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彫りと釉の情緒

Interview 生形 由香「彫りと釉の情緒」 2/3

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子/Aug. 2014

産地で作家に

根本 日本人は誰でも独特の焼き物観というか、他の国にはないような焼き物に対する審美眼を持っているということを、常々感じています。子どもの頃から自分の器を持って生活しているから、それが時には壊れてしまって、残念に思ったり、また新しい器を大事にしたりということを繰り返し経験し、でも、そういう国というのは世界でも少ないのだと思います。益子は産地だけに、みなさんの焼き物観も厳しいところはあるのではないでしょうか。

生形 益子の人は、焼き物に関わっていない人も、焼き物に対する理解はすごくありますし、よく応援してくれます。

根本 先ほども生形さんの工房の大家さんがいらして「生形さんの作品はいいよ。軽いし、あか抜けているからね」とおっしゃっていて、本当に応援されているのだなと私も感じました。

産地で制作されていることで、産地的な括りとして何か質問されることはないですか。

生形 私自身の作品についてはあまりないですけれど、益子焼とは何ですか、というのは時々聞かれます。難しいけれど、あえて言うなら、益子の土を使って、益子の灰を使ってつくっているのが益子焼かなと思います。

工房風景画像

根本 そういう方はどのくらいいらっしゃるのですか。

生形 あまり多くないと思います。今はさまざまな原料が手に入るので、益子焼という概念にとらわれず制作している作家さんの方が多いかと。

根本 産地なので同業の方がたくさんいらっしゃいますが、情報交換などはされますか。

生形 友達が近くにいるので、技術的なことを教え合うことはよくあります。わからないことがあると教えてくれる人が周りにいるというのはすごく心強いですし有難いです。

根本 そういうつながりによって、困った時に道がパッと開けて、次なる展開に行けるというのは、産地ならではのよさかもしれないですね。

生形 仕事はしやすいです。ただ、冬は寒くて住みやすさはちょっと…冬眠したいです(笑)。

インタビューイメージ画像

根本 以前、「水道も凍るようなところに暮らしていていいのでしょうか」とおっしゃっていたことがありましたね。冬は辛い季節なのですね。

ところで、益子の中にいて、今はこれが作品の主流だみたいなことを感じることはありますか。

生形 工房にこもってばかりで、あまり外へ出て行くこともなくて、主流とかには疎いです。でも、たまにお店を回ると、今はこういうものがたくさん出ているなとか、品揃えが少し前とは違うなとか感じることはあります。

インタビューイメージ画像

根本 産地なのでお店が連なっているし、狭い範囲の中であっても一つの判断基準にはなりますよね。

生形 そうですね。

根本 日本の工芸の仕事は、一人で黙々とこなして行くという面があります。建築とかになると、いろんな人の手が介在して、その段階で折衝ごとがあって形づくられて行くわけですが、生形さんも全工程を一人でこなすわけで、そこは性格的に合っていますか。

生形 合っていますね。個展前などは、気が付いたら何日も誰とも話していないなということがあります。展示を終えると、それまでこもっていた分、パーッとどこかへ出かけたくなりますが。

工房風景画像

 

根本 それだけご自分のお仕事に没頭されているのだと思いますけれど、外へ向かって動けば、何か自分の中に入ってくるものもあるでしょうし、新しい創造のきっかけみたいなものも出て来るかもしれませんね。逆に、今日は仕事をやめたいなぁと思うことはないですか。

生形 それはないですね。最近は、朝起きて仕事場へ来て、9時から午後7時くらいまでやっていますけれど、お茶を飲みながらゆっくりとやっています。

根本 土という素材は、生形さんにとって相性のよいものなのですね。

生形 合っていると思います。

根本 どの作業が好きですか。

生形 器のフォルムを決める仕上げの工程が好きです。特に彫っているときがいちばん好きです。

工房風景画像

根本 彫る仕事というのは、焼き物をつくっているのとはまた全然違う作業ですよね。それが土か木かということはあるけれど。

生形 そうですね。器をつくるということにおいて、彫る作業は別に必要ないものです。

根本 道具の機能としてはそうですね。生形さんは型ではなく、手で一つ一つ彫り起こされているのですよね。彫る前に下描きをするのですか。

生形 はい。簡単に下描きをつけてから、小さいアルミ製のカキベラで彫ります。

根本 それは描いている感じに近いのですか。

生形 筆で描くような滑らかな感じではなく、サクサクっとした感触で彫り出す感じでしょうか。

和の器や暮らしの延長にあるもの

根本 最近、装飾的な仕事をする若い作家さんが増えて来ていると思いますが、形がデザインされ過ぎていて、きれいだけれども何と一緒に使おうかと考えます。器は単体で使うわけではないから、取り合わせるということが必然的にあります。そこが生形さんの作品の場合は、“和”があるというか、和の器の延長にある形や加飾だから取り合わせがしやすいのでしょう。いい意味での生活感というのは、ご自身の日常の中にあるものですか。

生形 日常の生活を大切にしていきたいと思っていますので、器や花器をつくるとき、使うことをいちばんに、どんな空間で使うかを考えながらつくるのですが、いつもパッとイメージするのは和の空間です。 それはもしかしたら、祖母の影響かもしれません。両親が共働きだったので、近くに住んでいた祖母の家にいつも行っていたのですが、祖母は身の回りの生活を大事にする人だったので、小さい頃から何となく日常に和がありました。そういう風景が、今の作風のもとの部分だったりするのかもしれません。

根本 どのような思い出がありますか。

生形 祖母のことで思い出すのは、庭の植物を大事にしている姿です。草花をよく活けていました。それと、毎日着物を着ていて、裁縫や手芸などいつも何かしら手を動かしていました。古くなった着物で羽織をつくったり手提げ袋をつくったり。編み物は祖母から教わりましたし、ものをつくる楽しさというものを祖母から教わったように思います。

生形 由香展

生形 由香展

2014/9/12(金)〜9/17(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/

03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分