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「風景」を形にできたら。
窓からの景色のように
時間の中で紡がれていく風景。 -
根本
西浦さんの作品には、作品の描き出す風景の中に、自分も入り込んで共存しているような、その光景を俯瞰しているような印象を受けます。舞台美術的な背景を感じる、という言い方もできます。西浦
それは嬉しいお言葉ですね。僕にとって「風景」というのはすごく大切なものです。風景を形にできたらいいなと思っています。目の前にある風景だけでなくて、時間の中でできていく風景、そういうものを形にしたい。始まりも終わりもない移ろいの中にある風景をつくりたいと思っています。根本
なるほど。西浦
毎日、窓から外の景色を見ていて、見る度に視点を置くところは違いますよね。葉っぱを見たり、花を見たり、電線を見たり。晴れ空が見えることもあるだろうし、雨粒が見えることもある。僕の作品は、そんな窓のような存在になれればいいなと思うんです。作品を購入してくれた方が、家のどこか片隅に置いて、それを見る度にその先に異なる世界が広がっていくような。
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根本
夢の中のものとか、そういうものが作品に表れることもあるのですか?西浦
景色や不確かな過去のイメージが出てくることはあります。ほかにも宮本輝※4さんの本を読んだり、テレビで「ファッション通信」※5を見たり、サラ・ムーン※6の写真を眺めることで触発されることもあります。サラ・ムーンの写真は作品の中にフワーッと入り込んで、そこにちょっと居据わってみたくなるような、そういう奥深い風景があって惹かれます。宮本輝さんの作品も登場人物がしっかり風景になっていて、読みながら僕はその舞台を想像し、想像したものが僕の作品に出てくるという場合もあります。根本
作品には自分の考えをあまり出さないように、風景を固定しないように、という向き合い方は、作品のタイトル付けにおいてもそうですか?西浦
ストイックに自分の気持ちや考えを抑えるようなことはないですが、確かにタイトルには客観的な言葉を使うようにしています。タイトルというのはその作品の扉だと思うので、「舟」とか「家」とか、誰でも知っているようなわかりやすい単語を、その扉に貼っておきたいんです。 -
シンプルな作品タイトルは
先入観に縛られないで
自由に楽しんでもらう仕掛け。
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連載のための彫刻づくり。
文章の挿絵ではなく
物語の空気と響き合うものに。 -
根本
雑誌『パピルス』※7の中で、本の内容に合わせたオブジェをつくられていますが、それは文章を読んでからつくられるものなのですか?西浦
そうです。小説家の三崎亜記さんの物語に僕の彫刻を加えていただいていますが、最初の打ち合わせの時に、僕は挿絵にならないように、文章の説明的なものにならないようにしますということをお伝えしました。三崎さんもそんな形を描いていたようでした。文章があって、彫刻もあるというか、関係を保ちながらもそれぞれが独立していてもいいのかな、と。根本
『パピルス』の文章も、かなり風変りなお話で、その内容と西浦さんの彫刻は直接的な関わりはないのだけれども、背景の色とか、質感みたいなものが合っているのをちょこちょこと感じました。『パピルス』のようなお仕事は、よくされていたのですか?西浦
いえ、初めてです。この連載は、来年2月頃まで続く予定です。隔月誌ですけど、ペースとしては隔月ではなく、4か月に1回でやらせていただいています。根本
そうですか。単行本の表紙とか、そういうものにも西浦さんの作品は合いそうですよね。将来的に、いつかこれをやってみたいというものはありますか?西浦
本にかかわることはずっとやってみたいことの一つでしたし、三崎さんとのご縁はとても嬉しく思います。それから、自分でもいつか彫刻で絵本をつくってみたいですね。根本
物語もご自分で?西浦
木を彫りながら物語が浮かんできたら一番いいですね。根本
絵本になると、つくる作品のタイプとか表現とかも違ってくるところはあるかもしれませんね。西浦
はい。紙面で見せるというのは、結果を写真で見せることになるので、制作の際にも多少意識はしています。それから自分でファインダーを覗いて、見せたい部分やきれいな角度とかを探しながら撮っています。根本
絵本づくり、ぜひ実現できるといいですね。