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パノラマインタビュー:大室桃生

パノラマ対談「大室桃生さん(ガラス作家)×土器典美さん(DEE'S HALL)1/2


文・構成:竹内典子 / Mar. 2016

クールさとかわいらしさ

土器 いま振り返ると、あの3回目の照明展は、大室さんのターニングポイントの一つかなと思います。

大室 そうですね。そして、ずっと悩んでいたことが吹っ切れたのは、2011年の5回目の作品展の頃です。それまでは毎回どうしようかと悩んでいて、2010年の4回目の作品展のように、スッキリとしたシンプルな作品に憧れていた時もあったし。そう言いながら、作るとごちゃごちゃっとしていて(笑)。

土器 確かに5回目の辺から、パートドヴェールという技法で作る良さというものが、はっきりしてきたのかもしれませんね。5回目は、「モノトーン」が一つのテーマになっていて、会場の半分くらいがモノトーンの作品で、あとの半分は色物や柄物がありました。

大室桃生「パート・ド・ヴェールのガラス」展 DM画像
大室桃生「パート・ド・ヴェールのガラス」展 2011.11.25〜12.2 @DEE'S HALL

大室 私はもともとガラスに興味があって美大に進学したんですが、ガラス科がなかったので金工を学んで、卒業後も金工の工房で働いていました。その後、ガラスに転向したのですが、彫金の技法の一つに型で柄を打ち込むものがあって、DMに写っているモノトーン模様はそれに近いんです。やり方としては三島手みたいな感じで、竹ひごや割りばしで模様の型を作って、それでパタンパタンとシールを打つように、粘土に模様を打って行く。そういう模様を組み合わせると、幾何学模様になります。

土器 2013年の6回目の時にはガラッと変わって、シンプルの対極にあるような、物語を彫り込んだ作品になりました。すごくかわいいですよね。それまでもシンプルな物と並行して、花柄の物なども作っていましたけど、さらに大室さんらしい世界観がひらけたように思います。

大室桃生「パート ド ヴェールのガラス」 DM画像
大室桃生「パート ド ヴェールのガラス」2013.5.22〜5.29 @DEE'S HALL

大室 この展覧会もまた、私にとって大きなターニングポイントとなりました。それまでずっと好きか嫌いかは別として、さまざまなモチーフをやってきたんです。でも、好きなことをやっていいんだと思えるようになったというか、好きな物の絞り込みができるようになってきたというか。

土器 そうですね。大室さんとふだん接している時のイメージだと、割とクールというかモダンな物を作るかなと思うんだけど、意外とかわいらしい物も作るでしょう。それでいて、どちらも大室さんっぽいですよね。

大室 もともとパートドヴェールの技法は型を彫るので、あまり軽やかな線は出せないですし、この時は、昔の版画みたいな朴訥な雰囲気を出せないかなとやってみたんです。版画は、川上澄生も好きですし、海外の中世の木版画の雰囲気とかも好きなんです。このDMの作品は、ちょっと思ったよりも黒っぽく仕上がってしまったんですけどとても好きでした。

大らかな気持ちで

土器 7回目の時は、どんな感じでした? DMに写っている模様も大室さんらしいですけど。

大室桃生展「パート・ド・ヴェールのガラス」 DM画像
大室桃生展「パート・ド・ヴェールのガラス」2014.12.10〜12.17 @DEE'S HALL

大室 この時は、格子で構成されたインディアンのざるとか、そういう物がもっている大らかな雰囲気が出るといいなと思いながら作った物が多いですね。私はできれば大らかな物を作っていきたいなと思っているんです。

土器 ガラスだから大らかという感じは、なかなか難しいんじゃないですか?

大室 ガラスという素材ではどうしても緊張感が出るから、言葉にするとピンとこないかもしれませんけど、大きな籠や柔らかい陶器のような、ゆったりとした素朴な物が好きなので、「大らかなものを作りたいな」という言葉になるんです。何となく、机上で小さな方向にまとまりがちなので、大きな気持ちの物を作ることも忘れずに仕事して行きたいなと。

土器 大室さんのそういう思いは、大きい作品のもっている気持ちよさみたいなものにつながっている感じがします。私は大室さんの作品は、大きいものが好きですね。たとえば、この大きな鉢も、白い模様は砂糖菓子みたいだし、黒い部分はビロードの刺繍みたいでしょう。こういうのを眺めていると、これを照明にしたらまたきれいだろうなって思うんです(笑)。

大室桃生 作品

大室 まさに、これ東欧の刺しゅうの柄を参考にしています。

土器 大室さんはクールでモダンな感じと、こういうかわいらしい感じと両方できるから。これは大人のかわいさみたいな雰囲気ですけど、ここにいろんな色が入ると、もっとかわいらしくなって行くんでしょうね。

大室 繊細な物が好きな一方で、素朴な線が太い感じの図柄ってかわいらしいと思うんです。私はあまり掘り下げずに、広く浅くいろんな柄をやりながら、ここはこうしたらどうかなとか、もっと深めのサイズもいいなとか、そんな感じで自分の作りたい物に合わせてやっています。

土器 刺繍のスザニっぽい柄とかもありますね。

大室 最初の頃は、スザニというよりもチロリアンっぽくなっていましたけど(笑)。以前に土器さんが買ってくださったキリム柄の小さい物も、自分では結構気に入っています。もともと柄にはあまり興味なかったのに、あの頃から「柄」にはまり始めたんです。

大室桃生 作品

土器 これまでさまざまな柄を作ってきましたね。

大室 東京都庭園美術館でやっていた「シルクロードの装い」(2004年)という展覧会で、中央アジアの民族服などの展示を見て、なんて面白いのかと思ったのがきっかけです。それで作り始めたら楽しくなって、4回目の作品展の頃までは、いろんな柄をやっていたんです。でも、そろそろいいかなと、今まで出してきたものを整理しようと思った時期が5回目くらいで、そうしたらずいぶん気持ちが楽になりました。結局、更紗柄、幾何学柄、スケッチ風の柄など、好みの色や柄で、自分がまとめやすい物が残るようです。色も思いついて試してみて、柄としっくりくるものに絞られています。と言いつつ、また新しい柄も試していますが。

土器 私は猪口サイズの物で、とても柄が気に入っている物がありますけど、これで一杯飲みましょうかということにはならないんですね。だったら、猪口の形でなくてもいいのかもしれない(笑)。大室さんの作品は透明感があって、パートドヴェールの重々しさがないところもよさだと思うから、たとえば板よりもっと塊のようなもの、何の意味もなく塊というのも面白いかもしれません。

大室 でも、それだとアートっぽくなってしまうので、その辺が何か引っかかるというか。だから照明がいちばん、そこの疑問が湧かないんです。もともとパートドヴェールは、オブジェのような塊を作ることに適している技法ですから、使う器にはあまり向きません。ただ、金属をやっていた頃に、伝統工芸展に師匠が出品していて、私も2回くらい出しているんですけど、その時もなんで器の形なのかと自分でも思って。結局、器という形が好きなんですね。そのままで物として存在していて、それほど自分の主義主張をしなくてもいいというか。

土器 器のフォルムや大きさ、深さなども、いろいろ作っていますね。

大室 今まで作ったいちばん大きい照明で30センチ径くらいですが、窯の内径が45センチなので、浅めの鉢なら40センチ径くらいの大きさまで作れそうです。

大室桃生 工房風景
工房風景 2015.2

土器 もうすぐ5月24日から、ディーズホールでは8回目となる大室さんの作品展が始まります。今回は再び「シェード」展ということで、たくさんの照明を展示します。

大室 今まで作ったことのなかった小さいサイズのペンダントライトも作っています。5ワットくらいの常夜灯のような灯りですので、明かりをとるというより、一つのオブジェとして楽しめるようなものになればいいなと思っています。

大室桃生「パート・ド・ヴェールのシェード」 DM画像
大室桃生「パート・ド・ヴェールのシェード」2016.5.24〜5.31 @DEE'S HALL

土器 大室さんの作品は色彩も柄行も豊富で、明かりが点くとまた違った雰囲気を味わえて、一つの作品で2度楽しめるところも大きな魅力です。

大室 とくに、赤系、黄色系は、明かりを点けると映えます。小花柄から無柄の物まで、いろいろありますので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。

大室桃生 「パート・ド・ヴェールのシェード」

大室桃生 「パート・ド・ヴェールのシェード」

2016/5/24(火)〜5/31(火)
@DEE’S HALL/青山

DEE’S HALL
〒107-0062 東京都港区南青山 3-14-11
03-5786-2688
http://www.dees-hall.com/exhibition/ex142.html

大室桃生(おおむろ ももお)Momoo OMURO

1969年 東京に生まれる
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学部金工科を卒業。
伝統工芸金工作家工房勤務。
その後、ガラス(パートドヴェール)に素材をかえて、主に個展にて作品を発表。
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土器典美(どき よしみ)Yoshimi DOKI

セツモードセミナー卒
1975年~1980年の6年間、アンティークバイヤーとしてロンドンに暮らす。
1980年 帰国。南青山に「ディーズ・アンティーク」をオープン。
1995年 店をクローズ。フォトエッセイストとして雑誌連載、出版などの活動。
2001年 「ディーズホール」を始め現在も継続中。
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