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インタビュータイトル

Interview 鎌田奈穂「しとやかな金属」 5/5

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子 / Sep. 2013

一人分業

根本 つくる流れとしては、1つのものを一気につくるのではなく、同じものを少しずつ仕上げて行くのですか。個人分業というか、今日はこの作業で、明日は別の作業というような。

鎌田 そうです。叩く日と決めたら何種類かのアイテムをまとめて叩いて、やすりの日にはまとめてやすりがけをします。

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根本 例えばスプーンやフォークは、1本をつくるのに何段階くらいの作業になるのですか。

鎌田 ものにもよりますが、「Silver Spoon」の場合、丸く切った板と丸い棒状の銀をまずくっつけてから、叩いて丸い形を出していきます。それは鍛金という作業です。「Small Spoon」の場合は、最初に厚めの板から糸鋸である程度の形に切り出して、それを叩いて伸ばして、そしてねじっていきます。

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根本 ねじってというのは?

鎌田 手でねじれるんです。銀は熱して軟らかくして、冷ましてからもつくれるので、角棒を手で持って、反対側をヤットコで挟みながらねじって整えます。

根本 大きな力をかけなくてもできるんですか。

鎌田 銀が限界の硬さになるまでなら。そこまでやって強度を出すというのが、ねじる意味でもあります。

根本 ねじったことによって強度が出るというのは、伝統的な仕事の中にあるものなのですか。

鎌田 どこまでねじると強度を出せるかというのは、修行する中で学べたことです。

根本 つくっていて楽しい素材というのはありますか。

鎌田 やっぱり銀が一番楽しいです。全然違います。

美しく使いやすく

根本 どの辺りが銀はいいのでしょう?

鎌田 伸びなんですけれど、仕上がった時の独特の粉吹いた感じというのは銀でしか出せないもので、銀は肉の寄り方が柔らかいというのがあって、とても密に出るんです。ただ、なかなか銀を使えるアイテムというのは限られてきます。

根本 銀の盃をつくられていましたね。

鎌田 はい。盃というのは、私にとって特別なイメージがあるものです。贅沢なものというか、銀を使ってつくりたいアイテムですね。

根本 わかります。銀をいっぱい使っていると、いいものという気がしますよね。銀というのは、その良さや価値をよく知られていますし、お値段が高くなったとしても、銀ならばと納得していただけるところもあります。

鎌田 そうですね。ちょっと贅沢ですけれど、薄手の銀で、小さなミルクピッチャーなどもつくっています。

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根本 一時期、金属ではないのに金属っぽくしている陶器が増えたことがありましたよね。金属への憧れがどこかにあるんだけれども、金属そのものよりは柔らかいというものが。

鎌田 ありますね。金属だけだと薄さが出るので、陶器のちょっと厚みのあるものに銀の釉薬がかかっているのを見ると、私もうらやましいなって思う時はあります(笑)。

根本 でも、鎌田さんの作品は、ハードさを感じさせないというか、ちょっと革のようにも見えたりと、いろんな表情を持っています。例えばお皿が真鍮そのままの色よりは、鈍色になっていることで、テーブルにのった時に、金属だぞと思わせない歩み寄りを感じて他のものと取り合わせができるし、それがピカピカの真鍮色だったらかなり難しいですよね。そういう加飾的な部分で、何か意識的に行っていることはありますか。

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鎌田 真鍮はすごく色が変化しやすいので、菓子皿として使うなら油分のあるものをのせることもあるだろうし、そこで著しく変化するのは嫌だなと思って色をつけたという面はあります。菓子切りで燻をつけたものは、最初に竹の菓子切りからイメージしたのでこういう色の仕上げになりました。初めから絶対こうでなければという完成形はなくて、用途とか使い勝手によって、色をつけるかどうか決めていきます。

根本 そういうところなど、日本の道具的なものを鎌田さんのつくるものに感じます。竹というものをどこかに感じて菓子切りをつくるというのは、竹でつくってもいいけれど、金属で置き換えたらこうなるよと。価値観や目的は意識しているのですから。

それは竹次郎さんのところで学んでこられたからという気もします。

鎌田 それはあるかもしれないですね。

新たな作品づくり

根本 11月には「日々」で作品展をさせていただくので非常に楽しみなのですが、どういうものになりそうですか。

鎌田 いろいろ迷っていましたけれど、先日根本さんとお会いした時に、何となく考えがまとまって、徐々につくり始めています。

今の段階で一番考えているのは、花入れの制作についてです。それと、「日々」さんの展示台はとても大きいので、少し大きめの器もつくりたいと思っています。この狭い作業スペースの感覚でつくっていると、どうしても作品が小さくなりがちで、一人用のものが多くなってしまうんですけれど、先ほどもお話したように今回はそこを覆してみたいというのもあって、器やカトラリーも大きいサイズをつくろうと試行錯誤しているところです。

根本 以前の展覧会に出されていた栞や、古い瓶の蓋なども素敵でした。

鎌田 栞はつくれますので、楽しみにしていてください。今回は古い瓶ではなくて、ガラス作家の大迫友紀さん*7に茶入れの制作をお願いしていて、そこに装飾の蓋を私がつくる予定です。

根本 具体的になってきましたね。

鎌田 私は考えている時に何か思いついたら、絵ではなくてメモみたいにただひたすら言葉で書いて行くんです。このやり方というのは昔からで、絵を描いていた頃も、クロッキー帳にデッサンではなくて文字で書いていたんです。絵に描いてしまうと、表現がそれになってしまうので。微妙なラインとかも、文字で書くと雰囲気で残りますから、それを形にしながら言葉の持っているものに近付けて行くというやり方をします。

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根本 まさに鎌田さん流ということですね。

鎌田 人に伝える時には、ある程度のクロッキーは必要なので、ざっくり描いたりもしますが。

根本 鎌田さんの作品展では、金属というものを、ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいですし、新しい作品に出会えたという喜びを味わっていただけるといいなと思っています。

今日はどうも有り難うございました。

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*7 大迫友紀:
ガラス作家。1979年生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁卒業、富山ガラス造形研究所卒業、金沢卯辰山工芸工房修了。金沢市の牧山ガラス工房にて制作。

インタビューを終えて

鎌田さんの作品に始めて出会ったのは2010年のことで、日々によく入らしてく下さる男性のお客さまから見せていただいた、真鍮の栞でした。素材の持つ硬さに、さり気ない鎚目を付けた、華奢な仕上がり、欲しいなぁと思いました。新しい作り手に出会える、一瞬の恵みが広がってうれしくなったのを覚えています。「火と音が許される環境なら制作できます」と話す鎌田さん。地道な作業の繰り返しから生まれる作品、物を作ることを仕事にしたいと思った強い想いとセンスの良さに可能性が広がります。

根本美恵子

ギャラリー勤務を経て、2004年エポカザショップ銀座・日々のスタートとともに、コーディネーターを勤める。
数多くの作り手と親交があり、日々の企画展で紹介している。
» エポカ ザ ショップ銀座 日々

鎌田奈穂展

鎌田奈穂展

2013/11/1(金)〜6(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分