panorama

彫りと釉の情緒

Interview 生形 由香「彫りと釉の情緒」 1/3

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子/Aug. 2014

どこか大陸的な薫りがする生形由香さんの陶器。釉薬の下からさり気なく見えている紋様は主張しすぎず、匂い立つ情緒が心地よいものです。シンプルな形の器に、紋様は一つ一つ手で彫られていて、その入れ方によって釉の流れが変わり、落ち着いた美しい色彩や表情が生まれるそうです。インタビュアーは銀座「日々」の根本美恵子さん。穏やかに、芯をもって自分らしさを表現される生形さんのものづくりが見えてきます。

大学卒業後に始めた陶芸

根本 生形さんは美大出身ではないそうですが、どのようなきっかけで陶芸に興味を持つようになったのですか?

生形 子どもの頃からずっと、近所の教室で油絵を習っていて、絵を描いたり、物をつくったりすることが好きでした。けれども、それを仕事にするというのは特別なことというか、才能ある人のことと思っていたので、美大へは行きませんでした。仕事は別なことをして、好きなことは趣味でやるのがいいのかなと。でも、普通に英文学科へ進学して、いざ就職活動という時になったら、全然やる気になれなくて、やっぱり仕事は好きなことをしたいと思うようになったんです。何ができるだろうかといろいろ探している中で、たまたま陶芸の学校を見つけました。

インタビューイメージ画像

根本 たまたまということですが、日本の工芸がいろいろある中で、ガラスでもなく、漆や染織でもなく、やっぱり陶芸というのは、生活の中で身近なものだったからなのでしょうか。

生形 母の影響もあるかもしれません。私が子どもの頃、母は少しだけ陶芸教室に通っていたことがあって、仲間と産地を訪ねたりしていました。食器棚には、母が買ってきた益子焼や焼き締めの花器や皿などが、自作の器と一緒にいっぱい並んでいました。

大人になって、陶芸をやりたいと思ったのは、染織や木工などいろいろと見た中で、全てを自分の手でつくれる、手の中で細部までつくれるというのが陶芸で、そこがよかったからです。それで陶芸の学校へ行ってみたら、もう楽しくて(笑)。

根本 愛知県の職業訓練学校*1でしたね。いろいろな産地に学校がある中で、愛知県を選ばれた理由はありますか。

生形 たとえば当時の益子の訓練校の場合、県内に住んでいないと入れなかったんです。瀬戸は居住地に関係なく全国から募集していました。

根本 訓練校ではどういうことを教えて下さるのですか。

生形 広く浅く、あらゆる陶芸の知識を教えてくれます。土の練り方から、轆轤、絵付け、石膏型など、さまざまなことを。

工房風景画像

根本 最初からオブジェではなく器をつくりたいと思ったのですか。

生形 最初は果たして自分に何ができるのかという手探りの状態でした。だんだんとやっている内に、使えるものをつくりたいという思いが強くなってきたのです。

根本 卒業制作は瀬戸焼らしいものをつくったのですか。

生形 瀬戸焼とは呼べないですね。課題に色絵付けがあって、赤や黄色など何色もの上絵をほどこした、かなりゴテゴテなものでした。

根本 訓練校は1年間ということですから、あっという間でしょうね。卒業後はみなさんどうされるのですか。

生形 基本的には、卒業後は就職しなければいけないのですけれど、多治見の学校へ行く人もいました。どちらかの産地へ行って働く人や、陶芸教室の先生をする人も多かったです。

益子の窯元で働きながら学ぶ

根本 生形さんは卒業後、益子の窯元に就職されたわけですが、何が決め手でしたか。

生形 自分でいろいろと産地を回ってみたものの、なかなかピンと来るところが見つからなくて、先生に相談したところ、とりあえず卒業生の窯元で働きながら考えてみたらということに。益子の窯元の方が訓練校の卒業生だったことから、先生に紹介していただきました。

工房風景画像

根本 窯元では主にどのようなことをされていたのですか。

生形 窯元の仕事というのは自動の轆轤で、大量生産の手伝いでした。でも仕事が終わってから毎日、普通の轆轤を教えてもらって、課題も与えてもらって勉強していました。

根本 今でも窯元で働くと、仕事をこなした後で、自分の時間として学びながらつくることができるのですか。

生形 益子の窯元はそういう感じだと思います。

根本 それはいいことですよね。生形さんは何年くらい窯元で働かれたのですか。

生形 3年弱くらいです。窯元で働く傍ら、陶芸家の鈴木稔*2さんの工房でもアルバイトをしていたので、窯元を辞めてからしばらくの間は、鈴木さんのところでアルバイトを続けて、その後、独立しました。

根本 そうでしたか。鈴木さんは釉薬のきれいな仕事をされる方ですよね。その頃、生形さんはどういう物に興味があったのですか。

生形 とにかく釉薬のテストをするのが楽しくて、いろいろ混ぜて試したりしていました。

工房風景画像

根本 それは私が生形さんと最初にお会いした時にも、制作の中で何がお好きかと尋ねたら、釉薬を試すのが好きだとおっしゃっていましたね。

生形 はい。ずっと変わらないです。

根本 釉薬のどこにいちばん魅力を感じていますか。

生形 土や焼き加減によっても変わってくるし、微妙な鉄分の差でも表情がガラッと変わったりします。窯に入れて出してみないと結果が分からない、そこがいちばん面白いところですね。

*1 職業訓練学校:
瀬戸市にある愛知県立窯業高等技術専門校のこと。

*2 鈴木稔:
1962年埼玉生まれ。高内秀剛氏に師事後、96年に独立。益子の土を使って石膏型(割型)で成形、伝統的な釉薬をモダンに用いた作品が多い。

生形 由香展

生形 由香展

2014/9/12(金)〜9/17(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/

03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分