風景
インタビュー風景

根本
昨年、「日々」では初めて、成田さんの作品展を開催させていただきました。すごくいいなと思ったのは、2つ目のフライパンを買いにいらしたお客様が多かったことです。私も昨年から成田さんのフライパンを使い始めて、そのお客様の気持ちがよくわかるようになりました。今日は、ちょっと難しいと思われがちな鉄という素材を、少し紐解くつもりでお話をうかがいたいと思います。もともと大学では油絵を専攻されていたそうですね。

成田
はい。抽象表現主義*1というか、絵の中心がないようなわかりにくい絵を描いていました。当時の現代アートの一つの型にはまっていた感じで、自分でも本当にテーマがあったかといえば、特になかった気がします。

根本
その頃、憧れている方がいらしたのですか。

成田
現代美術家の中西夏之*2さんが、オールオーバー的な油絵を描いていらして、そういうのを描きたいと思っていました。僕は美術予備校に行ったことがなかったので、大学入学時はあまり描けなかった。それでまずしっかり基礎を身につけようと思って、2年生まではまじめに具象を描いていたんです。3年からは抽象に進むと決めていました。

根本
大学院にも行かれたんですよね。

成田
はい。でもいろいろと事情があって中退し、結局絵はやめてしまいました。

根本
それから鉄を学ぶために、職業訓練校に入られたのですか。

成田
その前に2年ほど、造形屋さんで主にFRP*3のものをつくる仕事をしました。そこで僕は初めて溶接作業をしたり、立体的なものづくりと出合ったんです。同じ時期に、どこかで鍛鉄の蚊遣りを見た覚えもありますが、まだその時には何の興味もひかれなかったですね。仕事する中で、溶接は面白いと思っていましたけど、鉄の素材をいいと思う感覚はなかったです。

根本
そのFRPでつくっていたのは、大道具のようなものですか。

成田
そうですね。テレビ撮影やイベントなどに使うセットや、着ぐるみなんかもありました。

根本
そういうものづくりから、暮らしの道具というまったく違う方向へ進もうと思われたのはなぜでしょう。

成田
関係者の方には否定的な意見で怒られてしまうかもしれませんが、僕が造形屋さんでつくっていたものは、その時の撮影のためのものであって、人が使うためのものではなかったと思ったこと。ゴミも大量に出るし、ある意味で大量消費社会の産物。もっと自分で使えるもの、人の役に立つものをつくりたいと考えました。それで、身近な生活道具をつくろうと。素材として鉄を選んで、職業訓練校に行くことにしたわけです。

田舎暮らしとものづくり
その実現のため職業訓練校へ
工房風景
インタビュー風景
インタビュー風景

根本
鉄を選ぶことについては、あまり悩まなかったのですか。

成田
そうですね。造形屋さんでは木も使っていたので、木工もいいかなと思ったんですが、木を切る時に大量の粉の舞うのがちょっと苦手で。鉄も粉は出るけれども、重たいから舞い方が違うというか、木の粉よりはサラッとしてるというか、まとわりつかないというか。ちょっと変な動機ですけど、そんなこともあって、鉄の方がいいかなと。それと、田舎暮らしをしたいという理由もありました。

根本
将来設計の一つとして、田舎暮らしをしながら、ものづくりで生計を立てたいと思われたのですね。そのために鉄を選び、職業訓練校で学ぼうと。

成田
職業訓練校は溶接科の半年のコースで、溶接はかじる程度しか学べないです。それくらいでは鉄工所に勤めてすぐものがつくれるほどの技術は身につかないんですけど、僕はいずれ鉄を生業にしたいという考えがあったから、何とか頑張って溶接技術を身につけて、すぐに鉄工所に入れてもらいました。

根本
その鉄工所には8年間、勤められたそうですね。それだけの長い時間を費やして、今の成田さんの基本になる技術力を身につけられたのだと思いますが、鉄工所では主に何をつくっていらしたのですか。

成田
プラント関係を中心にやっていました。建物ももちろんですが、工場の設備、たとえばタンクや配管とかベルトコンベアーの骨組みとか。小規模なところからの注文も多く、どんなものにも対応している鉄工所でした。

根本
それはかえってよかったですね。さまざまな技術を習得するには。

成田
逆に、専門的すぎると、一定のことばかりやる感じで、幅広くは技術を身につけられない可能性があった。そういう意味では、僕の勤めた鉄工所は、昔ながらの鉄工所みたいな感じで、何でもやれるチャンスがありました。

*1
抽象表現主義:定形を否定した非幾何学的な抽象表現。第2次大戦後にアメリカ美術界で注目された。

*2
中西夏之:なかにしなつゆき 1935年生まれ 前衛美術家・現代美術家。

*3
FRP:繊維強化プラスティックの略称。繊維を入れて強度を向上させたもの。

成田理俊作品展

成田理俊作品展

2012/11/23(金)〜11/28(水)
@エポカ ザ ショップ銀座 日々

2012年11月23日(金)〜28日(水)

思い描く形があっても実現できないことが常々。
そして、大概はまた同じ形ができる。
素材や技法、技量の制限がある中、失敗を重ね、
それが記憶となり、できなかったことを
一つ一つできるようにしていく。
そんな繰り返しです。
ー 成田理俊

» エポカ ザ ショップ銀座 日々
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分