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パノラマ座談会@戸栗美術館 August 2013 文・構成:竹内典子

パノラマ座談会「古い焼きものに想いを寄せて」 後編 2/3 森 由美 (陶磁研究家、戸栗美術館・学芸顧問) × 浜野マユミ (陶芸家) × 吉永サダム (陶芸家) × 矢野直人 (陶芸家)

古いものの一歩先へ

吉永さんは、これぞお手本というものはありますか?

吉永 今のところ素材から入っているので、泉山とか天草とか土に恋し過ぎて、ものまではまだ絞れないです(笑)。もちろん素敵なものはたくさんあって、柴田コレクションへ行けば、展示品のあちこちから声がかかって、これもいいな、あれもいいなってなるんですけれど。でも、何というか、匂いを手に入れたいんです。昔のものと今のものの違いって何だろうかといえば、素材、焼き、つくり、いろんなものが違うと思うんだけれど、そこを矢野君とかは、古唐津のひとつひとつの素材から紐解いてというアプローチをしていて、そういうところってわかりやすいというか進みやすいし、すごく影響受けています。実際に今回、天草のものと泉山のものをつくって比べてみた時に、それぞれの違いを肌で感じることができて、天草の素晴らしさは絶対的にあるし、泉山の素晴らしさにも触れることができましたから。

浜野 吉永君はちょっと原料マニアなんですよね(笑)。

吉永 有田のような産地にいると、轆轤が上手いとか、絵付けが上手いとかっていうことをよく耳にします。ある時、技術って何だろうなと考えた時に、何百個も歪まずに数を揃えて轆轤でつくれるとか、線がきれいに細く長く引けるとか、それはもちろん大切な技術なんだけれども、本当の意味での技術は、素材の中にある旨味のようなものを、素材の中にしかないようなものを、ちゃんと引き出すことなんじゃないかと思ったんです。

座談会風景

矢野 本当の伝統工芸というのは、そういう味みたいなもの、匂いみたいなものが必要ですよね。

吉永 料理みたいなもので、素材の持っている旨味を引き出してあげるのが本当の技術。というような感覚を僕は強く持っています。

素材の旨味を引出したいから、自分の技術もアップさせたいということですね。

吉永 そうですね。その繰り返しで行きたいなと思います。

私も粘土については、多くのつくり手の方々に、もっと取り組んでほしいなと思っています。実は、私はもともと化学を専攻していて、それから東京芸術大学で保存科学をやって、そこで陶磁原料学を履修したんです。なので、私もどちらかというと、古い焼きものに対してのアプローチは素材なんですね。破片を顕微鏡で調べていた方ですから、皆さんのお話はとても興味深いです。

古い焼きものを見る時に、これはどんな土を使っているのだろうか、どういう技法でどういう窯でどんなふうに焼いたんだろうかと考えるのが、私が古い焼きものと向き合う時の一つの方法です。美術系出身ではありませんから、焼きものを目の前にして、さてどう語り合おうかとなったら、私の持っている武器はまずそれですね。

そういう中で、粘土の質とか扱い方は、ものすごく大事だと感じているのですが、つくり手の方にうかがってもあまりそういう話が出てこない場合もあります。もちろん秘密にされている場合もあると思いますが、うかがいたい部分ですね。たとえば世間では備前の土といえば田土か山土の2種類のようによく言われる。けれども、土にこだわっている方の話を聞いたら、ありとあらゆる色と種類の土サンプルを見せてくださって、これが本物だなと思いました。

矢野 志野焼のもぐさ土*17は白くて軽くてとよく言われるけれど、僕は古いものを見て、あれは陶石でつくった方が近いのではないかなと見る度に思います。そういうことを、これまで常識とされていたことを、一歩先に突っ込んでやってみるのも、自分たちの役割なのかなと。

古陶磁を研究する側からしても、そういう非常に突っ込んだ形で取り組まれている作家さんたちから、新しい発見であったり、研究者はこう言っているけれどちょっと違うんじゃないのというようなお話は、すごく聞きたいものです。やはりつくり手ではない弱み、机上での学びは、どうしたって頭の固さができてしまいますから、そういうお話はぜひうかがいたいですね。

矢野 古いものがあって、昭和の桃山復興の動きがあって、日本経済と同じように勢いがあって、それを見て憧れて育った今の50~60歳代の方が活躍していて、では次はどんな焼きもののページなのか。時代時代のページがないといけないと思うんです。

日本の陶磁器の長い歴史の中で、桃山や有田のように、幅広い人に認められているものって素晴らしいですよね。それは好みの問題ではないから。そういうものを再現するというのは、昭和以降たくさんの人がやっているけれど、でも何か違うなということは自分の中にあるし、もしそこに近づけるとしたらすごく意味があると思っています。

たとえば自分で新しいテクスチャーを求めてつくる作家さんもいますけれど、それは僕にとってはある意味決まりがない世界というか、そこでのいいものの評価というのはすごく難しい。僕が今やっている仕事の中での考えは、決まりがあるからこそいいものが判断できるという考えなんです。ただどちらの仕事もあるべきものだと思うし、ましてや今の時代、その幅が広がることもいいことで、それは意識を持ってやらないといけないと思っています。

座談会風景

この日本で、世の中に何でもある状況で、なぜ土でもって器をつくっていかなければいけないのかという意識はしっかり持ちたいということですね。そして、そういう想いのあるところに、本当に皆さん好き好きでたまらないと感動するような古い焼きものがあるというのは、非常に有難いことですよね。ひとつそれがあるから近づこうという想いが生まれ、だからと言ってそれが模倣ではなくて、たとえば浜野さんのように、糸切の素晴らしい作品に近づこうと思ってやっていく内に、どんどん新しい糸切の発展が生じているわけです。まったく模倣ということに留まらない、違う方向への掘り下げができていると思います。

浜野 古いものを手本に学んでいますが、見ているところは表面ではないような気がします。ものの持っている存在感というか内面に魅力を感じて、そこに憧れてつくっているので、表面的にこれを写さなければというのはあまりないですし、目指しているところではないと思います。

つくり手を追いかけていますよね。「私の大好きなこの器」をつくった、誰だかわからない、その人を。

浜野 そうですね。その人が素敵っていうことですよね(笑)。

先ほどもおっしゃっていたように、糸切の作品はたくさん手が入るから、つくり手を感じさせる部分というのがものすごくあります。それが好きということは、きっと器の向こう側にいる誰かが好きという感覚。器そのものを再現していくのではなくて、できればつくり手のその手を真似したい、そういう想いもあるのでしょうか。

浜野 はい、そうですね。そして、その陶工も、きっと何か憧れや目指すところがあったはずで、どこか想い描く先をみつめて制作していたのではと思います。今、私は、その制作過程を想像し、辿りながら学び、いつか自分なりにその続きの作品をつくれたらと思います。

*17:もぐさ土
お灸のもぐさのようにパサパサと軽い感じの粘土。

浜野マユミ作品展

浜野マユミ作品展

2013/7/6(土)〜9/23(月)
@戸栗美術館/渋谷

「戸栗美術館 1階やきもの展示室」にて、浜野マユミ氏による作品展を開催致します。 古伊万里の伝統技法を用いて、日本の四季を表現した小皿・猪口などを展示。 制作に用いた道具類もご紹介します。 企画展「小さな伊万里焼展 ―小皿・猪口・向付―」とあわせてお楽しみくださいませ。

財団法人 戸栗美術館[東京渋谷・陶磁器美術館]
〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-11-3
tel. 03-3465-0070
http://www.toguri-museum.or.jp

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