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彫りと釉の情緒

Interview 生形 由香「彫りと釉の情緒」 3/3

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子/Aug. 2014

中近東や東南アジアの古いものに魅かれて

根本 焼き物を含めて工芸品は、技術はもちろんほしいけれども、センスとか、らしさというものも重要ですよね。それについて、何かご自分で意識的にされていることはありますか。

生形 いいなとか、好きだなとか、気になるものは集めるようにしています。好きなものを身近に置いて、何かエッセンスを吸収できたらいいなと。

根本 好きな陶芸家はいらっしゃいますか。

生形 陶芸家というより、古いものが好きで、中近東や東南アジアの器などが好きですね。東西文化が交じり合った感じが好きです。いますごく中東の博物館に行ってみたいです。

工房風景画像

根本 そう思ったときに行って見ると、何にも勝って得られるものがあるでしょうから、ぜひ行けるといいですね。そういえば、初めて生形さんの作品を拝見したとき、大陸的な印象があって「これは日本のものではない。飛び出ている」と思ったものです。村越画廊*3の桜井さんが、生形さんを「日々」にお連れ下さって、「若手なのに、すばらしいつくり手がいる」とご紹介いただいたのがご縁ですけれど。きっとそのときには、どこか自分の核なるものはあったのでしょうね。

生形 訓練校を卒業していろいろと迷っていた時期に、東南アジアを旅行したことがあって、アジアの遺跡は本当に素晴らしかったので、その影響を受けていると思います。カンボジアのアンコールワットでは、細かいレリーフに圧倒されました。

根本 カンボジアの他には、どちらの国を回られたのですか。

生形 タイ、ベトナム、ラオス、マレーシア(半島)です。一気にではありませんが、1~2か月くらいかけて回りました。初めての海外旅行で、とても貴重な体験でした。

根本 なるほど、そうだったのですね。最初の作品を拝見した時の印象とグッと結びつきます。ただ、東南アジアと日本では、基本的に求められている器の形とか、対象が違うのではないですか。

生形 東南アジアの器は、美術館に収まっているような古いものは見たりしましたけれど、今のものはあまり印象になくて、それよりも寺院とか遺跡とか、その国の文化がすごく印象に残っています。

根本 素材よりも紋様とかが面白かったのですか。

生形 そうですね。紋様や色彩が印象的でした。

根本 最近では、何かグッとくるものはありましたか。

生形 ちょっと話はずれますけれど、先日、山で野良クジャクに会って本当に驚きました。最初は自分の目がおかしいのかと思って、「あれ?キジの雄?」と信じられなかったんですけれど、どう見ても尾が長くてクジャク。堂々としていて、至近距離でも逃げないんです。首の部分の青色がすごくきれいで、その感動もあって最近は鳥が気になっています。

根本 作品モチーフの中には、鳳凰を描いたものなど、これまでにも鳥は登場していますね。

生形 はい。鳥の姿や羽根の美しさに魅かれて、よくモチーフにしています。

インタビューイメージ画像

シンプルな形と主張しすぎない加飾

根本 生形さんの作品は男性ファンも多くて、「日々」で展覧会をさせていただいたときも、ポットとか大皿、花器などを男性が買って行かれるんですね。色のきれいさとか、男性が持っていても品があるところが魅力かなと私は思うのですが、ご自分では男性好みの作品はどんなところにあると思われますか。

生形 たしかに、大きいものは男性が多いですね。私はシンプルなラインが好きなので、そういうところは男性に好まれるのかもしれません。

根本 デザインされすぎていない、ほどよいデザイン力と紋様のバランスとか、ちょっとアート的要素が見え隠れするところもありますよね。女性は使うことが前提であることが多いけれども、男性は飾っておく、鑑賞するというアート志向的な部分を少し見出していて、日常の中のちょっとしたインテリア的な感じを楽しまれる方もいらっしゃるでしょうね。

生形 器をつくるとき、横から見たラインを結構気にしてつくっています。もしかしたら男性のお客さまは似たような見方をしてくれているのかもしれません。

作品画像

根本 それから、紋様が彫られているところに、さらに釉薬がかかっている作品が多いですけれど、その紋様の表れ方が生形さんの仕事らしいなと思っています。はっきりとは見えないのだけれども釉薬の下から見えている紋様というのは、意識的にされている仕事なのでしょうか。

生形 くっきり見えないことによる情緒だったり、主張しすぎないものが好きなので、それを意識してつくっています。

根本 基本的な形はシンプルにして、その上に紋様を彫って、あとは釉薬でどう効果が出るか、という感じですね。紋様と釉薬の組み合わせの結果というのは、いちばん面白いところですか。

生形 はい、紋様の入れ方によって、釉の流れが生まれるのですが、焼き加減によっても変わるので同じものはつくれません。そこがとても面白いです。

インタビューイメージ画像

根本 9月には「日々」で作品展をお願いしておりますが、どのような作品をつくってみたいですか。

生形 花器をつくりたいです。大きいものや、いろいろなものをつくってみたいです。

根本 いいですね。今までつくったもので一番大きいサイズというのはどのくらいですか?

生形 花器では高さ50センチくらい、お皿では30センチちょっとくらいです。

根本 紋様モチーフはどういうものが出てきそうですか?

生形 やはり今、鳥がとても気になっているので、それを形にできればと思います。できたら立体をつくってみたいなと思っています。

根本 それはオブジェとしてということですか?

生形 まだどうなるか、ちょっとわからないです。

根本 独立されて7年目ということですが、作品展の回数も増えてきましたか。

生形 個展は年に2~3回で、グループ展はちょこちょことあります。

根本 新しい作品を楽しみにしております。
今日はどうも有り難うございました。

*3 村越画廊:
銀座並木通りにある昭和31年創業の近現代の日本画を扱う企画画廊。
近年はさまざまなジャンルの若手作家の応援も行う。

インタビューを終えて

生形さんの持っている、マイペースさというのは、
夢中になるものに出会えた人の惑わされない力のように思いました。
陶芸に出会った頃の「もう楽しくて」と語ってくれた一途さは脈々と続いているのでしょう。
和やかな中にも、現代に通用する視点が備わっている作品をぜひ観ていただきたいですね。

根本美恵子

ギャラリー勤務を経て、2004年エポカザショップ銀座・日々のスタートとともに、コーディネーターを勤める。
数多くの作り手と親交があり、日々の企画展で紹介している。
» エポカ ザ ショップ銀座 日々

生形 由香展

生形 由香展

2014/9/12(金)〜9/17(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/

03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分