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レースガラスは
派手なテクニックだけれど、
使い方次第でとても
奥ゆかしくなる。
レースの色柄の元となるガラス棒
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牧野
ここ数年はワークショップに呼ばれることもあると思いますが、そうした時は自分たちの技術を伝えるわけですよね。どんな気持ちで取り組んでいますか?小西
僕らが伝えたいことは技術ではないんですよ。作品のどこにこだわるかで、必要な技術は違ってきますから。 それよりも、どれだけ自分のことを理解して、積極的に協力してくれる人がいるのか、それが一番重要なことです。 僕らの仕事というのは、自分だけでは足りない部分をどれだけ人に委ねられるか、ということをすごく大切にしていますから。牧野
それはやはり4本の手でつくっているということですか?小西
それが6本の手だったらもっといいわけです。そういう仕事が出来る環境をつくれていますか?ということを、常に自問してもらいたい。 人間として信頼できる人達の中で物をつくっていくことが理想的。僕らはそれを実現するために、こういうかたちしか出来なかったわけです。 結局、色々な制約があるなかで、他とは違うシステムが出来るわけですね。自分たちの責任のもとに。うまくいけばそれが自分たちの個性にもなる。 その制約を一人じゃ無くて、二人、三人で分け合うことで他と違う何かが生まれるのかなと。牧野
私は2007年ぐらいから潮さんの作品を見ています。 レースガラス自体がもともと好きで、ガラスというものに最初に興味を示したのもそれがきっかけでした。 本場のヴェネチアンガラスは、色がどぎついものが多いですが、潮さんは優しい色の組み方をしますね。 そこが魅力です。潮さんにとってレースガラスの魅力は何ですか?小西
組み合わせが自由で色がいろいろ使えることですね。 僕は透明なガラスよりも色のあるガラスをやりたかったので。そのためのテクニックとしてすごく有効なんです。 しかも、あまりうるさくならない。レースの線は細く入るので、器の中身を見せるのにあまり邪魔にならない。 すごく派手なテクニックなんだけど、使い方によってはとても奥ゆかしい展開をできる。牧野
模様は入っているけれど、埋め尽くされていない、透明な部分が残っている、そういう柔らかさが魅力、ということでしょうか?小西
そうですね。たとえば、白レースのグラスに白ワインなんかを入れてみても悪くない、赤ワインを入れてみると白の線が浮き出て締まって見える。 中に何かを入れたときにきれいに見えるということですかね。
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牧野
レースガラスの場合、作品として繊細で、たくさんの緻密な工程があるので、出来上がるまでに時間が掛かりますね。 そのプロセスやスピード感の波が、自分にあっていると思いますか?小西
技法的なプロセスの楽しさがありますね。最初にガラス棒を拾い上げる時、緊張感はありますけど、スピードはまだない。 だけど溶けたガラスがだんだん馴染んできて口を広げていくためにスピードが速くなっていく。 ひとつの作品をつくるのに約30分掛かりますが、その工程の中にもメリハリがあってドラマチックなんですね。 30分間、その緊張感を保ち続けるのはとても大変なんだけど、それがまた楽しい。 あまり考えたことなかったけど、たしかに自分には合っていますね。牧野
潮さんと話していて感じたことですが、たとえば、陶芸ってある意味、一人で最初から最後までで完結できる世界ですが、ガラスはより人との信頼関係や繫がりの中で成り立つ世界かなと思いました。小西
90年にピルチャックに行ったときに、道具を一個買って帰ろうと思ったんだけど、選んだのがストレートパファー—※12 という道具だったんです。 それは、ギャファーが使う道具じゃなくてアシスタントが使うものなんです。 ベントパファー※13という空気を自分で入れる道具があるんだけど、それじゃなくアシスタントが使うほうを買ってきちゃって。 なんで自分のために一番最初に買った道具がこれなのか?自分でもよくわからないんだけど。 なんかそういう物を買っちゃったりするんですよね、俺って(笑)。最初から、誰かと一緒に仕事をしようと思っていたんですね、きっと。牧野
潮さんらしい話ですね(笑)今日はどうも有り難うございました。 -
30分という工程のなかに、
メリハリがあって、
ドラマティックな展開がある。
インタビューを終えて
潮さんとの対談で、最初に聞きたかったことは「子供の頃の夢」だった。友達との住処を自分が作るという夢には、思いもせず驚いたけれど、続きの話を聞き、今の潮さんを見ていたら何の不思議もないことだった。
考えながら言葉を丁寧に選び話してくれた、彼の仲間や工房、そしてガラスに対する思いには、常に「人」と「信頼」が存在していた。言葉の中にある優しさと厳しさ、その全文がここで伝えきれないのが惜しい。
以前、彼が『例えば、私たちの仕事をアシストしてくれた人たちが、展覧会の案内をくれたら、できる限り足を運び、意見をいい、祝福します。行動することを、一番に、そしてできる限り、ふさわしい言葉を探して、交流を喜びます』と話してくれたことがあった。
子供の頃の夢は、やっぱり今に通じていると思う。
牧野昌美