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Interview 熊谷幸治/聞き手:広瀬一郎さん(「桃居」オーナー)

土器というモノサシ

僕の中では
縄文と弥生はひとつながり
工房風景

インタビュー風景

広瀬
熊谷さんのつくられる土器的な世界のものも、端から端まで見て行くと、かなり幅があります。僕から見ると、縄文にインスパイアされた世界と、弥生的なものにインスパイアされた世界と、大きく分けると二つある。どちらも熊谷さんの本質だと思うんですけど、熊谷さんにとっては、縄文的なものと、弥生的なるものと、どういうふうに吸収されてきたのでしょうか。一般的に、縄文と弥生は分けて考えられていますけど、熊谷さんの中ではつながっているんですか。

熊谷
縄文には前期・中期・後期・晩期とあって、次に弥生となりますけど、それは出てきたところが弥生町という場所だっただけで、僕の中では縄文と弥生はひとつながりです。僕が大きく分けているのは、弥生の次に出現した須恵器からです。

広瀬
須恵器というのは、轆轤で成形して、窯で焼いたものですよね。その須恵器によって焼き物の世界はかなり変わって、それより前の土器的な世界というのはずっとつながっているということですか。

熊谷
須恵器も基本はつながっているんですけど、僕は土器を、陶芸的な状態のものと大きく区切ったんです。そこで焼き物の考え方が大きく転換したなと。そういう意味で縄文時代と弥生時代は、僕にとっては一緒の時代で、大きな分岐点というのは、弥生の後なんですね。須恵器以降が片側に偏ってきて、今の用途向きの考え方に近い焼き物が進化した時代かなと思います。だから、僕にとっての弥生は、縄文を見るようにというか、縄文でもいいじゃないかという感じですね。

広瀬
ただ、一般にいう縄文と弥生では、イメージする世界がかなり違いますよね。どっちかというと縄文は装飾的な世界で、こってりとした世界。弥生は簡素でしっとりした静かな世界。そういう拡張する力と、収縮していく力、この二つの傾向の表現を、熊谷さんはどう捉えているのでしょうか。

熊谷
時代的には文化が花開いたのは縄文中期の頃で、弥生時代には落ちついた静けさがあった。基本はその頃の宗教とか呪術的なイメージの表し方の違いなのでは。

広瀬
両方とも神様と交信し合いながらつくっているんだけども、縄文中期だったら狩猟・採集社会であって、そういう社会が生み出す幻想とか宗教的な関心の世界のものがあのような形になり、弥生になると農耕社会が安定してきて、簡素な静かな造形によって神様と会話するみたいなことになってくる。それは熊谷さんにとって、両方とも同じように関心のある世界なのですか。

熊谷
まったくそうですね。僕にとって弥生は縄文最終期みたいなものなので。歴史学とか考古学的には分かれているものですけど、焼き物で見たら、須恵器のところで分かれた方が自然なんです。縄文と弥生は、一つの流れの中で、激しい頃と落ち着いた頃があるという感じです。

広瀬
縄文も終わりの頃になってくると弥生的な世界と通底してきますね。

熊谷
一般にいわれるような縄文と弥生の垣根はないです。須恵器の時代になると、用途のある道具としての焼き物が次第に増えてきますが、それ以前の土器の時代というのは、大まかに言うと、縄文中期くらいだと呪術寄りが強すぎて、いわゆる道具としてはどうなんだというもの。それが弥生には、呪術的なものと道具的なものが半々くらいのバランスになって、もしかしたら弥生の時がいちばん中立というか中間のバランスなのではないでしょうか。

広瀬
熊谷さんの土器愛というのは、特別この時期のこの土器に集中するというよりは、トータルに土器的な大きな世界を包み込むような感じなんですか。

熊谷
はい。日本の土器から入ったんですけど、僕は世界中の土器を愛しています(笑)。今残っているものには、これからもずっと残っていってほしいです。

広瀬
土器は、日本やアジアだけでなく、中東にアフリカに南米にと、どこの文明にもありますね。もしかしたら、人間の造形的なものがいちばん最初に向かい合った世界は、土器的な世界だったのかもしれません。土には可塑性があるから、石や木という素材と向かい合った時には、石や木に支配されながら造形せざるを得なかったのだけど、土っていう素材を見つけて、それを水でこねると可塑性が高まって、人間の二つの手で自由な形に造形していけるということを知ってしまった。それは人間にとってまったく新しい世界ですよね。

熊谷
それこそ何十万年、木とか石とか使って何かやっていたと思うけれど、はじめて素材に依存せずに自由に、はっきり表現したものが土器だったと思います。

広瀬
自分で造形したもので、神様と交信するんだという意志というか表現をした。

熊谷
そうです。その可塑性というのが、土がほかの素材といちばん違うところですよね。表現する時の素材として、昔の人たちに新たな世界を見出させた。そういう人間との関係において優れた素材を、道具づくりだけに使うというのではもったいないですよ。

須恵器の時代から
用途寄りの焼き物に
工房風景

工房風景
熊谷幸治 土器展

熊谷幸治 土器展

2012/11/9(金)〜11/13(火)
@桃居/東京

2012年11月9日(金)〜11月13日(火)
桃居 http://www.toukyo.com

世界の土器をみていたら
世界の平和がみえました
ー 熊谷幸治

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