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Interview 西川 聡/聞き手:広瀬一郎さん(「桃居」オーナー)

原始の色と乾いた風と

現代美術の影響もあって
テクスチャーや物質感に惹かれる
インタビュー風景




インタビュー風景

広瀬
初めて矢尾板さん、村上さん、西川さんの器を見た時、僕はすごく新鮮でした。それはどうしてかというと、西川さんたち世代より前のつくり手の人たちは、それぞれに方向性はあるんだけど、だいたい過去の焼き物を参照している。その参照先は、中国、朝鮮、日本といろいろでも、古い焼き物をまずお手本にしてつくるっていうのが焼き物をやる人には多かった。あとは武蔵美には多いかもしれないけど、クラフト的な仕事。クラフトもある意味、西洋由来のデザイン言語みたいなものを参照しながらつくるっていうことでは、参照先があるわけです。

西川
そうですね。

広瀬
そういった焼き物と比べて、西川さんたちがやっている焼き物というのは、「いろいろ面白い焼き物はあるけど、それをそのまま自分たちが引き受けてやっても面白くないよね」というところから始まっている気がします。たぶん、焼き物のつくり手としては初めて西川さんたち世代が、焼き物以外のものの洗礼を受けている。それが音楽であったり、ファッションであったり、デザインであったり、建築であったり、いろいろだと思うけど。極端にいうと、焼き物と同列に、いろんなものの影響を受けながら、自分たちの焼き物をつくっていった。とりわけ80年代後半から90年代初めの現代美術の影響はかなりあったのでは。

西川
世代的にいうと、バブル時代に僕らは学生だったので、直接バブルの恩恵は受けていないんです。5~10歳くらい年上の人たちが、バブルの影響を受けていて、僕らはバブル的なものに関して、ちょっと違和感をもっていたところもあるんです。60~70年代の現代美術、たとえば「もの派」*4があって、その後「ポストもの派」*5という工芸に近い表現が出てきて、そういう時代に僕らは焼き物の勉強を始めた。その影響はすごく大きくて、テクスチャーとか物質感とかに憧れましたね。

広瀬
西川さん、村上さん、矢尾板さんは、皆さん質感にこだわります。ご自分の質感に。だけど、面白いなと思うのは、西川さんたちより前の世代の人たちは、たとえば原土にこだわる。掘ってきた土のもっている土味とか、釉薬だったら天然の木を燃やした灰を生かした釉薬とか。素材の自然性みたいなものに、ある意味大きく寄りかかり、その寄りかかること自体が焼き物の本質だという捉え方。西川さんたちは、そういう一次的な自然性みたいなもので仕事をするのではなく、自分たちが本当にほしい色や質感というのは、自分の頭の中に出来上がっていて、そこにアクセスするためにいろんな実験を繰り返して、自分の色や質感に到達するというやり方ですよね。

西川
それが新しいというか、新鮮だと思ったんでしょうね。

広瀬
土とか炎とか、一次的な自然性というのは、力のある面白い焼き物になるけれど、もういろんな人がやっているじゃないか、という思いもあったのではないですか。

西川
結局、そこなんです。焼き物がすごくブームになって、いろんな作家の表現が出てきて、器も当時からいろいろありました。自然の力を引き出しながらという焼き物や、素敵なものはいっぱいあったし、それに対抗する何かが自分にあるのかっていうと、僕は産地の出身ではないから、バックボーンが何もないわけです。代々続くいい土があって、窯があってという物質的に恵まれた人たちは、素直にそういう世界に入って行けるんだけど、僕らはそれができなかった。手持ちの可能性の中で、どういうふうにやっていくか。悪知恵というか、いろいろ考え始めた世代ではあるかと思います。

広瀬
前の世代の人たちは、焼き物をやるなら自分の気に入った産地へ行って、数年修行して、そこで仕事場を見つけてというのが、当たり前だったんですよね。西川さんたちは、そうしたいわば制度化された個人作家の有りようみたいなものに、ちょっと違和感をもって、自分たちをずらして行った初めての世代なのかな。

西川
そうかもしれないですね。たぶん、いちばんの理由は、すごく手軽に焼き物ができるようになってきたんです。テクノロジーが進化して、電気窯が普及して、狭い所で煙を出さずにいろんな実験ができるようになった。だから、住宅街で間借りして仕事を始めようと思えばできたし、自分で作家を名乗れば作家になれた。そういうことを始めた世代です。

広瀬
でも、そうやって始めた人はたくさんいるけれど、作家として今も活躍している人は、限られた数だと思いますよ。それって、逆に難しいわけです。誰でも手に入る材料で、誰でもがアクセスできるテクノロジーの中で仕事をして、なおかつその人らしさをつくっていかなきゃいけない。自分で自分のハードルを上げられたのが西川さんたちであって、皆さんすごく努力されたと思います。

西川
矢尾板君は仕事場を新潟に移しているんだけど、僕らが産地に行かずに、東京近郊で仕事を始めていくことには、価値というかメリットがあるように思えた。それはさっきも話に出ましたけど、都会に近い分だけ、いろんな文化を吸収できるということ。アートだけでなく、ファッションもデザインも、新しいものを享受できるんじゃないか、という考えもあったわけです。

広瀬
現実に、そうやってさまざまなものを受け取って、自分の仕事に投げ返してきたってことですね。

西川
結果的には、すごくよかったと思います。自分が地方へ行っていたら、こういうふうにはならなかったかもしれないですし。

東京近郊で
焼き物の仕事を
始めるということ
工房風景

工房風景

*4
もの派:1960年代後半から1970年代にかけて展開した、石・木・土・鉄などの素材を直接的に使った立体構成の表現活動。日本独自の重要な美術動向のひとつとされる。

*5
ポストもの派:1970年代末から1980年代初めにかけて、もの派の影響を受けながら、批判的に継承し、活躍した作家たちの総称。美術評論家・峯村敏明氏の命名。個々の作風は多様で、共通性や統一性はない。

西川 聡 陶展

西川 聡 陶展

2012/11/16(金)〜11/20(火)
@桃居/東京

2012年11月16日(金)〜11月20日(火)
桃居 http://www.toukyo.com

03-3797-4494
東京都港区西麻布2-25-13