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Interview 成田理俊/聞き手:根本美恵子さん (ギャラリー「日々」 コーディネーター)

繊細な鉄

鉄の味の記憶
インタビュー風景

インタビュー風景

インタビュー風景

根本
成田さんは、鉄という素材について、どのように捉えていますか。

成田
鉄を選んで仕事にしていますけど、もともと僕はあまり鉄に興味はなかったんです。素材としてそんなに惹かれる部分もなくて、だんだんとやっているうちに好きになってきたという感じです。だから、鉄を客観的に見ているところがあります。素材にのめり込み過ぎず、一歩退いて冷めた目で見ているというか。表現方法にしても、もともとあるやり方とは別な方法があるんじゃないかと常に考えているところがあって。そういうやり方だから、このフライパンも生まれてきたという気はします。

根本
歴史の中で、建築資材とか、身を守る道具とか、宝物、お茶道具など、鉄という素材は普遍的にずっと使われてきたものではありますが、一方で、特殊な素材という印象を抱き続けている人も多いと思います。暮らしの素材としては日の目を見ていないというか、家の中より門扉とかガーデニングとかの外のものに使われるイメージがあります。

成田
でも、僕が子どもだった頃は、鉄は普通に生活の中にあったと思うんですよ。なぜかはわからないけど、鉄の味を知っていますし。

根本
鉄棒とか。

成田
それもありますよね。どこかで釘とか触って、錆びが手についたとか。でも、急に世の中にプラスティック製品が増えて、若い世代には鉄の味を知らない人もいますね。そういう方には、鉄というのは馴染みのない素材かもしれません。今はカメラだって樹脂で覆われていますけど、僕が子どもの頃は、まだまだいろんなものが金属で覆われていました。僕は鉄という素材自体にあまり興味はなかったけど、当時は鉄の味を身近に感じていたし、きっと自分の暮らしの中で、金属に親しんでいた部分はあるんでしょうね。

根本
成田さんの鉄の作品には、漆をかけたものと、かけないものがありますけど、それはどういう分け方ですか。

成田
主に錆びの問題です。漆は錆止めという意味合いなので、火にかけたり、油とともに使ったりするものには必要なくて、洗ったりするもので、錆びさせたくないものを、漆で仕上げています。

根本
コーヒーメジャーとか、お茶尺とかですね。クッキーを盛るような小皿もそうですか?

成田
お皿は、テクスチャー重視なのでオイル仕上げです。少しくらい錆びが出ても、風合がいいので。

根本
使っていて錆びが出てきてしまった時の応急処置はありますか。

成田
ちょっと拭いて、油を刷り込む。あとは、若干の錆びだったら、それを楽しむくらいの感じで受け止めてほしいです。先ほどの話にあった鉄の味ではないですけど、僕は錆びてもいいじゃないかと考えています。

根本
それが本物の鉄ですものね。

成田
工房でも、フライパンはじめいろんなものを置きっ放しにしているので、裏側が錆びることがあります。たぶん湿気がこもるのでしょうね。でも、毎日、1㎝ずつでも置き場所をずらしていたら、錆びにくいんです。だから、毎日のように火にかけて使っていれば錆びないですし、使わない時でもちょっと気を配ってずらすだけで大丈夫かと思います。

根本
鉄以外では、作品づくりにどんな素材を使ってらっしゃいますか。

成田
金属は鉄とステンレスだけで、あとは家具に木を使っています。

根本
鉄とステンレス、2つの素材感の違いはどうでしょうか。

成田
ステンレスは錆びないってことですね。僕にとって、錆びないものというのはすごく憧れで、ステンレスは食品まわりに気兼ねなく使えます。

根本
ステンレスの表面のテクスチャーも、成田さんらしいものですよね。

成田
ステンレスもコークス炉の中に入れて焼くと、ああいう斑な感じが出るんです。でも、焼いた状態は黒っぽいから、それを酸洗い*8すると白っぽくなって、ちょっと複雑なトーンになります。柔らか味も出るし、食品に使うという意味では、黒いままだとステンレスも錆びが出やすいし、白い方が使いやすいかと。

根本
そういうテクスチャーの方法論は、成田さんのオリジナルですか。

成田
酸洗い自体は、工業製品の中では当たり前に行われていることです。ステンレスは溶接すると、その部分が黒くなったり、焼けた色になるので、そこをきれいにするために酸洗いをするんです。

根本
鉄工所時代に覚えたことですか。

成田
それを応用してみたっていう感じです。ステンレスで作品をつくられる方もいますけど、磨いたり、削ったりされていることが多いですね。

根本
コークス炉の中で焼いて、叩いてということは、あまりされていないということですか。たとえば、カトラリーをつくる方も何人かいらっしゃるけど、仕上げは全然違うやり方ですか。

成田
おそらく、成形の段階では、火に入れていると思いますけど、僕のような選択肢はなくて、だから磨いたり、削ったりされるのかなと。スプーンは鏡面仕上げだとツルッとして口当たりがいいですし。僕のスプーンはちょっとザラつき感があるので、人によっては気になるかもしれませんね。

もう一つの金属
ステンレスのテクスチャー
工房風景

工房風景

*8
酸洗い:硫酸や塩酸などを使って、金属の溶接や熱処理によって生じた酸化被膜や錆びなどを除去する方法。

成田理俊作品展

成田理俊作品展

2012/11/23(金)〜11/28(水)
@エポカ ザ ショップ銀座 日々

2012年11月23日(金)〜28日(水)

思い描く形があっても実現できないことが常々。
そして、大概はまた同じ形ができる。
素材や技法、技量の制限がある中、失敗を重ね、
それが記憶となり、できなかったことを
一つ一つできるようにしていく。
そんな繰り返しです。
ー 成田理俊

» エポカ ザ ショップ銀座 日々
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分