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Interview 西川 聡/聞き手:広瀬一郎さん(「桃居」オーナー)

原始の色と乾いた風と

人と物の関係が、
鮮やかに違ったアフリカ
インタビュー風景

インタビュー風景

広瀬
アジア・アフリカの旅というのは、西川さんにとってどういうものだったのでしょうか。そこへ向かう経緯とか、そこで出合ったものというのは、西川さんのオリジナルなものをつくる上での根っこになっていると、僕は思うのですが。

西川
先ほども高校時代の話をしましたが、僕は高校生の頃からちょっと変わっていて、人と同じことはやりたくないというのが基本にあったんです。その頃から旅行が好きで、人の行かないところに行きたかった。アジアは大好きでよく行きましたし、ヨーロッパにも行ったり。ずっと行きたいと思っていたアフリカへ行くことになったいちばんのきっかけは、東京の骨董屋で変な椅子を見つけて、それが西アフリカの人たちがつくったものだったことです。つくっているところを見てみたくなったんです。

広瀬
それは学生の頃ですか。

西川
卒業して1年後くらい。まだ大学にはスタッフとして残っていた頃です。僕の大学では、陶芸はデザイン科の中にあって、クラフトデザインと呼んでいますけど、基本的に人が使う物のデザインについて、北欧とかの影響を受けながら勉強してきました。現代のデザインというのは、物を人に合わせるんですね。使いやすいように、人間の生活に合わせていく。ところが、アフリカはまったくそれがないわけです。つまり、人間が物に合わせる。いちばん驚いたのはT字型の椅子で、脚が1本だからすごく不安定。だけど彼らはそれを椅子として使っている。地面に突き刺すわけでもなく、上手にバランス取って座る。そういうことが僕には無茶苦茶新鮮だったんです。

広瀬
180度違う世界。

西川
少し話は飛びますけど、たとえばノーマライゼーション*6とかバリアフリーとかいう思想は、すべてを人間に合わせていく。それは、そういうことを必要とする人もいて、素晴らしい思想なのだけど、ある意味で人間を弱体化させる面もある。段差がまったくない生活は、とても安全だけども、健康な老人にとっては少し段差があった方が、もしかしたら足腰を鍛えられる。

広瀬
そこは、人間にとって両方必要なのでしょうね。最近、山崎正和*7さんの『装飾とデザイン』という本を読んで面白かったんだけど、人間がやってきた造形活動には2つのラインがあって、それはデザイン的な方向と装飾的な方向という話なんですね。よく言われるのは「レス イズ モア」と「レス イズ ボア」。

西川
なるほど。

広瀬
デザイン的な方向を進めていくと、ミース・ファン・デル・ローエ*8の言った「レス イズ モア=より少ないことはより豊かなことである」ということになり、装飾的な方向にいくと、ロバート・ヴェンチューリ*9がそれに対して言った「レス イズ ボア=より少ないことは退屈なことである」ということになる。だから、必要でないものをそぎ落として、人間にとって快適なものをつくるというデザイン的造形思想と、過剰なものや無駄なものを人間は必要とするという装飾的造形思想は、どっちかだけになっちゃうとやせてくる。やっぱりお互いに刺激し合ってということが必要なのだと思います。

西川
まったくその通りです。

広瀬
西川さんの仕事の中にも、そういう2つの側面はありますよね。赤・黒・白という命を感じさせるような色味、アフリカや中近東の風を感じさせるような造形があって、一方ですごくぞぎ落としたモダンなデザイン言語みたいなものも感じます。

西川
そうですね。その2つは、自分では解決できないものなんです。どちらか1つにはできない。僕は実は、2つあっていいと思っているんです。

広瀬
それが西川さんの手法ということかもしれませんね。

西川
装飾の仕事をする人は、ずっと装飾の方向で作品をつくり上げるし、レスイズモアの仕事の方は、とことんそぎ落として純化させていく。どちらかにするということに価値があったり、それを他人は求めていたりするかもしれないけど、僕は人間ってそんなに単純に2つに分けられるわけがないと思っていて。だから、いろんなものが混在して悩んで、それで2つ出てきたら、それはそれでいいかっていうのが、ここ最近のあきらめというか思っていることです。

広瀬
すごくざっくりとつかんで言うと、西川さんたち世代の仕事って、その辺に象徴されているような気がします。たとえば村上さんの仕事を見ても、風化した土みたいなテクスチャーを探していくような姿勢と同時に、手びねりでシャープなラインをつくっていくという、2つの矛盾する方向がある。その2つを内側に閉じ込めて、どれだけ内圧を高くできるか、自分の内側にある欲望を、自分の内側でどれだけ緊張感をもって対立させ、仕事に反映させていくか、というような仕事に思えます。

西川
それはあるかもしれませんね。

広瀬
それがもっと若い世代になると、そういうダイナミズムとは別な思考で仕事をしているような気もしますし。もしかしたら、西川さん世代は、前の世代とも違うし、後の世代とも違うのかな。そこは何年の幅でそういう仕事をしている人たちがいるかっていうと、ちょっと難しいですけど。

ものづくりにおける2つの側面
装飾的造形とデザイン的造形
工房風景

*6
ノーマライゼーション:障害者も障害のない人も、同等に社会的生活を営む権利があり、それが社会の本来あるべき姿であるとする概念および活動。デンマークの知的障害者の領域から広がった。

*7
山崎正和:やまざきまさかず 1934年京都生まれ。劇作家・評論家・演劇学者。著書『装飾とデザイン』は中央公論新社発刊。

*8
ミース・ファン・デル・ローエ:1886~1969年 ドイツ生まれ。20世紀モダニズム建築を代表する建築家。

*9
ロバート・ヴェンチューリ:1925年生まれ。モダニズム建築の批判から提唱されたポストモダン建築スタイルの建築家。

西川 聡 陶展

西川 聡 陶展

2012/11/16(金)〜11/20(火)
@桃居/東京

2012年11月16日(金)〜11月20日(火)
桃居 http://www.toukyo.com

03-3797-4494
東京都港区西麻布2-25-13