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瀬沼健太郎の花とガラス 「移ろう季節の中で ー 晩秋編」

十三夜を過ぎた秋の晩(くれ)、ガラス作家の瀬沼健太郎さんはいつもの山へ向かった。澄み渡った空は高く、夏よりも傾いた陽射しが、山の斜面を遠くまで照らしていた。耳に届く鳥の鳴き声、川のせせらぎ、風が葉を揺らす音も心地よい。植物が枯れ始めるこの季節は、一年で最も植物の表情が多彩になる頃。森全体の息吹を感じるなら梅雨の季節がおすすめだが、個々の植物に向き合うなら晩秋はいちばん愉しいという。「同じ種類の草花でも、葉の色づきや虫食い跡など違っていて、一つ一つじっくり見て遊ぶのはとても面白いですよ。この季節らしさを伝えたくて、“一本を生ける”という気持ちで生けてみました。一枝に広がる表情の豊かさを、じっくりと感じてほしいです」。自作のガラスの器に、自ら採取した草花を生ける「瀬沼健太郎の花とガラス」。第三回は、晩秋編です。

掛花

薮から引っ張り出した
カラスウリの赤と黒の実。
うっそうとした
森の雰囲気を杉で表し、
クリアガラスの花器に。
竹や金属の花器と違って、
森の気配をそのまま感じられる。

ボトル

トキリマメは
晩秋に赤く熟した豆果がはぜて、
黒い種子が顔を出す。
西ヨーロッパ調の花器に生けて、
エキゾチックな雰囲気に。

ボトル

ススキのような、稲穂のような、秋らしい草。
「頸の長い花器に差すと、風を起こせます」

ボトル

細い赤紫色の枝には
小さな棘々。
黄色い小花と
枯れ始めた
小さな葉を添えて。

ボトル

野菊の儚さ。
虫に食われた葉は、枯れて縮まりながらも、
小さな花をしっかりと咲かせている。

コンポート

サンキライの赤い実、黄色へ移り始めた葉に、
乾いて丸まった大きな葉。
平たい花器の縁を利用して、
立つように生けると、
立体的な造形と色彩が映える。

水景

水面に浮かんだ山栗。
じつは水を張らないドライ生けで、
上から覗くと砂地から
水が湧いているように見える
オブジェにのせたもの。

ボトル

虫食いだらけの葉と、
花器の口の薄く割れた姿が
儚く響き合う。
いまを刻む不完の美の中で、
上を向く小さな花穂も健気。

ボトル

よく道の脇に見かける、
蔦の絡まった姿。
目を凝らしてみると、
くるんとした白い莟には
紫色の縁取りが。

ボトル

素朴な草花は、投げ入れのように、
決め込まない自然な生け方で。

長頸壺

初夏に生けた紫陽花と同じ株から。
特徴的な碧味を帯びた葉も秋色に深まって。

ボトル

大きな葉は、一枚でも表情に富んでいて、
季節の愉しさを伝えてくれる。
枯れた杉を添わせて。

レンズ壺

翠から紅へ、
一枝が描く
紅葉グラデーション。

水景

水の塊のようなオブジェは、
枯れ葉1枚をのせるだけで、
水面を舞う落ち葉の景色に。

国営昭和記念公園の一角にある日本庭園。日本の伝統的文化を継承する場として、また、人々がコミュニケーションを深める語らいの場として、さまざまな活動を行うことができます。
今回撮影でお借りした「歓楓亭」は日本庭園内の池の西側にあり、奥深い池の広がりが観賞でき、建物は、北山の杉丸太、吉野の錆丸太、木曽の檜板などを随所に用い、檜皮葺きの屋根や柱と桁の仕口・継手など、日本でも数少なくなった数寄屋大工ら独特の職人が扱う伝統的な技術をふんだんに取り入りれています。
開催時間内にはお抹茶とお菓子の呈茶サービス(※有料)を実施しています。 詳しくは国営昭和記念公園管理センターまでお問い合せ下さい。
〒190-0014 東京都立川市緑町3173 TEL 042-528-1751

場所・撮影協力:歓楓亭 / 国営昭和記念公園
器・花生け:瀬沼健太郎
文・構成:竹内典子
写真:大隅圭介

コンポート ボトル
レンズ壺 水景
水景
ボトル ボトル
長頸壺 ボトル
ボトル
掛花