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panorama Interview 安齊賢太「触りたくなる器」

Interview 安齊賢太「触りたくなる器」 1/3



聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子 / Jan. 2014

「一生懸命につくる」。安齊賢太さんがいつも胸に抱いているというこの言葉は、陶芸家・黒田泰蔵さんからの教えでもあります。美大出身ではなく、ずっと器にも物づくりにも縁遠かった安齊さんは、サラリーマンを辞めてから陶芸に目覚めたそうです。いま安齊さんが無心につくっているのは、陶胎漆器に似たオリジナルの黒い器。手間を惜しまず、一生懸命につくる姿勢によって、左官仕事を思わせるような独自の質感をもつ器が生み出されています。インタビュアーは銀座「日々」の根本美恵子さんです。

サラリーマンを経て、陶芸の世界へ

根本 安齊さんとは、昨年「日々」にお越しいただいたことがきっかけでご縁が始まりました。初めての作品展を2月21日から行わせていただきますけれど、まず今に至るお話を伺いたいと思います。もともと美術系の大学ではなかったそうですね。

安齊 はい。文系の大学を卒業後、東京で医療機器や健康機器のメーカーに就職しました。ものをつくること自体は好きでしたけれど、そういうこととは縁遠い生活で、それを仕事にするという発想もまだなくて、普通に大学へ進んで普通に就職しました。

根本 職種は営業ですか。

安齊 そうです。

根本 時世的には、医療・福祉関係は伸び盛りですよね。

安齊 自分としては安定しているというか、リスクのない道を選んだつもりでした。実際に働いてみて、金銭面での不安はなかったんですけれど、将来に対して不安を持ってしまったんです。この生活をずっと続けて行くのかと。それで、せっかくなら自分のやりたいことをやろうと思って始めたのが陶芸でした。でも、たまたま陶芸だっただけで、民藝運動に感動してとか、何か陶芸に対して強い思いとか大志があったわけではないです。

根本 勉強するために、京都伝統工芸大学校をお選びになられたのには、何か理由があったのですか。

安齊 いろいろ探した時に、陶芸を教えてくれるところとして見つけました。

panorama Interview 安齊賢太「触りたくなる器」インタビューイメージ画像

根本 でも、いわゆる窯業訓練校というのは全国にいくつもありますよね。

安齊 そういう知識すらなかったんです。ものを学ぶ上で学校に行かないとならないというだけで、ほかに知識もなく、自分で見つけられたのがそこでした。

根本 京都伝統工芸大学校は、伝統工芸の職人さんを育てることを目的としている学校というふうに認識していたんですけれど。

安齊 陶芸だけでなく、木工とか金工とか、京都で使われている伝統工芸の後継者を育てる学校です。講師の方は、京都で活躍されている作家さんとかです。

根本 卒業されて、職人さんではなく、作家さんとして活動されている方もいるわけですね。

安齊 はい。僕の友達にも作家をやっている人はいます。でも、入学した当初の人数から考えると、独立するまで続けている人は少ないかもしれません。

根本 いま安齊さんがつくり手として用いている基本的なノウハウは、この学校で習得したものですか。

安齊 轆轤の挽き方をはじめ、技術的なことはほとんどそうです。

安齊賢太 作陶風景

根本 公営の学校ということですか。

安齊 当時は、財団法人の運営でした。月曜から金曜日までと、僕は土曜日も自主的に通っていました。その頃は技術的に上手になればいいものがつくれるようになると思っていたので、練習ばかりしていました。

根本 何年間通われたのですか。

安齊 2年間通いました。

イギリスの陶芸スタイルに触れて

根本 卒業後、イギリスに渡られることになったそうですが、何かきっかけがあったのですか。

安齊 陶芸自体に最初からそれほど目的を持って始めたわけではなかったので、自分の中でやりたい陶芸というものが決まっていなかったんですね。産地へ行ったり、作家さんの工房へ行ったりしてもよかったんですけれど、決まった種類の陶芸を見るよりは、いろんな種類の陶芸を見たい時期でしたし、個々の作家さんが多いところで勉強したいなと思ってイギリスへ行きました。

根本 個々の作家さんが多いとは?

安齊 イギリスはウエッジウッドとか産地もありますけれど、作家さんが個々に始めた陶芸が多くて、いろんな種類があります。たとえば日本の作家さんでも、伊万里をつくっていますとか、三島手つくっていますとかいろいろあるじゃないですか。そういうのではなくて、個人の作家さんは個人のやり方でつくっているんです。

インタビューイメージ画像

根本 オリジナリティということですね。

安齊 良し悪しは別として、個々の人がみんな違う物をつくっていてとても面白いです。僕がいまもすごく大事にしているというか、イギリスで学んだことですけれど、向こうの作家さんは仕事としての陶芸というよりは、陶芸で生きて行くという感じなんです。これはうまく言葉にできませんが、似ているようでちょっと違っていて。ほかと比べて個性を出そうとか、そういうことではなくて、本当に自分の生き方として陶芸をやっている感じなので、意識しなくても個性的で、お金の稼ぎ方にしてもとても健康的というふうに僕には見えました。そういうスタイルがいいなと。

根本 捉え方がファインアート的な感じもあって、表現の一つとしての焼き物というか。おそらく日本の焼き物とは成り立ちとか、歴史的背景の違いが大きいですよね。安齊さんが学ばれたダニエル・スミスさんという方については、いつ頃からご存知だったのですか。

安齊 イギリスに行ってからです。何の当てもなく行ったので、向こうでたまたま知り合った人から、作家さんがいろいろ紹介されている本があると聞いて。その本の中で自分の興味ある人に何人かメールを送って、来てもいいよと言ってくれたのがダニエル・スミスさんでした。

根本 そこではどんな生活を送っていたのですか。

安齊 語学学校に通っていたので、週に何日か、学校が終わってから手伝いに行っていました。イギリスは一つの場所を数人でシェアしてアトリエにしていることが多くて、ダニエル・スミスさんのアトリエも、列車の高架下の倉庫みたいなところにあって、そこにはいろんな人のアトリエが集まっていました。僕は土揉みとか釉薬の調合とか、窯のメンテナンスとかをしていました。学校では習っていない部分をやらせてもらったり、それと仕事が終わってから向こうは轆轤の回転が逆なのでそれをやらせてもらったりしました

根本 そのままアシスタントになっていくことは考えなかったのですか。

安齊 もちろん行っている間は、このままここでやってみたいなと思ったりもしたんですけれど。金銭面を含めて、自分で時間を区切ってイギリスへ行ったので、最初に決めていた予定通りに帰ってきました。イギリスでは、ほかの作家さんの工房の窯焚きとか、薪窯づくりとかのお手伝いもできたので、とても充実した時間を過ごせました。今でも機会があれば、また行きたいなと思います。

安齊賢太展

安齊賢太展

2014/2/21(金)〜2/26(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分