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Interview 田淵太郎 聞き手:井上典子 文・構成:竹内典子

薪で焼く白磁の可能性を信じていきたい

白磁の窯変はきれい。
そこに興味があるし、
可能性を信じている。
田淵太郎:窯焚き風景

田淵太郎:窯焚き風景

田淵太郎:窯焚き風景

井上
窯焚きにはどのくらいかかるんですか?

田淵
丸4日間です。100時間。

井上
私が一番お聞きしたかったのは、白磁を焼くのに薪窯であえて匣鉢(さや)を使わず、窯変※6させるというのはなぜか、ということです。私が焼き物の歴史を学んだ中で"白い器はその白さが尊しとされ、白磁は人類の達成願望であった"とあり、ずっとそう思い込んでいました。
かつ、つい最近まで白磁というのは、とにかく白く美しいことに価値があるとされてきたと思います。でも、田淵さんは白さではなく窯変を追及していますよね。

田淵
歴史をぶち壊すような変わったことをしようという思いは全くありません。ただ、白磁の白さが尊いという考え自体も、僕の中にもともとないんですよ。白磁をきれいと感じる感じ方は人それぞれだと思うけど、自分にとっての白磁は、窯変によって少し汚れたような、でもすごくきれい、といったもの。そこに興味があってやっているだけです。
薪で焼くことしかできなかった近代までは、いかに美しく白く焼くかということが白磁の歴史だったと思います。でも今の時代、ガス窯も電気窯もあり、白く焼くことは昔ほど難しいものではなくなっていると思う。そんな時代に生きる僕にとって、「より白く」という発想は全くないですね。それよりも、自分が純粋にきれいと感じるものを焼いていきたい。

井上
白さにこだわりはなかったのですか?

田淵
白く焼けて嬉しいというのはないです。

井上
では、なぜ陶器ではないのですか?

田淵
白磁の窯変がすごくきれいと感じるし、その可能性を信じていきたい。その思いが強いんです。

井上
薪窯は焼成によって釉の流れが生じるなど、面白い変化がありますよね。そこを想定してフォルムをつくっているのでしょうか?

田淵
大きいテーマとして、磁器らしく、薪窯らしく、というのはあります。薪窯ならではの色とか質感というのは僕にとって大きくて、それに見合ったというか負けない造形ということもありますけど…。より窯変が映るような形というのは頭にありますね。

井上
なるほど。

田淵
磁土を使っている以上は磁器らしい形というのがあると思うし、それをうまく焼きで見せられるような形づくりというのは意識しますね。

井上
平たく言うと、軽やかさ? 一般的に、土ものはざっくり、ぽってりで、磁器はすっきりというイメージがあるでしょう。

田淵
軽やかさはそうですね。

井上
加藤委さんの他にも、影響を受けた方はいますか?

田淵
好きな陶芸家では、伊賀の植松永次※7さん。作品は今も大好きです。

井上
どんな所に惹かれますか?

田淵
いい意味で、ゆるい感じ。肩から力が抜けているというか、自然体な感じが好きです。

井上
わかる気がします。田淵さんの作品は無理してないですものね。

田淵
形づくりもそうですけど、自然体というのはこれからも大事にしていきたいです。

形づくりは
磁器らしく、薪窯らしく、
より窯変が映るように。
田淵太郎:制作風景

田淵太郎:花入れ

※6:窯変(ようへん)
焼成時に、釉薬や素地が化学変化を起して、釉の色や表情に変化が生じること。薪窯焼成では、炎の変化や、薪の降灰によって生じる場合が多い。

※7:植松永次(うえまつえいじ)
三重県伊賀の陶芸家。土の柔らかさ、やさしい力強さを感じさせる造形。

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