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瀬沼健太郎の花とガラス 「移ろう季節の中で ー 早春編」

まだ山に花があるかないかという頃。 寒さの中にある春をみつけようと、 ガラス作家・瀬沼健太郎さんは 八王子の自宅から少し離れた山を歩いた。 年を越した枯れ枝や、ひんやりとした山の空気の中で、 自生の花たちが静かに咲き始め、花の周りには、 移りかわる季節の息づかいが聞こえていた。 その声を持ち帰り、瀬沼さんは花とガラスで、 いまという季節の気配をとらえる。

レンズ壺

「夏は水も緑も豊かに見せたい」。
水を満たした球体の花器に、
水中花のように、桑の葉を生けた。
ガラスのレンズ効果も手伝って、
桑の葉の形を愉しめる。

 
 

短頸壺半夏生飾り台:羽生野亜作

夏至を過ぎた頃に花を咲かせる半夏生。
花を照らして虫を誘い込むという白い葉は、
花が終わると元の緑色の葉に戻るという。
この季節だけの一瞬の輝きを、短頸の花器に。

一文字紫陽花、檜

季節の象徴ともいえる、白い紫陽花。
重なり合う葉を整理して、
緑一面の山に立ち上がって咲く花の力強さ、
山の本質のようなものを表した。
生命力を感じる檜と合わせて。

花入オカトラノオ、蔓草、枝
飾り台:羽生野亜作

山中の枝に巻きついていた蔓草。
その時のように花器に差した枝に巻き付けて、
足元にはオカトラノオを。
下方から咲き始め、
花穂の先は虎の尾のように垂れ下がる。

紫陽花、檜

先端に枯れた花を残したまま、
過去を奥行きに、旬の花を生け込んだ。
山の紫陽花の葉色は、深く濃く力強い。

 
 
 

檜、杉

聖杯や祭器を思わせる形の器に、
神聖な空気感を放つ檜や杉を合わせた。

スージャ紫陽花、倒木

口の広い器の形を利用して、
花留めを兼ねた倒木を置き、
額紫陽花を入れた。
野趣が匂って、山の紫陽花らしく
葉の青さが生き生きとする。

レンズ壺百合

真直ぐな茎に対称的なリズムを刻む百合の葉。
そのおもしろさを見せるため、
水中の葉も落とさずに生けて、
器の中も見せ場に。

ボトル山の花(不明)
飾り台:羽生野亜作

津久井の山で見つけた名も知らない草。
桃色がかった蕾を摘んでくると、
一つだけ小さな白い花が開いた。
小瓶に一輪、スーッと長めに生けたら、
台や折敷は安定感のあるものを。

花入紫陽花、杉飾り台:羽生野亜作

枯れた花を残して、咲いている花を整理すると、
生命の営みが見えてくる。
去年の花を入れることで取り込んだ時間。
そこからストーリ—の想像も生まれて、
造形的にも面白い。
若々しい青杉を、花留めを兼ねて、
花器の頸に透けるように差す。


ホタルブクロ、ヤブレガサ、野苺

山野の少し湿った場所に生えている
植物たちの取り合わせ。梅雨から夏は
水がいちばん身近な季節、ガラスの器に
たっぷりと水を張って生けると爽やか。

片口
ホタルブクロ、オカトラノオ、笹
飾り台:羽生野亜作

片口に生ける時は、食器なので
やり過ぎない方が自然。摘んできたものを
ちょっと水揚げするくらいの感覚で。

長頸壺ヤブレガサ

「ヤブレガサの花つきです」。
芽出しの頃、破れた傘のような形をした葉は、
開いた姿も目立つけれど、
さり気なく咲く花も愛らしい。
長頸の花器に差して、山の花を伸びやかに。

スージャ

碗形の花器はたっぷり水を見せるのも涼やか。

国営昭和記念公園の一角にある日本庭園。日本の伝統的文化を継承する場として、また、人々がコミュニケーションを深める語らいの場として、さまざまな活動を行うことができます。
今回撮影でお借りした「歓楓亭」は日本庭園内の池の西側にあり、奥深い池の広がりが観賞でき、建物は、北山の杉丸太、吉野の錆丸太、木曽の檜板などを随所に用い、檜皮葺きの屋根や柱と桁の仕口・継手など、日本でも数少なくなった数寄屋大工ら独特の職人が扱う伝統的な技術をふんだんに取り入りれています。
開催時間内にはお抹茶とお菓子の呈茶サービス(※有料)を実施しています。 詳しくは国営昭和記念公園管理センターまでお問い合せ下さい。
〒190-0014 東京都立川市緑町3173 TEL 042-528-1751

場所・撮影協力:歓楓亭 / 国営昭和記念公園
器・花生け:瀬沼健太郎
文・構成:竹内典子
写真:大隅圭介

杯 花入
瓢 一文字
レンズ壺
長頸壺
短頸壺
片口 ボトル
花入