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Interview 鎌田奈穂「しとやかな金属」 4/5

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子 / Sep. 2013

金属の味わい

根本 鎌田さんは、どんなところが金属の魅力であり、使っていく楽しみになると思われますか。

鎌田 やっぱり使っていると味が出てくるというところが、他の素材よりも金属はかなり強いと思います。使う人によっても、使い方によっても、使う頻度によっても、全然味の出方が違うので、そこを楽しんでいただけると嬉しいです。

根本 そこは私たち日本人がすごく好きなはずですよね。ものが経年変化で育つということを、もっと楽しんでいただけるはずというか。

鎌田 そう思います。お茶をやっている方は陶器でそういうことに慣れていることもあって、銀のものとかも使ってくださいます。根本さんが前に見せてくださったお使いのフォークもすごくいい味になっていて、そういうものを見ると、カトラリーや器のやつれ方を楽しむっていいなと思うんです。ただ、ステンレスの量産品のカトラリーなどを使っている方にとって、手入れをして楽しむという手間はなかなか難しいのかもしれません。実際に私自身もそういうところはありますし。

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根本 日本の木の箸と、朝鮮の金属の匙では、大きな違いですよね。もしかしたら、木や焼きものの文化で育った私たちにとって、金属は相手を傷つけてしまうんじゃないかという印象をどこかに持っているのかもしれません。金属の方が強いがゆえに、ちょっと距離を置くというか。そういう無意識のものなのかなと、感じる時はあります。青銅展のようなものを見ると、圧倒的に中国のものが多いですね。

鎌田 お茶の世界では、金属を持ち入れるのはタブーとされていましたし、嫌がられる素材とも言われます。でも、私が修行を始めた頃には、お茶道具に金属を持ち込むことはすでに当たり前のようにされていて、金属の菓子切りをお茶の稽古に持参される方も普通にいらっしゃいました。なので、お茶の世界で昔は金属の道具を嫌がっていたということを、私自身は身に染みて感じたことはなく、それでお茶の道具も金属でつくっています。

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根本 お煎茶の道具には金属はたくさんありますよね。

鎌田 そうですね。

根本 現在扱っている素材はどのようなものですか。

鎌田 金属は銀、銅、真鍮、洋白*6が主です。ジュエリーもパール、貝殻、ガラスくらいで、あまりギラギラ光る石には興味ないです。

素材の持ち味と用途

根本 それぞれの金属の特徴があると思いますが、表現したいものと素材との取り合わせというのは、直観的にこれはこっちだなと思えるものなのでしょうか。

鎌田 素材によってお手入れ方法が違うので、その用途にあった素材を選びます。それと硬さもそれぞれ全然違うので、それらがまず頭のどこかにあって、そこから自分のイメージしたものに近い色味とかを合わせて行って、そうすると素材は自然に決まります。

根本 器の形をつくる作業というのは、型に当ててひたすら叩いて行くことになりますか。

鎌田 当て金という鍛金道具を使うんですけれど、私はそんなに種類を持っているわけではなくて、意識してちょっとずつ手を動かして行くと、カーブとか角度を自由に変えることができます。逆に、当て金のままに打ってしまうと、ただ当ててつくっただけのものになってしまって、全然自分の選んだ形にはならないんです。なので、お皿をつくるにしても、自分でいいと思える角度のところで留めるようにします。

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根本 強い大きな力というよりは、微妙な力加減を繰り返す感じですか。

鎌田 力加減は一緒です。持つ角度で決めて行くんです。当て金というのは、素材の向こう側に当てるんですけれど、左手で素材を持って当て金に当たる角度を調節しながら右手で叩く。その時の角度とか、どこから当てるかということによって、お皿の深さが変わって行くわけです。

根本 なるほど。当て金はご自分でつくられるのですか。

鎌田 基本になる無垢のものがあって、それを自分でヤスリかけて好きな形に調えます。

根本 力でどうこうできるわけではないし、なかなか扱いづらい素材かなと思いますが、どういうところに苦労しますか。

鎌田 体力です(笑)。独立して始める時に、自分の家でできること以上のことは無理したくないと思ったんですね。それで、つくるものがどうしても小さいものが多くなってしまって。11月の「日々」さんでの展覧会は、これをきっかけにもう少し大きいものをつくってみたいと思って、今つくり始めたんですけれど、やっぱり体力がちょっとという感じです。金槌を振るのはてこの原理なので、あまりつくるものの大きさでは変わらないんですが、大きいものになるほど金属なので重たくて、支えている手がどうしても難しくなってしまうんです。膝に当てて支えないと持てないとか、20代の頃は持てたものが今は持てないということはあります。

手作業だけでつくる

根本 そうすると、この形をつくりたいと思い描く形はあっても、この素材では難しいかなというものも出てきますか。

鎌田 最初に迷うかもしれませんね。

根本 そういう時はどう折り合いをつけるのですか。

鎌田 でも、やってみますね。やってみてダメならあきらめもつきますし。とんでもなく無理だなと思うことは、たぶん思いつかないので、自分ができる範囲でちょっと難しいかなって思うくらいだったらやってみます。

根本 それはやはり素材をよく理解されているからですね。そうやって形になった時の満足度なども違うでしょうし。

鎌田 達成感はありますね。

根本 作品はすべて手作業によるものですか。

鎌田 そうです。機械は一切使っていません。

根本 ということは、それほど広いスペースがなくてもつくれるわけですね。

鎌田 はい。火を使うので、火と音が許される環境であれば、限られたスペースでもできます。

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*6 洋白:
銅、亜鉛、ニッケルから成る合金。洋銀、ニッケルシルバー、ジャーマンシルバーとも呼ばれる。
銀白色で、強度や柔軟性、加工性、耐食性に優れ、装身具やバネ材、電気機器材などに用いられる。

鎌田奈穂展

鎌田奈穂展

2013/11/1(金)〜6(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分