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panorama Interview 安齊賢太「触りたくなる器」

Interview 安齊賢太「触りたくなる器」 2/3

聞き手:根本美恵子さん(ギャラリー「日々」コーディネーター) / 文・構成:竹内典子/Jan. 2014

帰国後、伊豆へ

根本 イギリスから帰国後に、黒田泰蔵*1さんと出会ったのでしょうか。

安齊 出会いはイギリスへ行く前です。銀座の店で黒田さんの作品を見て、その時は全然知識もなくて、黒田さんの名前すら知らなかったんです。ただ、その前に、学校の卒業制作で何か参考になるものはないかなと、インターネットでいろいろ見ている時に、黒田さんの作品は見ていたんですね。それで、店で作品を見た時に「あっ、これ見たことある」と思って。実物は写真で見るよりもずっと魅力的で、この作家さんに会ってみたいと思い立ち、イギリスへ行く前にお会いしました。

根本 直接、連絡を取って訪ねられたのですか。

安齊 はい。その店でお名前を知ったので。イギリスにいる間も、頭のどこかにいつも黒田さんのことはあって、帰国してからまた連絡しました。

根本 帰国後、黒田さんのアシスタントになれればいちばんスムーズだったと思いますけれど、残念ながらそうは行かなかったそうですね。

安齊 すでにアシスタントの方はいらっしゃったので、僕は伊豆にある旅館の調理場で働きながら、休みの日だけ黒田さんのところで手伝わせてもらいました。

根本 結構食いつきましたね(笑)。普通ならアシスタントの方もいらっしゃると、ちょっと遠慮があるじゃないですか。そこを超えてまで学ばなければというのは。

安齊 それだけ価値のあることだと思いました。
旅館の仕事も住む場所もすべて決めてから黒田さんのところへお願いに行ったので、断れなかったんじゃないですか。

安齊賢太 作陶風景

根本 すごいですね。周りから固めて行った(笑)。黒田さんのところは、素晴らしい工房とお住まいで、つくり手として技術的なことを学べるだけでなく、それ以外にも基本的なセンス感とか、人付き合いみたいなものも幅広く学ばせていただけたんじゃないですか。

安齊 手取り足取りで技術を教えていただくということはもちろんなかったですけれど、休憩時間だったり、よく夕食に連れて行っていただいたりした時に、いろんな話をしてくださって。工房や住まいにあるものなどにも、影響を受けています。

根本 とくに印象に残っていることはありますか。

安齊 僕が通わせてもらったのは短い期間だったんですけれど、黒田さんは為になる話をいろいろしてくださって。いろんな場面でその時の言葉は蘇りますが、いつも頭にある言葉というのは、「一生懸命につくる」ということです。いい話をしてくださった最後によく、「結局、一生懸命につくれっていうことだよ」と仰ってくれて、実際にその姿を示してくれたので、よくその言葉は覚えています。

根本 それは素晴らしい教えですね。安齊さんの工房もとてもきれいにされていて、基本的な志というか、基本を守って学び続けているという思いが常にあるというのは、黒田さんという非常にいい師匠に出会えたという影響もあるのでしょうね。もちろんダニエル・スミスさんにもそういうところはあったでしょうし。

安齊 やはり考え方とか、とても影響を受けていると思います。

根本 多くの若手陶芸家の憧れである黒田さんの元で、一緒の時間を持てたというのは、まだまだこの先影響力があるのではないでしょうか。

安齊 そうですね。

安齊賢太 作陶風景

根本 安齊さんはもともと古いものはお好きだったのですか。

安齊 まったくそういう興味はなかったです。ただ、根本的には古いものは好きだったと思います。それは意識していなかったことですけれど、黒田さんのところで古いものを見せていただいた時とかに、やっぱりいいなと思ったんです。自分のつくりたいものって言葉にするのは難しいですけれど、いい場所とかいい物を見た時に、すごくつくりたいなと思って、そういう時というのは寝ないでもつくれるというか、寝ても目が覚めるくらいつくりたい気持ちでいっぱいになります。

根本 お話をうかがっていると、安齊さんは割と直球な感じですよね。京都へとか、イギリスへとか、黒田さんのところへとか(笑)。あっちもこっちもではなくて、ここしかないっていうふうに動いていて、無駄していないという感じもするんですけれど。いい思い込みがあるかなって。

安齊 そうですか(笑)。能率はよくないと思いますよ。でも、やってみたいと思ったことはやってみます。

地元・福島で独立

根本 黒田さんのところで学ばれた後、ご出身地の福島県郡山市に戻られて独立されたわけですけれど、何か独立を決めるタイミング的なことはあったのですか。

安齊 生活が安定していたわけではなかったので、早く何とかしなければという気持ちは強くありました。黒田さんのところで手伝わせていただいた時も、ずっとその生活を続けられる状況ではなかったですし。

根本 ある程度の自信とか、先々の見通しとかはありましたか。

安齊 いいえ、見切り発車です。早く仕事にしなければという焦りの方が大きかったですね。

panorama Interview 安齊賢太「触りたくなる器」インタビューイメージ画像

根本 いろいろ努力されてきたことが、独立のきっかけになっていると思いますけれど、大学から地元の福島を離れて、11年経って戻って独立するというのは、何か理由があったのですか。

安齊 地元でやりたいというよりは、地元しか頼るところがなかったので帰ってきたということです。

根本 独立を果たしてから半年後には、東日本大震災があって、精神的にも肉体的にもいろいろ大変な思いをされて、あれからもうすぐ3年ですが。

安齊 震災ではいろいろ壊れたりはしたんですけれど、たくさん時間はあったので、それまでつくっていたものについてよく考えられました。自分としてはいちばんいいと思ってつくっていた一方で、それをずっと続けられるとは思っていなかった面もあって。そのことを震災の後、気持ち的にリセットできたというか、いろいろ見たり、もう一度考えることができたので、それが後々につながるかなと思います。

根本 これを乗り越えてさらにやらなければという気持ちも大きかったでしょうし、いまだからこそやるべきだという思いも強かったのではないですか。

安齊 震災前より、ここ福島でやる意味というのは少し強まった気はします。

panorama Interview 安齊賢太「触りたくなる器」インタビューイメージ画像

*1 黒田泰蔵:
くろだたいぞう 1946年滋賀県生まれ。白磁の陶芸家。伊東市在住。

安齊賢太展

安齊賢太展

2014/2/21(金)〜2/26(水)
@エポカザショップ日々/銀座

日々 -にちにち-
http://epoca-the-shop.com/nichinichi/
03-3573-3417
東京都中央区銀座5-5-13
●地下鉄 銀座駅B6出口より3分