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魅力は、
自然の力が持つおもしろさ。
たとえば重ねの器。
一番上はものすごい
うねりがある。 -
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では、井上さんからみた工藤作品の魅力とは何でしょうか?井上
やっぱり、木材のもつ自然なかたちだと思います。さっき「借りている」とおっしゃったけど、まさにそう。無理していないかたちです。その素材から、何をどう、引きだすのかというのは工藤さんの目と技術だと思う。工藤さんの作品から受ける印象というのは、自然のもつ力のおもしろさ。たとえば、重ねの器。一番下は割と凹凸がないんだけど、一番上までくると、ものすごいうねりが出ている。これは料理を盛ってみたら面白いだろうな、と思う。しかもそれが、あらかじめ仕掛けられていない、図られているのでもない。つまり、わざとらしさがないから、かもしれません。——
物としてそのかたちに惚れてしまう、ということですか?井上
存在していること自体を好ましく思っているんだと思う。何にも入れなくても、飾っておきたい、そう思わせる作品でもあります。どこが違うというと、感覚だから説明できないけれど。人の力だけでは作り出すことが出来ないかたち、なんだと思う。 そこには自然の理が存在している。最初に重ね皿を見たときには、本当にびっくりしたんです。一枚の板皿は見たことあるけど、重ねるって発想がなかったから。これこそ「へぎ」の魅力だと改めて感じました。
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器のあり方としても唯一無二ですね。他の誰でもなく、工藤茂喜だけの器。井上
だから、人に見せて驚かせたい!そう思わせる作品ね(笑)。工藤
ギャラリー介の個展で最初に作ったのは、箱ばっかりだったんですよ。で、2回目は「お皿出来ない?」って言われて、重ね皿を作った。僕の進化の過程には常に井上さんがいるんですね。ちょうどギャラリー介でやったのが4年だから、井上大学って言ってるんですけど(笑)。白木で作るという発想もそうですしね。井上
大げさですね(笑)。白木は個人的に好きなんです。さっき工藤さんがおっしゃっていた漆を塗り込めることだけがベストではない、というのと同感で……。つまり、木そのものが好きなんです。工藤
よく言われましたね。「来年は何?」って(笑)。で、少しずつ考えていって創りだしたのが、皿になり、このかたちになり……。井上
そうなんですか? (笑)。こうした丁々発止の掛け合いがまた面白かったですね。工藤さんは、こちらの投げかけに反応してくれるから。 -
人に見せて驚かせたい。
そう思わせる作品です。
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井上さんみたいにズバッと言う人は貴重かもしれませんね。工藤
それがいいんです。ムッとすることもあったけど(笑)。——
木地のかたちと漆の色の関係はどうやって決めるのですか?工藤
だいたい3種類ぐらいなんです。木地がみえるタイプと黒色と、あとは箔。おもしろいかたちの時は黒、立体を優先したい時は単色に。あまり節が無く変化に欠けるのは白木にして表情をつける。おもしろいかたちが出来た時は、塗りを複雑にしないように……。——
日常の器として、漆はどの程度の強度があるのでしょうか?工藤
漆は酸性にもアルカリ性にも強いんです。合成樹脂のような硬度はないですけど、日常的に使うには問題ありません。合成樹脂と漆の違いのひとつに、硬化の速度があります。たとえば、合成塗料がマックスに硬化する速度が一週間とすると、漆の場合は半年から一年もかかります。それの何が大事かというと、漆は木に発生した狂いや痩せについて行きながら徐々に硬化するということです。
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木の変化に寄り添いながら固まっていくんですね。工藤
そう。そして、木の変化が止まったころに、ちょうど良く硬化のマックスがくる。——
合成樹脂の場合は先にまわりが固まってしまうから、生地との間に歪みが出来てしまうということですか?工藤
合成樹脂、つまり石油精製品の塗料の場合は、木をパッキングしてしまうんですね。その後、木から水分が蒸発することをできるだけ少なくする。つまり、密閉型なんです。それに対して漆の場合は通気型。木に呼吸させるので形も動くけど、その動きが半年、あるいは一年たって止まった時に漆もマックスに硬化する。だから、落ち着くところに自然に落ち着いて、そのあと長くかたちが保たれるんです。 -
木の呼吸を妨げず、
変化に寄り添いながら、
自然に落ち着いて固まる。
それが漆です。
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人のような姿。
たとえば「祈りのかたち」
という作品……。 -
井上
「へぎ」作品については、これからどういう方向に行くつもりですか? 先日、とてもきれいなフォルムの部材を見せていただいたけど。ちょっと仏像に見えるような……。工藤
方向としては同じですけど、変化はしていきます。あの部材は板の角にあたる部分なんですけど、木目が角の外側に向かっているからすっと裂ける。それが、人形(ひとがた)に見えたり。たとえば、「祈りのかたち」という作品とか……。今はそういう方向で作品を手掛けてみたい。そう思うんです。井上
すごくいいタイトルですね。その作品の展覧会はぜひ見てみたい。そうしたオブジェの作品もあり、また器に戻るのもよいですね。工藤
その方向へ行ってまた戻ってきた時には、器も以前とは違うものが出来るかもしれない。自分の中であらゆるものが再構成され、新たな熟成がおこる。そうして出力されたモノは、アートと工芸の中間なるものにもう一歩近づけるのではと思っています。井上
期待しています。今日はありがとうございました。
インタビューを終えて
工藤さんと初めてお会いしたのは03年。作品展をやるスペースを探していると、ガラス作家の飯塚亜裕子さんの案内でお見えになった。 以来かれこれ7年のお付合いになる。作品展がらみの事だけではなく、たまには酒席をご一緒したり、色々、四方山話をしてきたが、今回の対談で、工藤さんの制作姿勢、考え方など、まとめて伺え、改めて興味深く、とても勉強になった。 又、とりとめのないおしゃべりだった今回の対談を、分かりやすく、うまくまとめて下さった峯岸さんには、とても感謝している。
井上典子
女性誌のリビングページ担当編集者としての活動の後、流通業界においてリビング分野の企画・プロデュースの仕事に携わる。2000年4月、作り手と使い手の間を介する(=仲立ちする)場として「ギャラリー介」を渋谷区東にオープン。ガラス、陶、木、金属、布など幅広いジャンルの作家の作品展を開催。2008年6月にギャラリークローズ。2010〜2011年までpanoramaのプロデュースを担当。