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鉱物と造形の間に/パノラマインタビュー 渡辺 遼 panorama interview Ryo WATANABE

Interview 渡辺 遼「鉱物と造形の間に」 6/6

聞き手:広瀬一郎さん(「桃居」オーナー) / 文・構成:竹内典子/Jan. 2014

自然物と共存できるものを

広瀬 渡辺さんは、これからどんなことをしていきたいですか。

渡辺 やっぱり基本的には「物体としてあるもの」という方向です。もっとすんなりと、それこそ気に入った石ころを拾ってきて窓辺に飾ったりするような、そういうことの対象と同じような物体としての造形物ですね。自然物のような気配のある、共存できる物をつくって行きたいですし、もっと受け入れてもらえるようになりたいと思っています。

鋳造作品イメージ画像:渡辺遼 鋳造作品

広瀬 なるほど。

渡辺 僕が拾ってきた石や木の枝は、たぶん自分でつくってみたいものを拾ってきて集めているのだと思います。自然物を自然界から切り離して持ってくると、やっぱり造形としてのきれいさを感じます。それがたぶんモチーフになっているんです。たくさん落ちている石の中からこれを拾ったのには、何か理由があると思うんです。そのもの自体をつくりたいわけではなくて、それと同じ空間に置いた時に共存できるようなものをつくりたい。それだけは自分の中で一貫した目標としてずっとあって。結局つくりたいものはそれで、それが何だったかというと、山登りから始まって自転車が好きで鉄の素材に興味を持ってそういう仕事をしてきてという今までの体験とか、すべてがつながってきているのだと思います。

広瀬 すごい数ではないかもしれないけれど、渡辺さんの作品を必要としてくれる人が少しずつ見えてきたのではないですか。手応えもあるのでは。

渡辺 いろんな年代の方に自分のつくったものを見てもらえるようになって、すごくプラスになるというか、有難いことです。作品もブリキ星さんに置いてもらった最初のものより、形態的にも素材的にも発展してきたなと自分では思います。

素材や技法の新たな展開

広瀬 そうですよね。メキメキと仕事の幅も広がってきているし、最近は素材も鉄と限定せずに、奥様がたまたま鋳造をやっていらっしゃったということで鋳造という新たな技法にチャレンジする機会になっていますよね。いままでの鍛金という叩いて成形していくものと、鋳造という鋳込みでつくるものとは、つくっている現場の感覚も違うのではないですか。

渡辺 全くやり方が違います。金属板の場合は、紙を切りぬいて折目を付けて糊で貼りあわせるみたいな感覚を大事にしていて、僕は金切鋏で板を切ったり、板をたたんだりして形にするというところにこだわっていたんです。一方で鋳造は、蝋で原型をつくるんですけれど、僕は無垢のものが好きで、蝋で無垢の塊をつくっています。それを彫刻刀で彫ったり、温度で柔らかさが変わるので手でひねったりもできます。

工房イメージ画像:渡辺遼

広瀬 可塑性があるんですね。

渡辺 いくつか自分のつくりたいと思ったものを蝋にして、それを石膏で型を取って、石膏を焼くと蝋が融け落ちて空洞になり、その空洞に溶かした金属を流し込んで、固まってから石膏を割ると、その金属が出てくる。それは何とも刺激的な工程というか、溶かした金属が鉱物の状態に戻っていくコースのような気がするんです。
溶解したブロンズが凝固して、自分がつくったものがまた生まれてくる。それを自分がつくりたかったものに近付けて形を整えていくという作業には、今までの工程とは全く違う驚きがあって、自然発生的な色や、酸化被膜の付き方もすごく面白くて魅力的です。それを自分の造形とどう近づけて行くのか、というところをいろいろ試したいと思っています。ブロンズの鋳造をやることによって、今まで固執していた鉄だけでなくて、アルミや真鍮などほかの素材にも目が向いてきました。

広瀬 須田貴世子*11さんというパートナーを得たことは、プライベートでも仕事面でもとても大きな契機というか、次への跳躍になりましたね。

渡辺 そうかもしれないです。

広瀬 2月には、桃居で渡辺さんと須田さんの二人展を計画しているので、どんな新しい展開を見せてもらえるのか楽しみにしております。

インタビューを終えて

渡辺さんはちょうど僕の息子くらいの世代になります。
今回主題となった工芸とは直接関係ありませんが、お話を聞いて、次のような感想をもちます。
ガツガツと働いて、昨日よりは今日、今日より明日にはより高い経済的達成を、と願った
僕たち戦後第一世代の日本人とは違う新しい価値観をもった若い世代が
しっかりと地に足をつけて動き出したなという実感です。
もちろん、渡辺さん世代にもさまざまなタイプの若者がいるのでしょうが、
僕は彼のような生き方に、これから「成熟化」を目指さねばならないこの国にとっての最良の可能性を見出します。
自分の内側から聴こえてくる声に耳を澄ますということ。
その声を正確に聴きとるために静かに穏やかに暮らしを整えること。
そして、その声を誰かにしっかりと伝え届けること。
渡辺さんが望んだことは実はこんな簡単なことに過ぎないのかもしれません。
いろいろな意味で、成長の時代は騒がしい時代でした。今だって騒々しさが消え去ったわけではありません。
ただ、少しづつですが、内側からの小さな声に耳を傾け、
それをチューニングしながら確かな足取りで歩き始めた若い作り手が登場してきたのです。
成長のためのノイズにかき消されていた小さな声が成熟に向けての灯となってともったのではないでしょうか。

広瀬一郎

1987年より西麻布にて器のギャラリー「桃居」を営む。
» 桃居

*11 須田貴世子
すだきよこ 1982年埼玉県生まれ。鋳造によるブロンズ作品を制作する。2011年、渡辺遼氏と結婚。埼玉在住。

渡辺遼・須田貴世子 二人展

渡辺遼・須田貴世子 二人展

2014/2/7(金)〜2/11(火)
@桃居/西麻布

桃居
03-3797-4494
東京都港区西麻布2-25-13
●地下鉄日比谷線六本木駅より徒歩10分
都バス西麻布バス停より徒歩2分
http://www.toukyo.com