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Interview 竹内紘三 聞き手:井上典子 文・構成:竹内典子

時間を感じさせるものをつくりたい

制作中に落として壊れて、
自分のやりたかったことに
気が付いた。
竹内紘三:2003 多治見市陶磁器意匠研究所卒業制作「跡」
2003 多治見市陶磁器意匠研究所卒業制作「跡」

井上
私が初めて竹内さんにお会いしたのは2004年ですよね。その時に、意匠研の卒業制作の写真を見せてもらいましたが、幾何学的な造形に照明を仕込んだ作品で、とてもいいなと思いました。

竹内
ちょうど工房の仕事を辞めた直後で、友人の田淵くん※2と一緒にギャラリー介を訪ねて井上さんとお会いしたんです。あの頃すでに、兵庫の実家の敷地内にアトリエをつくっていました。

井上
作家としてやっていこうと決心されたのですね。ところで、意匠研の卒業制作は、どういうテーマでしたか?

竹内
立体的な壁面。その頃、遺跡に興味があって好きだったんですね。最初は柱をつくりたいと思っていたんですが…。そこから立体的な、幾何学的な壁面装飾にしたいと。

井上
評価も高かったのではないですか?

竹内
評判はよかったですよ。クラスの中で一番上の賞をいただきました。

井上
でも、しばらくその路線で行こうとはせずに、間もなくその作品を壊す方向に行きましたよね。

竹内
たまたま制作中に落としちゃったんです。最初はすごいショックでしたよ。初めての「Modern Remains」という数十センチもある大きい作品の時です。そもそもは、その頃に初個展の話が進んでいて、卒業制作のような照明を仕込んだ作品で個展をやろうとしていたんですが、一度、頭を真っ白にして、もっとやりたいことを突き詰めようと思い直してたんです。それで、僕は四角が好きで、四角をくっ付けた作品を学生時代につくったことがあって、それをもう少し突き詰めてみようと、四角ばかりたくさんつくって、くっ付けて数十センチ以上の大きいのをつくったんです。ところが大き過ぎて、窯入れの最中に僕がバランスを崩して落としちゃった。ぐちゃぐちゃですよ。それを置いて眺めている内に「これ意外と面白いかも」って。ピーンと来たかは憶えていませんが、とにかくそれをじっと見てたんです。そこへたまたま通りかかった母親が「あら、そっちの方が面白いやん」って。「せやろ!」と思いました。もう、一か八か壊してみるかって気持ちでやってみたら、いい感じにできたんです。

井上
面白いですね。その成り行きに委ねてみようっていうところが。

竹内
こうなってみてわかったことですけど、もともと何か崩れているとか風化しているとか、そういうのをやりたいと思っていたのに、どうしたらいいかそのやり方がわからないから壊れていないものをつくっていたわけです。

井上
それがたまたま落として壊れたことで意識化できたのですね。

竹内
落としたのは焼く前だったんですけど、それを焼いたら面白くなったんです。本焼きの後の割れの方がエッジが立って、僕の中のカッコイイとつながった。

井上
なるほど。

竹内
以前に誰かから、変わることを怖がらないの?と言われたことがあるんです…。でも、僕自身は変わっているつもりはないんですね。

井上
変わったとか変わろうとか思うのではなくて、自分が面白いと思う方に素直に向かって行くんですね。

竹内
そうですね。自分に正直でありたいですから、やりたいと思ったらやればいいと。せっかく人から認知された印象とかイメージがあるのに、それを変えてしまうのはもったいないとか、あるいは変えることで一からイメージをつくっていかないといけないとかいうことはあるかもしれないですけど、それ以上にやりたいと思えばやることに意味があるだろうし、そっちの方が楽しいと思えるんです。

竹内紘三:Modarn Remains 06-D-II
Modarn Remains 06-D-II
メキシコの遺跡を見て、
石っぽいものがやりたいと
陶器をつくり始めた。
インタビュー風景:竹内紘三

井上
ずっと白磁でオブジェも器もやってきて、ここのところ黒い陶器もつくっていますが、それは何かきっかっけがあるのですか?

竹内
2007年にアメリカでオブジェの展覧会をやったんですが、その帰りに以前から気になっていた遺跡を見ようと思って、メキシコのチチェン・イッツァ※3に行ったんです。遠くから見たら、石の文化ですよね。幾何学的な紋様が石に彫ってあったりして。それからですね、石っぽいことをやりたいなと思って、今までとは違う陶器でやり始めたんです。

井上
人が何かをつくる時には、ヒントになるものとか、きっかけになるモデルがあったりすることが多いと思いますが、竹内さんの場合はどうですか?

竹内
最近気付いたことですけど、本当は自分の中にしかイメージはないはずなのに、一時、遺跡をやりたいと思ったわけです。石の雰囲気みたいなものを出したいと。でも最近です、それは違うなと。石をやりたかったわけじゃないんだと。遺跡が好きなんじゃなくて、遺跡がもっている雰囲気とか、魅力が何だろうというところに惹かれたのだと気付いた。日本の古い建築とか、古いものじゃなくても崩れてたり、時間を感じさせるような物が好きで、そこに行きたかったのに、あるもの、存在するもののイメージに偏っていたんです。

井上
つまり、具体的な存在が遺跡だったってことですか?

竹内
そうです。「どういう物をつくりたいですか?」って聞かれて「遺跡です」って言うことにも、本当は最初は違和感があったんです。でも、人に言葉で伝えようとした時に、イメージをわかりやすく伝えるには遺跡だった。自分で何回も言っているうちに、自分の中に形として入って来ちゃったんですね。

井上
そうだったんですね。

竹内
今は、時間を感じさせるようなものを、現代的につくりたいと思っています。

井上
どなたか師匠とか、憧れの方はいますか?

竹内
いないです。でも、どんな人かも知らないですけど、フランク・ロイド・ライトのつくった物が、特に旧帝国ホテルがすごく好きです。

※2:田淵くん 
田淵太郎さん。間もなくパノラマに登場予定の陶芸家で、竹内さんとは大阪芸大の同級生で、親友かつライバル。

※3:チチェン・イッツァ
メキシコ・マヤ文明の遺跡。世界遺産。

Artist index Kouzo TAKEUCHI