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インタビュータイトル

Interview 鎌田奈穂「しとやかな金属」 3/5

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子 / Sep. 2013

師匠の部屋で骨董を学ぶ

インタビューイメージ画像 『父の有り難う』P54,P55/著者:長谷川竹次郎/2007年/主婦と生活社

根本 長谷川竹次郎さんは人物的にもとても魅力的にお見受けしますけれど、つくられているものだけでなく、お人柄にも惹かれたのですね。

鎌田 とても尊敬しています。最初の頃は、竹次郎さんと直接仕事の話をするのではなく、まみさんが間に入ってくださっていたんですけれど、ある時、仕事場とは別に竹次郎さんだけの小屋というのがあって、そこへ一人で行っておいでと言われて、そこに入ってから竹次郎さんとお話するようになりました。

その部屋にはいろんな古いものが、金工とは関係ないものとかたくさんあって。部屋に入れていただいた時は、金工の仕事を直接教わることはなくて、そっちの世界の方を、まるで骨董市を連れ歩いてもらうように、ものを見るということを竹次郎さんからたくさん教わりました。貸して下さる本も、金属ではなく、高麗茶碗の写真集とかいろいろで、とにかく金属に限らず他の素材の「本物を見なさい」とよく言われました。竹次郎さんがぼそっと話される一言一言を、今でも鮮明に覚えています。

根本 いろんなつくり手の方が、古いものから知識をもらったり、繰り返し模倣することで技術を磨いたり、オリジナリティに近付こうとしたりするわけですが、鎌田さんの仕事も古いものからの影響を受けていますか。

鎌田 影響は大きいです。最初が鉄のウナギ獲りという古いものに惹かれて入った世界でもあるので、器をつくるにしてもジュエリーにしても、資料は古いものからなんです。

ジュエリーを本格的に始めた2年前に、コンテンポラリージュエリー*5という世界を知ったんですけれど、コンテンポラリーの世界にすごく惹かれていろいろ見て行く内に、コンテンポラリージュエリーの元となるデザインも、古いものからの影響というのがすごくあるとわかってきました。今は古いものとか新しいものとかっていうこだわりはなくて、きれいな形とかきれいな並びとか、そういういうものにとても興味を持っています。

根本 コンテンポラリージュエリーをくくる基準みたいなものはあるのですか。例えば王道の銀とか真鍮とかの素材でできているものはいわゆるジュエリーであって、樹脂や異素材の組み合わせでできているものをコンテンポラリージュエリーと呼ぶとか。

鎌田 そういうことは関係ないと思います。私が惹かれて好きになったものは、そういう樹脂素材などではなかったということもありますけれど、私が感じ取ったコンテンポラリージュエリーというのは、無駄が全部省かれて、その素材の持つ要素をいかにきれいに見せるかとか、建築的なものにもすごく近い感じがしたんです。プリミティブな並びのものもあるし、素直にきれいだなと、格好いいなと思えるものでした。

使うものをつくりたい

根本 鎌田さんの作品発表の流れは、器などが先で、後からジュエリーだったのですね。

鎌田 そうです。先ほどお話した自分の誕生日につくったバングルは別ですけれど、修行時代にもジュエリーは一切やらなかったので。

根本 出会いの対象として、ジュエリーとテーブルウェアというのは、ちょっとお客様層が変わってくるような気もします。ジュエリーだと外に向けての晴れやかなものであり、テーブルウェアは日常の豊かさを与えてくれるもの、制作する時の気持ちの切り替えみたいなものはあるのですか。

鎌田 ジュエリーとテーブルウェアを分けて考えたことはあまりないです。つくっている側だからかもしれないですけれど、ジュエリーもテーブルウェアも「使う」ものとして、同じ対象に捉えているんです。それが家で使うものか、身に着けて外で使うか、というところまでは、私は介入しないというか。

インタビューイメージ画像 パールのジュエリー

インタビューイメージ画像 淡水パールのジュエリー

根本 鎌田さんのつくられるパールのジュエリーは、パール自体はハレの印象だけれど、カジュアルな装いにはバランスを崩した面白さがあり、淡水パールのネックレスやピアスは、デニムにTシャツでドレスダウンするのも素敵です。

鎌田 チェーンの長さを調節できるので、服装に合わせて変えることができます。年齢も関係なくて、70代、80代の方も買って下さるんです。

ジュエリーに関しては、以前に人から、最終的にどんな人に使ってもらいたいかというイメージを持ってと言われたことがあって、一度考えたことがあったんですけれど、私はどうしてもハレの場で身に着けているところが思い浮かばなくて、日常の服装に着けているところばかり思い浮かぶ。自分がハレの服装で身に着けて人前に出ることもないですし、特別なジュエリーというよりは毎日身に着けるくらいのものの方が好きです。

根本 ジュエリーは身に着ける方が、それぞれに楽しみ方を知っていらっしゃると思うんですけれど、テーブルウェアとなると、まだ金属に馴染みのない方もいらっしゃいます。素材の歴史はかなり古いと思いますが、かなり昔のものというと、それは特別な人のものであって、庶民の出会うべき素材では到底なかったはずです。おそらく明治とか近年になって、カトラリー類に始まり一般化してきたのかなという気がします。

鎌田 そうですね。正直に言うと、まだ現代においても、金属の器というのは抵抗があるというか、陶器とかに比べたら日常化はしていないです。そこを押し付けるようなことは絶対にしたくないですし、でも、普通に日常に取り入れてもらえる時とか、そういう人がいたらいいなと思っています。

根本 ギャラリーではいろんな素材の工芸家のものを扱っていますが、何となく金属のものは量産品から抜け出せないでいるような状況があると感じます。それはたぶん、鎌田さんのつくる作品に出会っていない方がまだたくさんいらっしゃるし、私が感じるのは、金工作家さんの場合、個性が強いことで取り合わせが難しくなってしまうと思うのです。

鎌田さんはカトラリーも本当にシンプルに、使うということを一番に考え、素材のいいところを表現してまとめられていて、とても使いやすいです。ほかの器と合わせた時に、バランスが崩れないというのは非常に大事なことです。

インタビューイメージ画像

鎌田 私は修行時代にまみさんのカトラリー作品の下仕事をさせていただいたので、自分のつくるカトラリーにも影響が出ていると思います。まみさんは日常で使うものをメインにつくられていて、私の定番ものはその影響が強いかもしれません。

*5 コンテンポラリージュエリー:
素材に制約のない、ハンドメイドでつくられたジュエリー。
完成度は高く、美術・工芸品に近いものも多い。

鎌田奈穂展

鎌田奈穂展

2013/11/1(金)〜6(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分