panorama

Exhibition Report / Reported by m.makino

小西潮「赤×黒 潮工房展」
2012/6/14(木)~19(火)
» 輝山/田園調布

小川郁子「小川郁子 切子展」
2012/6/13(水)〜6/21(木)
» SAVOIR VIVRE/六本木

2012年6月のリポート後半は、小西潮さんから。
小西さんは、パートナーである江波冨士子さんと、田園調布にある輝山(きざん)さんで
新作展「赤×黒 潮工房展」を開催していましたので伺いました。

小西さんの作品を拝見するのは、今年四月に福島県郡山市で開かれた
BUN BUN BUN 潮工房展」以来です。
このタイトルは、震災からの復興を願い、お花畑に蜂が飛ぶ穏やかな時間の姿を表し、
それらをイメージした作品が並びました。このように彼らの展覧会には、いつもテーマがあります。
今回の「赤と黒」は、ずっと前から温めていた企画だそうです。

会場風景

まず、ガラスは溶かすことから始めるのですが、赤の発色はほかの色と比べて、
窯を傷めやすい性質があるため、坩堝(るつぼ)を取り換える頃合いで、
色を溶かすといった心積もりが必要です。
また、黒のガラスは非常に軟らかい性質のため、吹きガラスの制作工程では、扱いが難しい色だと言えます。
これらの難しい性質のガラス同士をぶつけ合うということは、相当な意気込みが必要です。
ギャラリーの輝山さん側からは、インパクトの強い、衝撃的なものを展示したいとの意向で、
いままで温めていた企画を、今回にぶつけてみたのだそうです。

会場風景

確かに店内に入ると、どうだ!とばかりの赤と黒の小西さんのレース作品、
江波さんのムリーニ作品が並び、とても衝撃的でした。
赤と黒を主とした作品の他には、それぞれの色にほかの色を組み合わせた作品などが並んでいました。
私が伺ったのは四日目でしたので、すでに販売されてしまった作品も多くあったようですが、
まだまだ見ごたえのある作品が展示されていました。

ゴブレットや花器、茶道具の棗、振出などが並ぶ中で、一際可愛らしさのある作品は、
こちらの白レースに黒をアクセントにした水滴と赤いレースの小皿でした。
小ささが分かるかなと思い、小西さんに手にしてもらいました。
他の赤と黒のインパクトのある作品群に埋もれず、私の目に留まりました。

会場風景

「BUN BUN BUN潮工房展」から発表され始めた燭台シリーズは、今回新たな試みが見られました。
赤と黒の織り交ぜたレースを軸に、 前回は無地だった受皿と土台の部分にも
レース装飾が加えられ、素敵に進化をしていました。 受け皿と土台は、同じレースでも制作工程が違う場合があり、ガラスの玉を潰して広げる方法と、
吹きガラスで広げていく方法などがあることを、小西さんが分かりやすく丁寧に教えてくれました。
毎回、新しい展開を見せ驚かせてくれる潮工房の個展は、見る側を楽しませてくれます。

会場風景

田園調布ときくと、少し敷居が高く感じましたが、オーナーの竹内さんをはじめ、
小西さん、江波さんが、とても丁寧な説明と接客をされていて、
訪れるお客様方は皆楽しそうに作品をご覧になっていました。
panoramaでの小西潮さんのコンテンツも、いよいよ近日アップされる予定です。
私は、小西さんのインタビュアーをさせて頂きました。
小西さんから楽しい話をお聞きしたのは、ついこの間のことだったように思っています。
是非、そちらも楽しみにしてください。

続いては、サボア・ヴィーブルさんで開かれている、小川郁子さんの切子展を見に出かけました。
会場を訪れると、着物姿の小川さんがいらっしゃいました。
その着物は、先日同じくリポートした小倉充子さんの個展の新作でした。
初めましてのご挨拶をして、さっそく作品を見せて頂きます。

会場は、グラスなどの器類が中心の部屋と、帯留めが並んだ部屋の二つに分かれていました。
グラスの展示スペースは、会場の照明、飾り棚の高さなどが丁度よく、
作品の色鮮やかさがよく出ていて、魅力をより引き立たせていました。
カラフルな色合いで緻密に彫られた紋様のグラス、木工や銀細工と組み合わせた蓋物、
そして帯留め、こんなにも多くの作品が展示されているとは思いもせず、驚きと興奮がありました。

会場風景

グラスのほとんどが色を被せたもので、そこに施された小川さんの手による
切り子の細やかさ、緻密さは、たいへん目を見張るものでした。
小川さんのインタビュー記事にあった「やるならちゃんとやらなきゃと。」という、
ご本人の言葉がすぐに浮かびました。

会場風景

会場風景

元になるガラスの生地は、希望の形状や細部の厚み、色までを指定して吹いてもらうそうです。
そこまで指定するから、すでに紋様の構想はあるのかと思いきや、届くまではまったく考えず、
すべてのデザインは、手元に生地が届いてから考えるとのことでした。
カット(切り子)は、模様を刻んでから番手の違う砥石で何段階かに研磨していきます。
ガラスの表面に刻まれたばかりの模様は、磨りガラスのように 不透明です。
透明に仕上げるにはそれを研磨していきます。会場に、対で並べられた白と赤の蓋物が飾られていました。
白は、彫った部分を磨いていないもの、赤は綺麗に磨きあげたもの、
この対照的な二つは、とても綺麗な組み合わせでした。

会場風景

蓋物の展示台には、様々な色の作品が並んでいるのに、喧嘩をすることなく、
むしろお互いを引き立たせていました。
蓋は伝統的なこけし職人の方に、出来た作品に合わせて、ぴったりと作って貰っているそうです。
取っ手の部分の形状も様々で、買い手は選ぶ楽しさがあります。

会場風景

会場にご自分の着物を持参して、実際に帯留めを熱心に合わせて選ばれている女性がいました。
こうした光景は、見ていてとても微笑ましく、小川さんもそのようなことは初めてだったので、
嬉しかったと話してくれました。小川さんの印象は、とても穏やかなお人柄。
だけど、師匠に弟子入りを拒否されても願い続けたり、大きな作品も小さな作品も、
正確に綿密に彫るところから想像するに、ブレのない芯のある人なのだろうと思いました。
次回お会いしたときには、その辺りのお話をもっと伺いたいと思いながら、会場をあとにしました。

会場風景

今回は、東京都内で同時期に開催した四つの個展についてリポートをしました。
二日間で四つを回る、多少ハードな企画ではありましたが、
四者四様のかたちを見ることができた楽しいリポートとなりました。

Photo & Reported by m.makino