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Interview 小川郁子 聞き手:外山恭子(六本木 SAVOIR VIVRE 文・構成:竹内典子 Jun. 2012

江戸切子に自分らしさをのせて

まず形が決まって、デザインは
形を手にしてから思い描く
「一輪挿し」:小川郁子

外山
小川さんにぜひお聞きしたいと思っていたんですけど、形や生地を選ぶ基準というか、これに切子をやってみたいという選択はあるのかしら?

小川
形については、好きな形かどうかということと、技術的にできる形、やりづらい形ということもあります。切子は回転している刃で削るので、えぐれた形のものは曲面の真ん中に刃が当たらなかったりして、やりづらくて敬遠しがちです。どうしてもその形がほしい時にはやりますけど、基本的に膨らんだ丸みのある形がやりやすいですね。そこは大事な基準です。

外山
なるほど。そういう基準もあって、でもそれだけでは狭まってしまうし、というところなわけですね。

小川
そうですね。好きな形としては、格好いいカットは格好いい形に、かわいいカットはかわいい形にというふうに、どっちにするか仕事の方向性を決めやすいものが好きです。

外山
形をつくってもらう時は、図面を起こすのですか?

小川
自分で型紙をつくって、大きさや厚さ、色をこれにしてくださいと決めてお願いします。

外山
その時に、自分の中で最終的な出来上がりのイメージはできているのですか?

小川
全然ないです。色と形だけです。デザインは、その形が出来上がってから、それを実際に見たり触ったり、直に描いたりしていく内にできてきます。形を考える時は、カットの完成形のことは全く考えないですね。

外山
師匠もそういうやり方でしたか?

小川
そうです。私もそれに則っているので、最初から形とデザインを考えてもいいんでしょうけど考えてないですね。

外山
小川さんのつくるものは、いわゆる日本の伝統的な切子の枠に囚われていないというか、私は初めて拝見した時に、ヨーロッパ的な感じがしたんです。ヨーロッパのアンティークのカットグラスにもイメージが重なるし、篭目のカットとかは伝統的な要素も感じるんだけど、それだけじゃなくて深くカットを入れていたりして、ジャンルに囚われていない感じがするんです。ご自分でも、いろんなものを好きで、見たりされているのですか?

小川
伝統的な切子ももちろん好きですけど、それをやらなきゃいけないということもないですし、とにかく自分が好きな物をつくりたいんです。自分でつくった物でも、好きな物と好きじゃない物と出てきてしまうんですけど、そうすると好きじゃない物は1回やったら終わりにして、好きな物は繰り返しつくっています。すごく気に入っているから売れてしまうのは寂しいとかもありますけど、またこれをつくりたいと思えますし、見てくれている方がこれいいねと言ってくれるとすごく嬉しかったりもします。

外山
昔でいう利休好みというか、自分で好みを知っていないと、物ってつくれないんじゃないでしょうか。お店もそうですけど、自分の好みがないと品揃えとかもまとまらなくなってしまいます。何年も前に買った古い洋服でも、好みであれば、取り合わせが気に入ったりしますよね。だから、自分が好きな物というのは、大事なことだと思います。その好きな物というのは、最初の頃と今とでは変わりましたか?

小川
変わってきましたね。師匠のところから独立した当初は、師匠の作品のつくり方、やり方しか考えられなくて、型やパターンや作業の流れもその方法でしかやっていなかったんです。それから間もなくして、知り合いに革でかばんとかをつくるだいぶ年下の人がいるんですけど、私の作品を見て「こんなのばっかりつまんない」「もっと面白いものできないの?」と言われて(笑)。それからちょっと意識が変わって、もっと自分で考えたものをつくらなきゃと思って、いろいろとやり始めたんです。

外山
そうだったんですね。

自分の好きな物をつくる
そのことに素直でありたい
「お猪口」:小川郁子
伝統のシンメトリーな構図と
モダンなア・シンメトリー
硝子切子皿「水面」:小川郁子

小川
基本的に私が習ってきた江戸切子のやり方というのは、器があったら均等に割り付けるんです。4面とか6面とか、シンメトリーなデザインに。それを私はやめたというか、そうじゃなくてもいいんだと思って、フリーハンドで線を描くとか、今までとは違うやり方も採り入れたんです。

外山
そこが意外性なのでしょうね。シンメトリーとかは面でやりますものね。

小川
そうですね。シンメトリーにするとクラシカルな感じになって、きちっとして見えますし、おとなしい感じです。ア・シンメトリーにすると、急に動きが出てくるので、どちらも好きで両方やっています。

外山
それはふっと思いついたのですか?

小川
そうですね。

外山
小川さんはクリエイティブなんですね。なかなかそういうものは抜け出せないものですから。

小川
でも、その年下の知り合いに「つまんない」と言われるまで、わかんなかったです。自分ではよいと思っていたものをそう言われてショックでしたね。でも、そうかと思って、そこからいろいろ考え始めたんです。

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