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  • 小倉充子 タペストリー @ 浅草文化観光センター
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Report / 小倉充子@浅草文化観光センター update : 2012.10

今年(2012年)の4月、浅草文化観光センターが建築家・隈研吾氏による斬新なデザインでニューアルオープンした。その浅草文化観光センター内の壁面タペストリーが、型染め作家・小倉充子さんのデザインと聞きご本人と一緒に訪ねた。

Text:峯岸弓子 Photo:大友洋祐

  • 小倉充子 タペストリー @ 浅草文化観光センター
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地下1階、地上8階の建物は、格子戸に切妻の平屋を積み重ねたようなデザイン。一見、特異に思えるその建築物は雷門のほぼ正面に建ち、改めて見渡してみれば辺りのどの建物よりしっくりと馴染んでいる。やはり切妻屋根の雷門のカタチをリフレインしたかのようなフォルムと、有機的な素材によるイメージかもしれない。浅草文化観光センターは、『探せる・見せる・支える』をコンセプトとした台東区の観光案内施設。エントランス脇にはお馴染みのジオラマがあるが、建物や構造物が木製であるところがお江戸らしさだろうか。2階の観光情報コーナーにはパソコンが用意され公衆無線LANも完備。浅草の魅力を自力で「探せる」コーナーになっている。

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さて、小倉さんの作品を最初に目にするのは1階案内カウンターの奥。隅田川の桜、入谷の朝顔市、上野の牡丹園、谷中の菊祭り……。幅75㎝×高さ350㎝のタペストリーが4枚で1つの絵になっている。艶やかな色彩で描かれているのは台東区ゆかりの草花だ。中でも朝顔の絵は、一つ一つ花の色やかたちが変わっていてユニーク。「変わり咲き朝顔、といって、江戸っ子たちは品種改良して変わった花を咲かせる朝顔を楽しんでいたんです。その変わり咲きの花を描いたんですけど、朝顔だとわかりにくいみたいですね(笑)」と、小倉さん。八重咲きあり、花の大小あり、葉っぱのかたちも様々。訪れたらぜひ、一つ一つの花をじっくりと眺めていただきたい。草花をテーマとしたタペストリーは、2階フロアの同位置にも展示されている。1階と2階は吹き抜けになっているため、中2階のホールから眺めるとタペストリーが2つのフロアを視覚的にうまく繋げている。タペストリーによる上から下への縦の流れと、天井にわたした横木の流れが、空間に立体的な拡がりをもたせている。

  • 小倉充子 タペストリー @ 浅草文化観光センター
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次に訪れたのは6階の多目的スペース。取材時は、下町の歓楽街・浅草六区の移り変わりを描いたドキュメンタリー『六区慕情』が上映されていた。背後のタペストリーのテーマは“浅草の年中行事”といったところだろうか。

「七夕祭りにはじまり、隅田川の花火にサンバカーニバル、谷中の菊祭りに年の瀬の酉の市と羽子板市……。浅草には年中行事をテーマにしたレリーフなどは多くあるので苦労しました。見た人のほとんどが反応するのはサンバカーニバルの絵です」。

小倉さんの言うとおり、小さくともサンバカーニバルのインパクトは強い。江戸情緒溢れる季節の風物詩が描かれるなか、腰をくねらせて踊るセクシーなサンバガールたち。男性でなくても目がいってしまう。折しも後ろのプロジェクターに映し出されているのは、浅草ロック座(ストリップ劇場)の妖艶な舞台、だったのである。

  • 小倉充子 タペストリー @ 浅草文化観光センター
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続く7階は展示スペースで展覧会などが行われるが、常設では台東区内の見どころやイベントが紹介されている。こちらのタペストリーもやはり年中行事シリーズ。4枚ひと繫がりのタペストリーは左から右へとストーリーが流れる。左上の一隅を大きく占めるのはご存じ雷門の大提灯だ。浅草寺の初詣にはじまって、節分の豆まき、5月の三社祭の後は6月の鳥越まつり。左に頭を置いた金龍は画面の流れを右へと繋ぎ、その鱗からはやがて七宝文様が生まれ出る。

「初詣の参拝客の顔ぶれは、時代が入り交じっているイメージ。向かって左側、実はおかめさんです(笑)。本当は妖怪なんかも入れてみたかったんだけど……」。
小倉さんのこの想いは、来年の春にお目見えするお花見バージョンで叶うらしいので乞うご期待。というのも、1、2階のタペストリーは季節毎に入れ替えられ、春の展示替えの作品も制作済みなのだとか。

  • 小倉充子 タペストリー @ 浅草文化観光センター
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最上階の8階は半分がオープンテラス。雷門から浅草寺までを真っ直ぐ貫く仲見世も、俯瞰で眺めると圧巻。隅田川の向こうではスカイツリーが天を突き、その手前にはいまや浅草のランドマークともいえる巨大な炎のオブジェ(スーパードライホール)も見える。江戸から東京、新旧の時代が混在する浅草の町並みを一望できる貴重なスポットだ。

  • 小倉充子 タペストリー @ 浅草文化観光センター
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展望テラスのある8階のタペストリーに描かれるのは台東区のランドマーク的存在の建築物。この浅草文化観光センターやスカイツリーはもちろん、上野の西洋美術館と科学博物館、浅草寺の五重塔など、お馴染みの建物が描かれている。とはいえひとつだけ、見覚えのない建物が…?

「昔、浅草にあった凌雲閣です。知りません? 割と最近まであったんですよ」と小倉さん。
最近っていつ頃です?という問いに「関東大震災で壊れちゃったのかな? 最近でもないですね。もちろん、私も実物は見たことないんですけど(笑)」。

江戸時代に心を置き忘れた小倉さんにとって、大正時代などはつい最近の話、らしい。ちなみにこれらのタペストリーは、絵全体の構成を考えた後、パーツごとに図案を木版に起こして原型を作り、それをPCに取り込んで全体の色とレイアウトを仕上げる。型から図案を起こすのは同じだが、型染めではなくプリントによる作品だ。

一通り拝見させていただいた後、センターの主任主事の中川さんからとっておきの情報をいただいた。町が夕闇に包まれる頃、雷門の辺りで建物を振り仰ぐと…
「全面ガラス張りですから、夜になると照明で館内がよく見えるんです。1階と2階のタペストリーが繋がって、鮮やかに浮かび上がりとてもキレイですよ」とのこと。
浅草の宵闇に浮かびあがる巨大な行灯、そのなかに浮かび上がる華やかな影絵。浅草の夜を彩る新しい名所を見るために、次回はぜひ宵の口に訪ねてみようと思う。

浅草文化観光センター
» 浅草文化観光センター 施設概要
東京都台東区雷門2-18-9
03-3842-5566
9:00-20:00(8F展望テラスと喫茶室は22:00まで)
東武スカイツリーライン・浅草駅より徒歩5分
東京メトロ銀座線・浅草駅より徒歩1分
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