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パノラマ座談会@戸栗美術館 August 2013 文・構成:竹内典子

パノラマ座談会「古い焼きものに想いを寄せて」 後編 3/3 森 由美 (陶磁研究家、戸栗美術館・学芸顧問) × 浜野マユミ (陶芸家) × 吉永サダム (陶芸家) × 矢野直人 (陶芸家)

磁器づくりの新しい風に

伊万里焼の魅力とは何か、ということを考えた時に、私がよく言うことなんですが、伊万里は器や皿という身近な道具ですよね。だからこそ向こう側にいる人間を感じることができる。浜野さんだったら古いもののつくり手をグッと感じるし、私ですとつくり手もそうですが、使ってきたり、伝えてきたりした人たち。そういう器の向こう側にいる人たちとの対話が含まれているから、古い器ってとても魅力的なんじゃないかなと思います。私はつくり手ではなく鑑賞者側ですけれども、非常に多くのことを古いものは教えてくれます。それが使われてきた時代背景とかさまざまなことを現代に引き比べて、考えさせられることも多くあります。

吉永 有田にはその昔に石が掘られたところが、かなり山奥の方にもあって、そこに初めて足を踏み入れた時、すごくいろんなことを思いました。400年前の職人たちがそこを探し当てて、当時は道も舗装してないところを馬か何かでやって来て、よくこんなところを掘ったね、すごいねって。当時の削った跡があるんですよ、とんでもない上の方とかに。本当に昔の人はすごいなと、つくづく感じました。

その場へ行くと、何か知らんけど拝みます。先人たちへの敬意というか、昔の人たちと対話できているという想いというか、そういうことを勝手にこっちは想い焦がれていますね。自問自答じゃないけれど、こうしてたんじゃないのというところでアプローチしていって、すべてがうまくいくわけじゃないけれども、そういうこともひっくるめて、器に自分の匂いというのを出せるようなものをつくりたいなと。

浜野さんが言うように、焼きで少し歪んでいるのも素敵とか、ちょっと鉄粉があって素敵とか、それは人と一緒ですよね。完璧な人はいなくて、ちょっとホクロがあるとか、欠点があるけれどそれぞれ良さがある。そういうふうに人間臭いというか、個性が匂う器というのは、いい器になるんじゃないのかな。

座談会風景

磁器づくりの現場から、最近はなかなか売れないとか、磁器産地としても困っているという話をうかがうことも少なくないのですが、皆さんの仕事は、それへの一つの答え、方向性だなと思います。磁器というのは、きっちり同じ形できれいにできることが第一と思われてきたけれども、昔のものを見たらそうじゃないじゃないかと、違うところに魅力があるじゃないかと。そういう方向性は、有田のような磁器産地にとって今後すごく可能性のある新しい部分ですね。

矢野 唐津にとっても有田は兄弟分というような意識があるんです。僕は個人でやっている窯で作家みたいなもんですけれど、自分たちがいいなと欲しいなと思うようなものを表現できている作家さんは、有田には少ないように感じます。でも、唐津好きのお客さんの中にも、浜野さんや吉永さんが目指しているような磁器を求めているお客さんは絶対にいるんです。

そうですね。素材を超えて、求められているものはあるのですから。今、手づくり風陶器とか、手づくりでちょっと歪んだように仕上げた工業製品があります。おそらく焼きものに詳しくない方が買われる場合が多いのでしょうけれども、でも、そういう人たちが何を求めているかといえば、やはりつくり手の手というものを求めている。だからそこに、ちゃんとこれが本当の手の仕事だよと提供するものがあれば、多くの人が本当に欲しかったのはこっちだと気が付くと思うんですね。

陶器には、いかにも人の手そのままを感じさせるわかりやすさがある。そこに頼ったヘタウマというかヘタなものもあるんじゃないかと思いますが、買い手はこれが手づくり、とそっちに行きがちです。磁器にはそれがないので皆さんなかなか来ないんですが、磁器でもこうして手でつくっているよ、丁寧ないいものなんだよと見せていただければわかると思います。ぜひやっていただきたいですね。

座談会風景

浜野 今回の展示は、私にとって、やっとスタート地点に立ったというところだと思うので、ここから、もっともっと深く掘り下げたものをつくっていきたいと思います。

よく焼きものに興味があるという人から、どこの産地へ行って、どうすればいいものが買えるのかと聞かれるんですが、それならまず美術館へ行って、しっかりいいものを見てから買いに行ってくださいと伝えているんです。ちゃんといいものを買うために、美術館でいいものを観てほしいと。

吉永 その方が絶対にいいです。

買い手の方もそうやっていいものが見えるようになれば、つくり手の方だって油断はしていられないわけですから、お互いが育っていくといいですよね。

皆さんは古い焼きものをとても理解して愛していらして、美術館側としてはとても有難いです。意外にも美術館とつくり手というのは離れがちなのですね。それと焼きもの好きな人が美術館好きかというと、それも少し溝がある。本当はみんなつながっていてほしいと思うのですが。言ってみれば、私は古い焼きもののファンを増やすというのが仕事なのですが、実は古いものに限らず、また産地も限らないですべての方向の焼きものファンを増やしていきたい。つくり手の方とお互いに頑張っていけたらいいなと思っています。

浜野 つくり手にとっても、いいことだと思います。

今回の、美術館で作品展を行うという試み、浜野さんは実際に取り組まれて何か今までの個展と違うものを感じられたでしょうか。

浜野 こちらの美術館の2階には、私の憧れの器があるわけなので、その方と一緒にさせてもらうんだと思うと、恥じないものというか自分の精一杯をやりたいなと思いました。

吉永 僕はバックアップする側として、本当に純粋に楽しみました。でも最初は、浜野さんの求めているものはすごかったんですよ、マニアぶりが(笑)。

浜野 そうでしたっけ(笑)。

吉永 展示まで半年しかないのに求め過ぎていて、一度だけ僕は叱りましたね(笑)。できることとできないこと、そこで一度いい線引きができたので、今回はできることに一生懸命取り組めたんじゃないかな。僕も素材についてどんどん知ることができたし、浜野さんも僕もすごく成長できましたよね。

浜野 とっても面白かったです。採算とれるかとか、売れるかとか、そういうことを全く無視して、ただ、ここを目指したいという気持ちだけでつくったので、駆け足ではあったけれどもすごく充実していました。

座談会風景

吉永 その辺が、今回並んでいるものの匂いに出ているんじゃないかな。

浜野 最終的には、気持ちさえあれば、もういいんじゃないかとさえ思いました。朝から晩まで一生懸命にやって、その熱い想いがものに出るのなら。昔のものに感じる良さというのも、きっとその時の暮らしぶりとか想いとか、そういうことを感じてるのだろうと思います。集中してつくったので、気持ちがどんどん大きくなっていって、それが伝わるようなものができたなら、もうそれがいちばん大切なのかなと。

矢野 浜野さんの作品に触れることで、古いもの、本家のものはどういうものかと、より興味を持って見てもらえるかもしれないですね。

浜野 逆から行くのも面白そうですね。ギャラリーでの展示とはまた違った楽しみ方があると思いますし、この美術館には私のときめいたものたちがありますので、一緒に見ていただけたら嬉しいです。

古い焼きものを研究するということは、それが現代に戻って、現代の人々の暮らしを豊かにするところに結びついて行かなければ、学んでいる意味がないと私は思うんです。そこには器のつくり手がいて、器である以上、料理を盛る人、その器を使って食べる人もいる、そのつながりがとても大切だと思っています。数百年の時を越えて、焼きものとそれに関わる人々の思いのつながりを感じる今回の展示、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。

本日は皆さま、有難うございました。

座談会風景

浜野マユミ作品展

浜野マユミ作品展

2013/7/6(土)〜9/23(月)
@戸栗美術館/渋谷

「戸栗美術館 1階やきもの展示室」にて、浜野マユミ氏による作品展を開催致します。 古伊万里の伝統技法を用いて、日本の四季を表現した小皿・猪口などを展示。 制作に用いた道具類もご紹介します。 企画展「小さな伊万里焼展 ―小皿・猪口・向付―」とあわせてお楽しみくださいませ。

財団法人 戸栗美術館[東京渋谷・陶磁器美術館]
〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-11-3
tel. 03-3465-0070
http://www.toguri-museum.or.jp

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