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Interview 成田理俊/聞き手:根本美恵子さん (ギャラリー「日々」 コーディネーター)

繊細な鉄

鉄工所に勤めて
ひたすら技術を身につけた
インタビュー風景

インタビュー風景
インタビュー風景

根本
鉄という素材を扱うには、硬い、重い、熱いなどのマイナス面もあります。働く上でも、非常に重労働を強いられますよね。

成田
僕より若い人で、入ると3日でいなくなったとか、ひどい時は1日しか来なかったとか、そういう話はよく聞きました。でも、生活もありましたし、とにかく技術を身につけたいと思っていましたから。どんな仕事でもそうだと思いますが、3年くらいやらないと、本当に自分はプロになれるのかって不安なものですよね。当時はまだ若くて、中途半端にしていることも多かったので、ここは我慢して頑張りました。

根本
訓練校で学んだことは、仕事に生かせましたか。

成田
どちらかというと、訓練校は技術よりも知識を学ぶ感じです。というか、手を動かせる時間も少ないですし。技術はやはり、鉄工所に入ってから学んだことが圧倒的に多かったです。

根本
鉄工所の仕事というのは、昔も今も変わらずに受け継がれているものなのですか。

成田
基本的に、溶接も含め、鉄を熱して加工する、という方法論は、昔から普遍的に変わらないものです。熱を加えないで行う冷間*4の加工もたくさんありますけど。ただ、物のつくり方というのは、日々変わっていきますよね。たとえば昔は橋を建造する際に、現代の溶接やボルト、ナットの締め付けの代わりに、すごく太い鋲を打って連結していたんですけど、今はそういうことは一切しなくなりました。僕のつくっているフライパンも、持ち手を取り付ける時に、手製のリベット*5という鋲を打ち込んで、叩きつぶして締結させていますが、これは「かしめる」という伝統的な技法です。現代的な方法で取り付けるなら、溶接すればいいわけです。

根本
技術を学ぶにしても、人間側にある程度の強さや図太さがないと、鉄に負けてしまったり、扱えないと思うのですが。成田さんにも、そういう芯の強さが備わっていて、そうでなければ鉄を選ばないのではないでしょうか。

成田
素材としての鉄というより、先輩や同僚が働いている姿に、現場作業の格好よさを感じていたところはあるかもしれません。人が溶接している姿って、格好よかったりしますよね。

根本
はい。ただ、かなりハードな仕事ですよね。

成田
確かに、命の危険を感じることは何度もありました。仕事場でも、職人が順番に怪我をしていくんです。次は自分かなと思いながらやっていました。鉄を削るグラインダーがはねて、首に当たって怪我をしたこともありますし、現場で高い所に上って作業した時には、毎度、命の危険を感じていました。

根本
鉄工所での8年間を通して、よかったと思うことはどんなことですか。

成田
現場へ行くことも結構多くて、限られた道具しか持っていなかったとしても、現場ではあの道具がないから仕上げられないとはお客さんに言えないですよね。あるものだけで何とかする。そこをすごく学びました。たぶん、今の僕の作品づくりの中で、いろんなことの応用力とか発想につながっている気がします。僕がつくっているのは、こんなシンプルで単純な形のものが多いですけど。

根本
現場の長だった職人さんたちは、そういうノウハウをたくさんもっていらしたわけですね。

成田
そうですね。やはり経験が物を言います。そしていろんなことを知ってました。知識やアイデアとか。

根本
独立する時に、こういうものだったらつくっていけるかな、売れるかな、というものはありましたか。

成田
鉄工所で技術は身につきましたけど、僕の今の作品をつくるための技術というのは、鉄工所を辞めた時点では、まだほとんどなかったんです。辞めたことで時間はできましたから、とにかく独学でいろいろ試しました。学生時代は西洋美術史の系譜を自分なりに辿って、解釈して、いろんな表現を真似て描いてみたりした時期もあって、それと同様に、鉄でも何ができるかっていうことの課題をつくって、たとえば棒を曲げたり、ねじったり、伸ばしたりとか、ロートアイアン*6の技術を次々と一通りやっていきました。当初は、家具とか門扉とか、そういう仕事を受けたいと思って始めたんですけど、結果的に、僕のところにはそういうニーズはあまり来なかったです。

根本
売り込みとかにも行かれたのですか。

成田
はい。群馬の建築関係の方とつながったりはするんですけど、仕事は来ないという状況でした。その頃からクラフトフェアにも着目して、少しずつ出していたんですが、何十万円もするような大きい作品は売れないですよね。周りを見渡すと、陶芸の人も木工の人もいて、小さいものをつくっている。それで僕も小さいものを売り始めて、その反応を見て次は何が売れるかなって考えたりしながらつくっていました。ものづくりとして、あまりいい方向性ではないかもしれませんけど(笑)。

根本
でも、そういう模索の時間を経る中で、暮らしの道具に焦点を絞っていったことによって、一気に道が開けてきたと仰っていましたよね。自分のやるべき鉄の仕事が見えてきたと。

成田
そうですね。フライパンとの出合いは大きいですね。

必要なのは
技術と応用力と発想力
工房風景

*4
冷間:室温もしくは再結晶温度未満で金属成形を行う加工法。

*5
リベット:金属板などをつなぎ合わせるための鋲。対象物の穴に通してから、端を叩き潰して固定するため、半永久的な締結用途に用いる。

*6
ロートアイアン:本来はヨーロッパで発展した手工芸鍛造のことで、炉に入れて熱した鉄を、ハンマーで叩いたり、のばしたり、ねじったりして成形する。自由な造形や質感などが特徴。

成田理俊作品展

成田理俊作品展

2012/11/23(金)〜11/28(水)
@エポカ ザ ショップ銀座 日々

2012年11月23日(金)〜28日(水)

思い描く形があっても実現できないことが常々。
そして、大概はまた同じ形ができる。
素材や技法、技量の制限がある中、失敗を重ね、
それが記憶となり、できなかったことを
一つ一つできるようにしていく。
そんな繰り返しです。
ー 成田理俊

» エポカ ザ ショップ銀座 日々
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分