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Interview 西川 聡/聞き手:広瀬一郎さん(「桃居」オーナー)

原始の色と乾いた風と

造形的な器
食べるため飲むための器
インタビュー風景

インタビュー風景

広瀬
西川さんはご自分の仕事について、2つの仕事があると言われていますね。

西川
わかりやすいように言っていることですけど、一つは「造形的な器」で、本来はこちらの方が好きなんです。もう一つは「食器」という食べるため、飲むための器。日常の器を真剣につくろうと思ったのは、結婚して家族ができてからです。独身の時は、自分だけのことだから生活なんて呼べるような生活ではなかった。でも、家族ができると生活ってちゃんとしますね。洗い物もするし、洗ったものを戸棚に入れなきゃいけないし。そうすると、このサイズでは入らないだろうとか、つくるものにリアリティが出てくる。それはやっぱり買う側の皆さんが考えていることと一致するわけです。

広瀬
それはいいことですよね。

西川
それと僕は「空間」のイメージがすごくあるんです。食器ならば、自分が食べたい空間みたいなものが、ずっとあって。

広瀬
空間の中に置かれた器の姿が、イメージされているということですね。

西川
たとえば、昔の民家の堅牢な空間で、厚みのあるテーブルでというと、器もそれなりの存在感のあるものじゃないと負けてしまう。だけど現代の核家族家庭では、夫婦2人とかプラス子ども1人とかだと、90センチ角の量販店で買ったようなテーブルでも間に合う。そういうテーブルに、堅牢な空間に合うような器をもってきてもおかしいから、一見存在感はあるんだけども、シンプルなデザインで、現代の空間に合うものがいい。マンション暮らしには、器のサイズを少し小さめにとか。僕ら世代の生活に、ちゃんと尺度を合わせるということを、ずっと考えてきました。

広瀬
それと、使い勝手がいいだけではつまらないという部分もありますよね。そこが西川さんの2つの仕事にもなるのでしょうけど、日々使うのにすごく気持ちよく使える器がある一方で、これはちょっと使うのがむずかしいかな、でも工夫して自分なりに面白い使い方を発見した時には、すごく喜びを感じるだろうなという器もあります。

西川
そう感じていただけるとうれしいです。

広瀬
僕は西川さんの土器的なフォルムが好きなんです。初期の西川さんの作品を見ながら、西川さんは土器も好きだろうなと思っていましたけど、土器を焼くことは今までになかったんですか。

西川
ないです。今度の桃居さんでの展覧会に、そういうものを出したいですね。

広瀬
使える土器というようなものですか。

西川
はい。土器ではないんですけど、土器っぽいものをやってみたいなと。ちょっとインチキな方法で(笑)。

広瀬
それはぜひ形にしてほしいです。ほかにも、桃居での展覧会に向けて、考えられているものはありますか。

西川
黒い器の新バージョンをつくろうと思っています。

広瀬
今日は有難うございました。

工房風景

工房風景

インタビューを終えて

西川さんが美大を卒業したのは、1991年。
ちょうどバブル経済がはじけ、それまで右肩上がりで成長してきた
戦後の日本経済が大きな曲がり角をむかえ、停滞と縮小へと舵を切り始めた時でした。
工芸の世界でも、その辺りからそれまでのパラダイムが賞味期限きれとなり、
新しいプラットフォームが模索されます。
西川さん世代はその水先案内人としてすでに20年のキャリアを積んできました。
ここにきて若い陶芸家の台頭には目覚ましいものがありますが、
それには西川さんたちのが切り開いてきた新しい陶芸への挑戦があったからこそでしょう。
誰にも倚りかからず、何かを頼りとせず、自前のヤキモノのコトバを紡ぎ出してきた
西川さんさんの仕事はまだまだ進化を続けているようです。

広瀬一郎

1987年より西麻布にて器のギャラリー「桃居」を営む。
» 桃居

西川 聡 陶展

西川 聡 陶展

2012/11/16(金)〜11/20(火)
@桃居/東京

2012年11月16日(金)〜11月20日(火)
桃居 http://www.toukyo.com

03-3797-4494
東京都港区西麻布2-25-13