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Interview 木越あい×井上典子 文・構成:峯岸弓子

ガラスの水彩画

木越あいさんのガラスの器。それは使うというより、眺めるというより、むしろ、覗き見るためにつくられたものかもしれない……。日常の、時の流れのひずみにふと表れた秘密の扉。その扉を薄く開けて覗き見た不思議な世界。それは、色ガラスという絵の具を重ね、砂という筆によって刻み込まれ、光によって命を吹き込まれた、ガラスの水彩画によって表現されている。その水彩画の扉を開くのは、プロデューサーの井上典子さん。木越あいさんが描き出す幻想世界の秘密、覗いてみたいと思います。

何をするのか
わからないまま、
子供の頃から
美大に行くと決めてました。
インタビュー風景

井上
木越さんは多摩美のご出身ですが、選んだ理由は?

木越
何をするのかわからないまま、子供の頃から美大に行くと決めていたんです。とにかく絵を描くのが好きだったし、物をつくるのも好きな女の子でした。芸大を落ちて一浪した後、多摩美のグラフィックと立体科に受かったんです。ちょうど日比野克彦さんが注目を集めていた頃で、これからはグラフィックだ!という気運の時代でした。自分もデザインの仕事をと思いつつも、同時に違和感を感じていたんですね。やはり手先で何かをつくるのが好きなんだと気付いて立体科に入りました。

井上
デザインのイメージが強いグラフィックより、手で物をつくりあげる立体科を選んだということですね。

木越
グラフィックには商業的なイメージがあって、たとえばどこかに就職するとか……。それは自分のやりたいことのイメージとは違うように感じていたんです。一人で出来ることがやりたかったのかな。

井上
その立体科の中でも、ガラス工芸を選んだのはなぜですか?

木越
色に惹かれたんだと思う。それに当時は、70年代に興った海外のスタジオグラスムーブメントが日本でも始まり出した頃で、作家が自分の工房で油絵を描くようにガラスで作品を作っているらしい、という話を聞いていたんです。欧米帰りの作家達があちこちに工房を造り始めていた時代でもありました。ですから、自分もいつかは工房を持ってガラス作品を制作するんだ、そんなイメージがぼんやりとありました。

井上
それからずっとガラスをやっているわけですが、表現方法としてサンドブラストを選んだきっかけは?

木越
その頃の私は、形にあまり興味が持てなかった。吹きで自在に形をつくれなかったせいもあります。そういう意味でも自分の表現方法としては、コールドワーク※1が適していると感じていました。当時、ガラス科の課題で「フラットワーク」というのがあったんです。吹いたガラスでもいい、板ガラスを使ってもいい、とにかく板状のガラスで何かを表現するという課題。それで私は、ステンドグラスの板にサンドブラスト※2で絵を描きました。それが始まりです。私みたいに、具体的な絵をガラスに描く人はいなかったので、一人ぐらいこういう生徒がいても面白いんじゃないか、先生もそう思われたんでしょうね。「絵でやってみたら?」って言ってくれたんです。

井上
宙吹きにはあまり興味がないとはいえ、板ガラスを自分で吹いてつくっていますね。

木越
卒業制作は板絵だったんですが、その頃から自分で吹いたオリジナルの色の板を使いたいと思っていました。だから板にするためのシリンダーという筒型と、ロンデールという円盤状のガラスしか吹かなかった。板ガラスという材料をつくるために吹きをやっていたんです。筒状に吹いたガラスを切り、電気炉の熱とガラス本体の自重で板状に開くのですが、吹きの段階での色の被(き)せ具合や、ロンデールで作ったパーツを重ねるなどの試行錯誤は何度も繰り返しました。そのために、成人式の着物代わりに電気炉を買ってもらいました(笑)。

成人式には、
着物の代わりに
電気炉を
買ってもらいました。
工房風景

※1:コールドワーク
液状に熔けたガラスを、宙吹きなどで成形することをホットワークという。それに対して、熔けたガラスを冷まして固体化させ、加工、加飾する技術の総称。カット(切子)、グラヴュール、サンドブラスト、エッチングなど。

※2:サンドブラスト
圧縮空気に研磨剤を混ぜてガラスの表面に吹き付ける加工法。