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Interview 馬越 寿 聞き手:春名香代子 文・構成:竹内典子

精緻につくり込むガラス

器を使うということ。
自分の窯を持って
意識が高まった
インタビュー風景:馬越 寿
工房風景

春名
オブジェだけでなく、使える器というのは、いつ頃からつくられていますか?

馬越
あづみ野ガラス工房にいた時に、いわゆるプロダクションピースと呼ばれる工房の作品をつくったり、デザインしたりしていました。器をつくることは、吹きガラスが発明されたことの本来の目的であり、自然なことですよね。吹きガラスの溶解炉をもっている工房はどこもそうだと思いますが、あづみ野ガラス工房でも器をつくって売っていました。当時から自分の作品としても器はつくっていましたが、ただ、今思うと、見せることが先にあった器だったかなと。本当に使うこと、お客様が使ってくれることを意識できたのは、独立して自分の窯を持ってからですね。

春名
現実的なところですね。

馬越
それは良いことでもあり、良くない結果を生み出すことでもあり。自分で窯を持っている人はそこと向き合い、解決していくことなんでしょうね。私はまだ現時点では、解決しきれていませんが。

春名
美しさや理想的なフォルムを優先させたいということですか?

馬越
そう言ってしまえば身もふたもないのですが、自分のやりたいようにやりたい(笑)。自分のやりたいことを完全に排除するというのでは、つくる意味がなくなってしまうので、要はそこをどう折り合うかってことではないかと思っています。

春名
時々、使う人の顔を思い浮かべつつとか?

馬越
はい。自分で窯を持ってからは、やはり思い浮かべるようになりました。

春名
今後やってみたいことはありますか?

馬越
大筋はガラスを始めた当初に思っていたことと、変わらないだろうなと思います。ずっとガラスそのものと向き合ってやっていて、ディテールだとか、すごくマイナーな部分での発見だったり、変化だったりというのは今もあるんです。

春名
ご自分の立ち位置というのは、工芸とアート、どちらとお考えですか?

馬越
最初の頃はそういう言葉に過敏な時期もありましたし、一時期は造形作家というふうにしようと思っていたんですが、今はもうそういうことにこだわりはなくて、私自身は「ガラスを扱っている人間です」というそれだけでいいかなと。

春名
工芸の現状についてはどう思われますか?

馬越
工芸とは何かという共通認識がないと、こういう話は始まらなかったりしますよね。すごく簡単に乱暴に言い切ってしまえば、先に素材ありきというのが工芸であるならば、私は工芸でいいかなと思います。

春名
私は「手わざ」というのはすごく大事だと思っているものですから、先ほどから馬越さんのお話をうかがっていて、「新しいもの」というのは、いろいろな工程の中で、ある日、手の中から生まれる、というお話はとても腑に落ちました。

馬越
私はそう思ってやっていますが、それだけではダメだと仰る先生はいます。ただやっているだけでは何も生まれない、「どうしたい=こんなふうにしたい」というのがないとダメだということです。

工房風景:馬越 寿
工房風景:馬越 寿
最初からこうしようというよりも
一瞬のガラスの表情を捉えて
つくっていく
インタビュー風景:馬越 寿

春名
馬越さんにもあるのでは?

馬越
私は最初から「こうしたい」というのはあまりないんです。ないという意味は、偶発的というか、何か行為をしてそのガラスに現れた表情みたいなものを制作の出発点にしているということです。それがある程度先に進んだところでは、こうしたい、こうしようというのは生まれてきますが。

春名
偶発的と仰いましたけど、そこに生まれたものをキャッチしたり、一瞬にして変わっていくかもしれないことをパッと捉えるという力は、その作家さんの力かなと思います。

馬越
それは伊藤孚さんから教わったことの中で、一番頭に残っていることでもあります。そういうものを「見逃すな」と。

春名
見逃さない力ですね。

馬越
紙に完成予想図を描いて、その通りにしようとしか思っていないと、制作途中に現れる魅力的なことを気づかずに見過してしまう。きれいな瞬間を見逃さないようにと教わりました。

春名
とても大事なことですね。
今日はたくさんのお話をいただき有り難うございました。

馬越 寿 ガラス展 【透明の構造】

2012.3.5〜29
@ギャラリー晩紅舎

2012年3月5日(月)〜29日(木)

» ギャラリー晩紅舎

〒160-0004 東京都新宿区四谷1-4 綿半野原ビル一階
TEL 03-3357-7480 / FAX 03-3357-7487
営業時間:am11:00〜pm7:00(最終日5時迄)
開催中の土曜日は営業/日曜・祝日休廊

インタビューを終えて

寡黙な印象の馬越氏ですがお話を進めるにつれ、
その静かな語り口に制作への真摯な姿勢と持続的な情熱を感じました。
進むべき方向がしっかり見えているという印象でした。
若い時から蓄積された技術とイメージが完成度の高い作品へ昇華する。
この時代に記されてよい作家のひとりだと思います。
教育現場においてもその作家性を見せることが
これから制作をしてゆく人たちへの良い指導につながるのだと思いました。
マイペースでぶれることなく制作を続けてほしいと願っています。

春名香代子

横浜でガラス作家の多い工芸ギャラリー「ギャラリー卯甲」を運営していたが
2012年3月からはガラスを主とした作家紹介・作品展を企画する「オフィス卯甲」代表。
ギャラリー卯甲の企画展の折に江波冨士子氏の紹介で作品に触れて以来の馬越寿ファン。

Artist index Yasuhi UMAKOSHI