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Exhibition Report / Reported by m.makino

小倉充子「江戸に一献
オグラカタビラ -ハレ-」
2012.5.18-24
» gallery+cook lab como

長谷川 奈津
「陶展」
2012.5.16-21
» うつわ楓

小倉充子「江戸に一献 オグラカタビラ -ハレ-」/長谷川 奈津「陶展」

コモで開かれている、小倉さんの個展を見に行った。
今回の個展DMには、
「生まれる時代を間違えたんじゃないかと思うほど、江戸の香りがぷんぷんしています」
と書かれていた。
間違いなくその通り。
今の時代を生きているというよりも、「粋」ているのが小倉さんだ。
彼女の作品を評するときは、粋だね~カッコイイね~が正しい褒め言葉で、
可愛いとかは控えるべきだと思う。笑

会場では、着物姿の小倉さんがお出迎え。
帯は「大川舟遊び」の手拭いを仕立てたものだという。
いいね~。いきなり「粋」を見せつけられた。

会場風景

新作の夏きものの一つ「雪南天」は、玉川奈々福さんの浪曲『銭形平次~雪の精』を聴いたとき、
頭から離れなかった情景を描いたものだと言う。
夏きものなのに、大胆な雪の結晶。そして隠れ模様の南天。
黒かと思わせるような濃紺から、濃灰、淡灰へと変わる。
かっこよすぎるじゃないか・・・小倉さん。次なる「粋」を見せつけられた。

会場風景

お酒をこよなく愛する小倉さん、龍ヶ崎の工房にいるときに起きた大きな地震では、
酒瓶を持って表に飛び出たとか出ないとか。(たぶん持って出たのが本当かと。)
そんな酒好きが描いた、江戸切子の盃とつまみの図案は、綿と麻の紬の地に描かれている。
織られた紬の地柄と図案が非常によく合っていた。

会場風景

注染とは書いて字のごとく、染料を注いで染める。
型紙に描かれた穴の開いた部分は、糊付けされ地色に保護され、
それ以外の部分に染めたい色を注(さ)していく。
仕上がった色次第では、図案が同じでも作品の雰囲気ががらりと変わるが、
それは着る側にとっての楽しみとなる。
今年の干支として描かれた「富士見龍」では、
「消炭/青」「赤紫/黄」「草柳/黒」の3種の色展開がされていた。
見ると着るとでは違うのが着物。
毎回個展では、試着もできるので是非当ててほしい。

会場風景

DMに使われた「九尾の狐」の図案は、9本の尻尾を持つという狐の妖怪伝説を描いたもの。
大きく描かれた狐の尾の流れの構図が、大胆でカッコイイ。
新作図案で描かれた「ガラ札」と呼ばれる江戸時代の遊び絵札の話や、
銭形平次の話、お客さまと好きな歌舞伎や落語談義をするときの小倉さんの顔は、本当に嬉々としている。
酒と落語が好きな小倉さん。自分の個展は自分の一番居心地のいい空間なのかもしれない。

会場風景

小倉さんの作品は、コモの個展に続いて6月20日から日本橋三越本店で開催される
「江戸ゆかたフェア」にも出品されます。是非お出かけください。

続いて、小倉さんの個展会場のすぐ近くで、長谷川奈津さんが個展を開いていたので伺った。
場所はうつわ楓さん。
お店に伺うと、3組ほどのお客さまがひとつひとつ丹念に作品を見ていらした。
長谷川さんの器は男性にも人気で、私が伺っている間にも
数名の男性が、お気に入りの作品を求めにいらしていた。

会場風景

長谷川さんの作品の良さは、押し付け感がないところだとおもう。
器としての形、色、重み、どれをとっても嫌みがない。
見ているとそろりと作品が寄ってくる。手にしていると心地よさを感じ、
作品が手元から離れなくなる。
楓の店主さんも、購入されたお客さまに「どんどん使ってあげて下さい。
更に味のあるいい感じに変化していきますから。」と話されていたが、その通りだと思った。

以前、長谷川さんの器で日本酒をたくさん飲んだことがある。
それはそれは、口当たりがよくお酒が本当に美味しかった。
器も一緒に旨そうに酒を飲んでいるように感じた。

会場風景

ここ数年展開している黒色の鉄釉作品は、特に微妙に違う色の変化が面白い。
深みのある黒や濃緑に見え隠れする鉄分の朱色。
どの部分にお客さんが反応し、感じるのかが楽しみな作品だ。
他に粉引、松釉、林檎釉、そして土を変えたものなど、どれもいい味わいを見せていた。
様々な釉薬の色合い、無駄のない見込みやかたちを眺めているだけで、
時間が過ぎるのを忘れてしまいそうになる。
お店に入ったときにいらしたお客さんと同じ自分がいた。

会場風景

じっくりと器を拝見したころに、所用で出かけていた長谷川さんがお店に戻ってきた。
器を見てすっかり満足してしまった私は、作家本人に問いかけることをあまりしないでいたら、
今後は、灰釉の作品を更に広げていきたいと、長谷川さんから話してくれた。
楽しみな言葉だった。
これからも、器を使う楽しみを感じさせてくれる作品に期待したい。

会場風景

Photo & Reported by m.makino