パノラマ対談「大室桃生さん(ガラス作家)×土器典美さん(DEE'S HALL)」1/2
文・構成:竹内典子 / Mar. 2016
パートドヴェールという古代に生まれたガラス技法で制作している大室桃生さん。美大で金工を学び、伝統工芸に携わった経験があり、素材をガラスに変えてからも、器や照明という用途を保ちつつ、アートに近い表現をしています。知識を持たなかったはずの古代の人が高い技術と表現力で創作した、そのことに今も触発されながら、大室さんは色彩や模様、絵心豊かな世界を生み出しています。今回の対談のお相手は、東京・青山のギャラリー「DEE’S HALL」の土器典美さん。これまでの大室さんの作品展を振り返り、お話いただきました。
軽やかな色彩感覚
大室 12年前の2004年、ディーズホールでの私の初めての展覧会は、滝本玲子*1さんが企画してくださいました。そこから始まって、土器さんにはいつも自由にさせていただく中で、ディーズでの作品展は7回を数えました。今ではディーズは、私にとって気持ちのよい大切な空間になっています。
土器 最初の展覧会では、線柄が入った赤い器をDM写真に使いましたね。まだ花柄などは作っていない頃で、当時は無地系の線柄や幾何学柄がありました。大室さんの作品は、何より色がとてもきれいですね。
大室 パートドヴェールは、古代に生まれたガラス技法で、ガラス工芸の中では手間も時間もかかる効率の悪い方法ですが、低温で焼くため色はきれいに出やすいんです。私は最初に粘土で原型を作り、その粘土で鋳型を取ります。柄は粘土の時につけたり、石膏の鋳型にしてから割り込む時とがあります。そして、ザラメ状やパウダー状のガラスの粉を鋳型にはり付けていきますが、色づけは細かいパウダーのガラスを混ぜて使ったり、表面に塗ったりしていますね。その後、窯で焼き上げます。
土器 パートドヴェールというと、もう少し色が重いというか濁った感じの物が多いように思いますけど、大室さんの色は透明感があって、とても軽やかにきれいな色が出ています。そこは大室さんの個性だと思っています。
大室 学生の頃、「現代イギリスの工芸」(東京国立近代美術館工芸館1989年)という展覧会で、イギリスの作家ダイアナ・ホブソンのパートドヴェールの作品を見たんですね。砂のような鋳物ガラスで、その低温で焼いた素材感は初めて見るのもので、とても印象深いものでした。こういうガラスもあるんだと、パートドヴェールの魅力を知ったんです。ガラスを始めた当初は、技法についてとても参考にしていた気がします。
土器 素材の表現の豊かさみたいなものを感じ取ったのでしょうね。
大室 ディーズで2回目の展覧会は、上野慶一さんの油絵と私のオブジェの二人展でした。最初の展覧会の時に、実際に展示してみると思ったより空間が広いとわかって、前から憧れていた二人展をお願いしたんです。
土器 大室さんのオブジェや箱物が並びました。たしか上野さんと一緒に、何かテーマを決めていましたよね?
大室 展覧会のタイトルは「願望機」です。ロシアの作家ストガルツキイのSF小説『願望機』を互いに読んだり、二人でいろいろ相談したりしました。
光を通すと深まるもの
土器 その次の3回目に、「シェード」展として初めて照明をやったんですよね。それがとにかく好評でした。照明をたくさん吊り下げていったら、空間がいつもより華やかになってそれはきれいで。
大室 2008年の展覧会ですね。その前の作品展の時に、土器さんから「照明やってみたらいいんじゃない?」と言ってもらえたのがきっかけで、この時初めて照明を作ったんです。
土器 大室さんのパードドヴェールを眺めていて、これを照明にしたらすごくきれいだろうなと思ったの。それで、照明のスタンドは、私の知人が鉄工所をやっていて、センスのいい人だから作ってもらおうって、その人のところへ一緒に行って、こういうものをやりたいとお願いしましたね。
大室 すごく楽しかったです。照明の場合、用途がはっきりしているので、気を楽に作れるんです。
土器 大室さんの作品の多くは器の形をしているけれど、パートドヴェールという技法の性質からして、日常の食卓に使うような器にはあまり向いてないですよね。大室さん自身も「工芸か、アートか」ということをずっと悩んでいて、もっと使えるものを作らないといけないんじゃないかと考えたりもしていました。とはいえ、大室さんのガラスの質感で、使えるものを作るというのはなかなか難しいです。ふだんに使う吹きガラスのコップや鉢とは違うわけで。でも、照明にすれば、パートドヴェールの良さを生かせるし、なおかつ使える用途のあるものとして作れるから、とてもいいんじゃないかって。
大室 その頃は、本当に悩んでいました。今でもそうですけれど、照明は用途が明確だからいちばん作りやすいです。
土器 しかも、パートドヴェールで作るからいい、という良さもアップします。吹きガラスよりいろんな柄を入れられるから、一つ一つが違うものになって、気泡を含んだ独特の肌合いとも相まってとてもきれい。ライトが点いた時と点いていない時、昼と夜それぞれに違う雰囲気を楽しめます。とくに大室さんのデザインは、照明に向いていますね。
大室 あの時は、土器さんの私物のソファやキリムも、展示用にお借りしました。
土器 家具をいろいろ置いて、部屋のような展示にしたので、照明のよさがよりはっきりしました。空間が広いと大変なこともあるけれど、そういうスペースもつくれますし。吊り下げタイプの照明は20点くらい、スタンドタイプも大きい物が3~4点、小さい物は10点くらい展示しました。
大室 シャンデリア屋さんとか好きなんですけど、やっぱり照明の展示はきれいで気持ちいいですね。
大室桃生 「パート・ド・ヴェールのシェード」
DEE’S HALL
〒107-0062 東京都港区南青山 3-14-11
03-5786-2688
http://www.dees-hall.com/exhibition/ex142.html