Interview 津田清和「ガラスと器と探究心」 5/6
聞き手:山本忠臣「ギャラリーやまほん」オーナー / 文・構成:竹内典子 / Jun. 2013
ものから伝わる力
山本 津田君は民藝の思想をよく話すよね。使いやすさとか、安価さとか。もちろんそれはすごく大事なことと思うんだけど、僕にとってはものから発するそれぞれの時代の空気感のすごさという点で、桃山の茶碗と民藝はもちろん違うけれど、そこに魅力を感じる。僕がものを見る時の一番強い動機は、そのものの精神というか、にじみ出るものを感じたい。それがたぶん自分にも必要だと思っている。そういう気持ちよさってあるんじゃないかな。例えば、津田君のつくるものの繊細な表現が、ものに込められたかすかな欠片とか感性とかになって、はっきりとは言葉で言えないけれど確かに何かを感じる。だから、そばに置いておきたい。そういうものがテーブルにあって、僕自身が愉しめるというかな。
津田 僕は精神性もってつくってないですよ。
山本 それはつくり手の創作意識とは別のものと思う。その人の何かがものに染み込むから、それがたぶん良かったり、悪かったりするんじゃないかな。民藝のものだって、職人が親方に言われたようにつくらないといけないし、ものすごく賃金をもらって仕事していたわけでもないだろうし、その中ですごい精神をもってつくっていたかといえばそんなこともないわけで。だけど、その時代の空気を、勢いとか力強さとかをすごく感じるよね。
津田 つくる側から言うと、ものづくりってあまり難しく考えるとどんどん深みにはまっていくから、考え過ぎてはいけない。自分が何かしら感動した部分、それはほんの一部かもしれないし、周りの空気感かもしれないけど、そこが結局具体的な形になっているだけだと思うんです。
山本 だから、そこにのっかっているものって大きいと思う。その人の生き方とか考え方とかがものから出てくるし、その空気感を感じたい。手に取ること、そばに置いておくことで、自分の感覚が揺さぶられるというのは、僕は一番面白いところだと思っています。
津田 僕自身も、いろんなものづくりとか文章とかに触れてきて、その人の世界観に触れるよろこびってわかります。感化されたり、日々の感動が生まれたりします。おそらく、津田清和という名前でやっているからには、ものをつくり続けている限りは、そういう世界観みたいなものは、必然的に出てくるんじゃないかな。
技術の上手い下手は、時間経ったらある程度は誰でも上手くなるんです。だけど技術だけでは人を感動させられへん。素人に近いような感覚も大事というか、技術は拙いけれど、何かグッとくるものってありますよね。僕もつくり始めて、たかだか十何年くらいだから、語るほどのことはないんだけど、僕も時代性を感じながら、いろいろ考えながらものをつくっていて、でも、あまりあれこれ言葉とか頭だけで考え過ぎないようにしています。もので提示したいと思うから。
感受性の中の単純さを大事に
山本 それなら、何をしようか、どうしようかと(笑)。
今度の6月の展覧会では、アートとか工芸とかいう言葉から少し離れて、津田君がガラスを美しいと思う色とか表情とか、そういうものを感じてもらえるような展覧会にしたいと思っています。津田君と二人で話したことだけど、基本的には形に気持ちがとらわれない、どちらかというと光に目が行くようなイメージです。ガラスや工芸の知識のない子供や大人も、ただきれいと感じてもらえるもの。そういうものが津田君の旨味の中にあるんじゃないかと思っているので、そこをお客さんに感じてもらえたらなと思います。
でも、そういうものの力を感じ取ってほしいとただ伝えるのは非常に難しいので、今度の津田君の展覧会では少し別な形で、きれいと感じる原形のような作品を展示して、それがあることでその部分を具体的な器などの作品からも感じ取りやすくなればいいなと。ギャラリー側としてはそんな意図を持っています。
津田 言葉の説明ではなかなかつかみどころがないかもしれませんね。例えば織物の人ならば、植物から一つの繊維を紡いで糸をつくり、それを機にかけて布に織り上げるわけですけど、それは織物になる前にすでにつくっているんですよね。紡いだ糸はその状態では市場になかなか出ないけれど、そこにきれいなものができている。そういった単純な部分、何かが形になる前のきれいな部分は、ガラスにも実はいろいろ知られていないところがあって。それは僕一人の狭い視点かもしれないですけど、感受性の中で自分が単純にきれいだなと思うものを一つ展示して、それが具体的にはこういう形に、用途のあるものになっていっているという流れを見せたいと思います。
織物でいえば、チクチクするような素材は首に巻くものではなく敷物になるとか、素材によっていろいろな用途に変わって行きますよね。結局、初めに何かしらの感動する要素があるからこそ、いろんなものを手に取って使ってもらえたりする。それは僕自身がものを買う時の基準でもあるんだけど、頭で考えるような理屈じゃなくて、自然と手が伸びるようなものっていうのかな。もちろん僕も普通に暮らしている一生活者なので、ふだんに使えるものが中心になっていくと思います。
山本 意識をそこに向けてもらう、そのことでまた違ったものが見えるかもしれないですからね。僕はつくり手それぞれが感じていることを、時にはダイレクトに伝えるということも重要と思っていて、そういう試みでもあります。
津田清和 硝子への眼差し
会期中休廊日 火曜日
回廊時間 11:00 - 17:30
gallery yamahon
518-1325 三重県伊賀市丸柱1650
tel/fax 0595-44-1911
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