Exhibition Report / Reported by m.makino
浜野マユミ作品展 2013年7月6日(土)〜9月23日(月・祝) / 戸栗美術館 1階やきもの展示室
2008年の個展を最後に、個展活動を休止されていた浜野マユミさん。
ファンが待ち望んだ5年ぶりの新作個展の場は、渋谷区の戸栗美術館。
7月6日より開催中の『小さな伊万里焼展』会場内で、関連した現代作家の作品展を同時開催するという企画で、詳しい内容としては、江戸時代の伝統技法を用いて日本の四季を表現した小皿・猪口、そして制作に用いた道具類も展示紹介をするというものです。従来の個展の様な販売のスタイルではなく、展示をメインとしたというのは、彼女自身初めての試みであり、たいへん興味深い企画であると感じていました。
展覧会初日、会場には浜野さんがいらしたので、いろいろとお話を聞くことが出来ました。
お休みをしていた5年の間には、制作に対する意欲はずっと持ち続けていらしたものの、生活環境が変わったこともあり個展を開くという機会をなかなか持てず、帯留め※などの小さな作品発表程度に留まっていらしたのですが、『青い空の下で、作品を売ってみたい。』という素朴な気持ちから2012年11月「瀬戸内工芸祭2012」に参加することになったそうです。久しぶりの器作りとお客様とのふれ合いを活動再開のきっかけの一つとして、その年の暮れに今回の作品展のお話が決まり、本格的に始動することとなりました。
日本の四季を表現した作品は、ひと月ごと季節感のあるものをモチーフにしています。
一月は松竹梅、八月は蛸、十二月は唐草など、そして、器を使う情景まで考えて作られたそうです。
聞いたお話の中で特に印象に残ったのは、六月の作品「白磁 梔子文 輪花皿」です。『くちなしの丘』という曲の歌詞にある「花の向こうに 君が見えたら 何を話そう」というフレーズをヒントに作られたもので、二人の男女が食事をともにするための器として、掌にお皿をのせた時のサイズまで深く考えたそうです。
この作品について更に興味深く思ったのは、その形でした。輪花というと幾何学的に規則正しい輪郭をしたものが多く見られますが、敢えてそうしなかったのは、伝統的な技法で作りながらも、今の時代に当てはめるべき姿を考え、今だから作る意味を追い求めたかったという浜野さんの気持ちの表れで、それは見事に魅力的なものとなっていました。
今回の作品のほとんどを、佐賀県有田町の産地に出向いて作られたそうです。展覧会のために何度も通い二ヶ月以上の期間をかけて現地に滞在し、土、焼き、絵の具のすべてを勉強しなおし、様々な試験を行いながら制作されました。当時の陶工たちがどうやって作ったのか、作品を見て、資料に目を通し、当時の話を聞き、少しでもその想いに近づきたいという気持ちで制作されました。
浜野マユミさんと言うと、「染付の作家」という固定したイメージを持っていたのですが、今回の展覧会ではそれを見事に打ち破りました。
17世紀中ごろ当時に発展した、「糸切成形」と言う技法を用いて作られた複雑な形の器の数々は、染付がなくとも十分すぎるほど素敵な作品です。
と、思いきや、DMに使われた三月「色絵 櫻花文 筒型猪口」では、こんなにも色気を漂わせた雰囲気をもった姿を見せられると、やっぱり浜野さんが描く絵をもっと見たいと思ってしまいます。
今回の個展作品制作にあたっては、現在一般的に使用されている天草陶石のほかに、江戸時代に使われていた泉山陶石も使用したそうです。有田窯業大学の同期生だった白華窯の吉永サダムさんが、泉山陶石について研究をされていたので、一部制作協力をお願いしました。一つの作品を作り上げるのに本当に試行錯誤の日々を送り、十個形を作っても、完成するのは一個しか出来なかった。それでも、さらに研究を重ねて今回の発表の場になんとか辿りつくことが出来た。五つ同じ形の小皿があっても、すべて焼きが違うんです。
作品を見ながら制作時のそんなお話を聞くと、「浜野ラボ」と名付けたくなります。
そのすべてが楽しいことの連続だったと、浜野さんは制作した日々を振り返っています。(panoramaでは、浜野さんと制作協力に関わった方々との座談会をUPする予定です。)
『小さな伊万里焼展』会場内の作品で、特に好きな作品はどれかを聞きました。第一展示室にある「色絵 梅花丸文 分銅形皿」という作品で、分銅形に糸切成型した変形皿で、器面には型押による花文様が陽刻され、表には染付と色絵、裏には牡丹唐草文を描いたものでした。その作品を見つめながら、どんなにこの作品が素敵なのかを熱く語る姿、「有田町で作られた古陶磁が大好きなんです。好きな作品が前にあれば、何時間でも見ていられます!」という彼女の言葉には、これからも作っていきたいものがたくさん溢れているのが分かりました。
DMには次のような言葉が添えられています。
「古伊万里の陶工に思いを馳せ、今、この瞬間の夢を込めて、うつわをつくりました。」
今の時代の彼女が作る、彼女ならではの陶磁器の世界を堪能しながら、
これから実現していくであろう夢を楽しみにしていきたいと思います。
Reported by m.makino
Archives
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