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Interview 羽生野亜 聞き手:井上典子 文・構成:竹内典子

木に寄り添う仕事

自分のつくりたいものを
具体的にする。
そのための技法を探した。
インタビュー風景

羽生
李朝を見た時だったかな、そのことを初めて感じたのは。フラッシュでは、ああいう空気は流れないわけです。陳腐な言い方かもしれないけれど、作品の気配とか、どういう空気が流れ出るのかとかいうことに、十年かそれ以上かかってしまった。視覚より、どちらかといえば触覚に近いのかな。それを具体的につくるために、技法が必要なんです。自分の中のモヤモヤとした空気感をどうしたらつくれるんだろうか、というのが作家の欲求なので、つくり方は後なんですよ。いろいろつくってみて、このつくり方はちょっと自分の求めているものとは違うって、その繰り返し。そして「逆目」※11という技法を編み出した。結局、僕の仕事は木にかなり近いんです。

井上
近いというのは?

羽生
つくる人と木の関係が、濃厚ということです。

井上
素材ありきってことですか?

羽生
僕は素材に惹かれたのかもしれない。素材を手がかりにしようとしたというか。木工の工程に木取りというのがあって、普通はまず図面があるから、部品を木のどこから効率よく取るかというアプローチをします。僕は木取りの方法もちょっと違って、木を見てから何をつくるか考えるんです。注文を受けづらいという理由もそこなんです。極端に言うと、つくるものの寸法も木が決めてしまう。流通しづらいんですけど。

井上
注文品も量産品も、ある程度の数を揃えるとなると、寸法は平均化しないとできないですものね。

羽生
僕の理想は、倉庫に積み上げた木材の上から順に取ってつくること。寸法の決まった注文の場合、木を十数枚も並べて、それを全部測っていきます。大きい板から小さいものをつくれることはわかってても、1センチも無駄にしたくない。人間の都合で使えるところを切ってしまうというのは、とても抵抗があって、だから困るんです。1枚の板が欲しいだけなのに、十数枚も立てかけて計測して、縦はいいけど横が足りないとかいろいろあって、相当に時間かかります。この前も、注文のサイズに一番近い板をやっと見つけて、でも3センチ大きかったんですね。仕方ないから、3センチ大きくても大丈夫ですかって電話しました(笑)。

井上
木に寄り添う仕事ですね。羽生さんご自身は、クラフト、工芸、美術、デザインというジャンルの中で、作品をどこに位置付けていますか?

羽生
そこの整理ができないんで、そういう質問されると困ってしまいます。自分が支流だっていうのは、そういうことなんです。ジャンル的な線引きに対して、的確に自分の仕事を冷静に見て分析することがまだできない。だから僕は消えていく。いつかその説明ができたら消えないかもしれないけど(笑)。

井上
ジャンルに答えがない、「木の作家」ですね。今日は有り難うございました。

いつも思う。
使える木を1センチだって
無駄にしたくないと。
工房風景

インタビューを終えて

羽生さんが、ひとつひとつ言葉を選んで話して下さった内容は、とても興味深いものだった。木工の訓練校に行った理由、家具作りを学んだら発想が変わってしまったという事、これまでの軌跡。そこには、ご自身を客観的に見つめる目と思考、オリジナリティにこだわる信念があった。と、同時に"ものづくりの原点"を感じさせる内容でもあった。
ふと、人は何かに導かれるように、己の道を進んでいるのかもしれない、そんな事が頭に浮かんだりもした。

井上典子

女性誌のリビングページ担当編集者としての活動の後、流通業界においてリビング分野の企画・プロデュースの仕事に携わる。2000年4月、作り手と使い手の間を介する(=仲立ちする)場として「ギャラリー介」を渋谷区東にオープン。ガラス、陶、木、金属、布など幅広いジャンルの作家の作品展を開催。2008年6月にギャラリークローズ。2010〜2011年までpanoramaのプロデュースを担当。

※11:逆目
手入れが出来ていない道具を使用したため綺麗に削れず、木の表面がささくれた状態になること。
職人の世界では、恥ずべき仕事。

羽生野亜