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修行5年目につくった初作品が
伝統工芸展部会展で入選
「被硝子菊篭目切子皿」
1999 (伝統工芸展に初出品) -
外山
お弟子さんを9年間されたそうですが、その間は切子を追及することに夢中になられて、作家になるとかは考えなかったんですか?小川
一切ないです。師匠のお手伝いをするだけで、自分の物をつくることはありませんでしたから。弟子入りして5年目くらいに、師匠からちょっとこれをやってみろと言われて生地をいただいて、初めて作品というものをつくりました。お教室の方ではちょこちょこ小さい物はつくっていましたけど、本格的な作品はそれが初めてでした。外山
師匠のやってみろというのは、好きにつくってみろということですか?小川
そうです。ふだんは師匠のデザインしたものをサポートするので、私の意見とかはほとんどないんです。そうではなくて最初から自分でデザインして、カットもやってみなさいということです。急に言われて、すごく緊張しながら少しずつ仕事の合間にやらせてもらいました。外山
その時は何をつくられました?小川
直径25センチくらいの赤いお皿です。不思議とよくできて、師匠から「伝統工芸展」※2に出品するように言われたんです。初めて自分の作品として出品しました。外山
入選されたのはその作品ですか?小川
はい。部会展で入選して、しかも売れたんです。師匠が値段を付けてくれたんですけど、私は高いなぁと思っていたのに売れてしまってびっくり。でも、そのことは励みになりましたね。外山
自分がつくった物にお金を出して買って下さる方がいるというのは、嬉しいことでしょうね。でも、それで作家としてやっていこうとは、あまり思わなかったのでしょう?小川
そうですね。師匠は、すぐに作家になりたがる人を批判していましたし、職人としてまず基礎を固めなきゃダメだということを、弟子入りする前からずっと言われていましたから。すぐに売ろうとしちゃいけない、作家になってやっていこうと思っても食っていけない、とにかく技術を身につけることに専念しなさいと言われ続けていました。
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外山
小川さんは素直だから、その教えに従ったのですね。今にして思えば、それがよかったのでしょうね。小川
師匠が私に言ってくれていたことは、本当だったなと思います。技術を身につけていれば、自ずと周りが見てくれるから、自分からは出なくていいんだと言い続けてくれました。外山
私は作家さんの作品を扱う仕事をずっとしていますけれど、ここ何年かは、美大を出るとすぐに作家さんになったり、修行とかもしないで自分に作家という肩書をつけて、どこかやらせてくれるギャラリーがあるとそのまま物づくりに行っちゃう人が多いと思います。それが割と普通になっていますね。自分で自分の作品を判断するという機会もないまま、買いにいらしたお客様がもう少し大きくしてほしいとか小さくしてほしいとかいうくらいのことで、何となく続けて行っちゃう人が多い。そういう意味でも、小川さんの仕事を拝見した時、今の時代にこういう人も出てきたんだと、素晴らしいことと思いました。やはり工芸というのは、技術もあってですよね。小川
技術がないと、やりたいデザインをできなかったりするんです。下手なまま、これをやりたいと思ってもできないですから。そこができるようになるまでは、自分を鍛え上げるというか、一生懸命に技術を学ばないと、できることの幅も広がらない。だから、まだまだ勉強が足りないこともいっぱいあるんです。外山
独立して何年くらいになりますか?小川
平成17年からなので、もう8年目です。最初は独立とは言わなくて、先生から手書きの「卒業証書」をいただいたんです。この卒業証書を持っているのは、この世で3人しかいないと言われて(笑)。ここを辞めたからって独立ではないんだと、ただ勉強が終わっただけで、独立してすぐ仕事をするというわけじゃないんだよと、そこでもまた師匠から念を押されましたね。どこかでアルバイトとかして働けと(笑)、切子ばかりにのめり込んじゃいけないとも言われました。面白いんですけど、私がすごく頑張ろうとしているのを、師匠がなるべく抑えて、いつもゆっくりやりなさいと言ってくれました。最初はアルバイトもあまりしたくなかったんですけど、少しずつ作品をつくり始めて、アルバイトもしました。外山
師匠の言葉の意味は、ある程度、自分の物が客観的に見えてないといけないということかしら?小川
焦るなっていう意味ですかね。まだ先は長いから、そんなに焦ってやらなくてもと。 -
やりたいことのために
ひたすら自分の技術を磨く