
Interview 鎌田奈穂「しとやかな金属」 2/5
聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子 / Sep. 2013
弟子入りして金工の道へ
根本 長谷川竹次郎さんの元での修行時代は、どんな生活でしたか。
鎌田 本当にきっちりとした生活で、まず8時にみんな集まって、「一服」と言って、私がお茶を点てるところから始まります。私は7時半に行って、職場の雑巾がけと、庭がすごく広かったので庭掃きをして、8時にお茶を点てて、そして仕事開始。途中10時にコーヒータイムがあって、その時にみんなでラジオ体操して、そして12時きっかりにまみさんがつくってくださった昼食をみんなで食べて、13時から仕事を始めます。また15時にお茶を一服点てて、お茶菓子といただいて、17時きっかりに仕事は終わるというものでした。本当に1分狂わず、きっちりした生活でしたね(笑)。
根本 具体的にどういうものをつくっていましたか。
鎌田 弟子入り初日から金槌を振らせてもらいました。最初は下仕事がメインで、ヤカンの下仕事でした。本当に何にも知らなかったんですけれど、無謀にもやらせていただきました(笑)。
根本 できるものなのですか。
鎌田 徐々に、徐々にですね。作業しながら教えていただくというやり方だったのですが、お茶道具はメインでやられている職人さんがいらして、その方にみっちりとつきっきりで教えていただきました。
濃密な時間
根本 職人さん的な技術を学ぶということが中心の日々だったということですか。
鎌田 そうですね。長谷川一望齋としての茶道具の仕事、長谷川竹次郎さんとしての仕事、それと長谷川まみさんの仕事、その3つの下仕事をさせていただきました。それぞれテイストは違いますし、いろいろやらせていただきました。
根本 それはかなりいい修行ですよね。
鎌田 本当に今考えても贅沢なことで、みっちりと濃い時間でした。
根本 鎌田さんが今こうしてクリエイティブな仕事をしていく上で、とても役に立っているのではないですか。
鎌田 そうですね。今、私がつくるものも、ベースは茶道具のきっちりした仕事をどこか意識するところはありますし、竹次郎さんとまみさんの遊びの要素のある現代の仕事のやり方で最後は仕上げるというのも強くあります。ちゃんと基礎を教えていただいたのでそういうことができるし、本当によかったと思っています。
根本 その頃の職人的仕事の応用が、現代のものをつくる上でも必要ということですね。お弟子さん時代には、ご自分の作品的なものはつくられましたか。
鎌田 誕生日の時に、1つだけ自分の好きなものをつくっていいよと言っていただいて、ヤカンの持ち手をモチーフにしたバングルをつくらせてもらいました。その時に初めてつくり、同じものを今も制作販売しています。
根本 当時のものをお持ちですか。
鎌田 はい、ご覧ください。修行1年目の誕生日に、純銀でつくったものです。
根本 ちゃんと磨かれているきれいさがあって、大事にされていますね。これは一日ではつくれないものですよね。
鎌田 そうですね。5時に仕事を終えてから、夜に時間の許す限りという条件でつくったので、ちょっとずつ1週間くらいかけたかな。修行中もずっと腕にはめていましたし、今でもよく使っています。使っている内に、形が少し歪んでしまいましたけれど。
根本 その頃は、淡々と無駄のない日々を過ごされていたという感じですか。
鎌田 本当に充実した日々でした。だからびっくりするくらい欲が全くなくて。食べるとか生きるために必要なこと以外に、何かが欲しいとか何かがしたいとかっていうことが一切なかったんです。学ぶことで欲がすべて満たされていたんです。
根本 すごいですね。そういう思いに浸れた実感が持てるのは、なかなか貴重なものですよね。
鎌田 今、東京に出てきて、欲にまみれている自分がいますから、何か不思議です(笑)。
根本 竹次郎さんのところには、どのくらいいらしたのですか。
鎌田 きっちり2年間でした。最初は3年間の予定だったのですが、いろんなタイミングもあって、自分の作品をつくってみたかったですし、竹次郎さんから3年分の知識は得られていると言っていただけたので、独立することになりました。
根本 独立後は、職人というよりは自分のクリエイティブな作品をつくっていくというのが基本的な体制ですか。
鎌田
そうです。独立して東京へ出てきた当初は、仕事がすぐ決まるわけでもなく、少しずつ作品をつくり貯めておいて、一方で、頼まれて職人としての仕事も少しはやっていて、今でもそれはやっています。
私が独立する時、他の伝統工芸のところへは学びに行かないようにと言われました。それはなぜかと言うと、叩き方ひとつにしても違うからなんです。たとえば新潟の燕市の叩き方とか、東京の鍛金の叩き方とか、美大で教わる叩き方とか、それぞれのやり方があって、長谷川家なりの叩き方の仕上がりがあるんです。実際にそれが違うというのを私も感じます。少し柔らかめなんですね。そこを崩してはいけないと言われましたので、今もその叩き方を守って制作しています。
鎌田奈穂展
日々 -にちにち-
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