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ガラスを触って考える。
技術的なアプローチを
造形の契機に
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春名
いろいろな素材がある中で、なぜガラスを選ばれたのですか?馬越
ガラスを選んだきっかけとか必然とかはわからないんです。私が美大へ行こうとしていた頃は、今のように情報を得るのはまだ難しい時代。その頃、たまたま3年に1回くらい開かれていた「世界現代ガラス展」※3を東京で見たことが、強いて言えばきっかけですね。春名
主に外国の作家さんでしたか?馬越
そうですね。春名
やってみて、ガラスという素材はいかがでしたか?馬越
面白かったです。当時、多摩美のクラフトデザインコースには、金工とガラスと2つあって、専攻を決める前に、両方の素材に少し触らせてもらったんですけど、やっぱりガラスをやってみたいと思いました。春名
ガラスのどんなところに魅力を感じますか?馬越
ガラスを触って考えるみたいなところが自分にあって、それはつまり、技術的なアプローチを造形の契機にしているってことだと思うんです。ホットワークとコールドワークというのもガラスならではの違いですよね。やわらかいガラスとかたいガラスの両方に触れられるというのは、なかなか他の素材では難しいことかと思います。当然、その2つの技法そのものが対照的であり、出てくる表情が対照的であることは、自分にとってすごく大きな魅力です。
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春名
具体的にいうと?馬越
最近の作品では、直方体のようなものをよくつくっていますが、それは吹きガラスをもとにしてつくっているんです。何もわざわざ吹きガラスで四角くしなくてもと言われそうですが、さらにそこに、高温エナメルで白や黒色を塗ってしまうことも最近多いんです。それで、やってみて思ったことでもあるんですが、ホットワーク(吹きガラス)でつくったガラスの魅力というものは、いくらどんなに削ったりしてしまっても、にじみ出てくるものなのだなと。白や黒に塗ってしまうことも、ガラスという透明な素材がもつ魅力は、たとえ塗り込めてしまっても、漏れ出てくるものなのではないかと。だから、吹きガラスでつくっているし、塗ってしまってもいいんだと、そういう思いでやっています。春名
なるほど。馬越
逆から言うと、ほんの一握りの吹きガラスの伸びやかさみたいなものを感じさせるきっかけを残してあげたり、ほんのわずかに漏れてくる光というもので透明感をより感じさせてあげたり。そうやってつくっているとも言えます。いや詭弁といえば詭弁なんですけど(笑)。春名
馬越さんの作品には、昨日今日のものではないなという完成度の高さがあって、この20年間での変化というのもあるわけですが、個展に合わせてとか、あるいはその年度で、テーマを決められたりするのですか?馬越
いいえ。変化させようと思ってはやっていないんです。 -
どんなに手を加えても
ガラスらしさはにじみ出るもの
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ものづくりの出発点は
日々の手の中にある
"グルーチップのボトルたち" 2006 -
春名
手の中で自然に変わっていく?馬越
そうですね。計画的ではないです。春名
たとえば、グルーチップ※4を作品に使用されるようになったのはいつ頃ですか?馬越
多摩美の助手をしていた頃ですね。2001年頃でしょうか。先生の手伝いをした際に、ひょんなきっかけでその技法を知りました。グルーチップという技法は、本来は板ガラスに施されることが多かったものなのですが、それを立体物でやってみようということでやってみたらなかなか面白くて。春名
黒いガラスはどのようなことがきっかけですか?馬越
そもそもはリサイクルのためなんです。吹きガラスでは、特に被せガラスをした場合に、色ガラスの混じった端材というのが結構な量になってしまうんですが、それを透明なクリアガラスを溶かしている窯には混ぜられないので、場合によっては捨てるしかない。ゴミを減らそうと思い、でも、いろんな色が混ざっているガラス屑を溶かすと、そのままだとちょっと青っぽいようなガラスになる。そのガラスをきれいだと思う人もいると思うのですが、私はそのままでは使えないかなと思ったので、ちょっとグレーにしてみようと補色の着色剤を加えてグレーっぽいガラスに。同じガラスでも厚みが分厚くなると黒っぽくなります。春名
リサイクルも考えなくてはいけない時代ですしね。馬越
やってみて、せっかくそうやって溶かしたガラスなんだから積極的に使おうと思って。結局、ものづくりの出発点は、そうやってあるからやってみようということだったりしますね。使ってみると、そのグレーのガラスは単体で何かをつくっていけるし、クリアガラスとの対比ということで見せていくこともできて、重宝して使っているんです。