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Interview 上野雄次

花をめぐる「動」と「静」

対立軸から生まれる緊迫感、
花生けを競うライブ。
上野雄次:闘う花会@三溪園 2012

上野雄次:闘う花会@三溪園 2012

上野雄次:闘う花会@三溪園 2012

上野雄次:闘う花会@三溪園 2012

上野雄次:闘う花会@三溪園 2012
「闘う花会」@三溪園/2012年5月
©フォトグラファー 阿部郁夫

ーー
「闘う花会」「花生けバトル」は、観客の前で花生けの優劣を競うライブパフォーマンスです。ユニークな趣向ですが、こうしたライブはいつごろから始まったのですか?

上野
2011年の7月ごろです。その2ヶ月ぐらい前に、知人の花道家から「花生けのデモンストレーションをやるから見にきて」と誘われ、会場の「山羊に、聞く?」*5へ行ったのがきっかけでした。「あそこにも花道家がいるから生けさせよう」と舞台へ引っ張り出され……。

ーー
飛び入りのセッションが始まったわけですね。

上野
そうなんです。その時、日本酒を楽しむ、というイベントが同時開催されていたので、日本酒を一杯ずつ代わる代わる飲み干してから花を生けることになり、酔拳みたいな趣向になってしまって(笑)。お客さんが盛り上がっている様子を見た店の人が「花生けのイベントはこんなに面白いんだ」と思われたようで、「バトルイベントをやりませんか?」と声をかけていただきました。実はその前から、花生けでバトルするのは面白いと思っていたので、テレビの制作会社の人に声をかけていたのですが、企画書が下手で全部蹴られていたんです。それが、たまたまこの時に興味を持ってくれた人が出たんですね。

ーー
「花いけバトル」は今年の2月で第7回を数えますが、今は上野さんご自身も運営に関わっていますね。もともと花生けバトルを思いついたきっかけは?

上野
ヒントになっているのは、グルメブームなんです。テレビ番組で料理人がバトルを繰り広げるのを見て、花生けも多くの人に興味を持ってもらうには仕掛けが必要だと気付きました。ならば、花でもバトルをやったら?と思ったのがきっかけです。花を生ける過程というのも面白いですから。

ーー
生ける過程が面白いのなら、あえて闘わなくてもいいのでは?

上野
そうです。ところが、対立軸があることによってさらに緊迫感が生まれ、人はそこに引き込まれていく。人はたぶん、そういうことが本能的に好きなんじゃないかと。自分の生を生かすためにはどこかで他人の生を犠牲にしなければならない。植物もせめぎ合いながら、太陽の光を受けられなかった者は足下で枯れていく。そういう自然のせめぎ合いというのは常にある。それが命のもつ根本的なバランスだと思うのです。

ーー
他の花の生け手の方々にとっても興味深い試みではないでしょうか?

上野
そうですね。花生けバトルというイベント自体、流派やジャンルを越えて交流する目的もあります。様々な垣根を越え、花の生け手として本当に今やるべき事を話合うよい機会にもなっていると思います。

ーー
ライブパフォーマンスの「動」の世界、器に寄り添う「静」の世界、二面性のあるところが上野雄次という花道家のおもしろさであり、他の花道家との違いでもあると感じます。

上野
どうなんでしょう。それが、人として生きることの有り様にも思えるんです。日本人が培ってきたバランス感覚、つまり、コミュニティを大事にして、協調することをすごく意識して日常を送っていますね。どこの村にもハレの日があり、それが終われば日常に戻っていく。そのバランス感覚の陰には荒ぶる感情だとかエネルギーというものがあり、コントロールする能力がない少年期から青年期には、理不尽に色々な物事を感じすぎてしまうこともある。僕はたぶん、そうした想いを引きずって生きざるを得ないタイプの人間なので、今でも若いふりしてやっているのかもしれません(笑)。

ーー
今後はどちらに重心を置くつもりでしょうか。パフォーマンスの「動」の活動なのか、展覧会などの「静」の活動でしょうか?

上野
どちらもやらないことには、意味がないと思っています。それは僕自身が表現者でありたいというのとは別に、花を生ける行為のすばらしさを多くの人に伝えたいという想いがあるからです。

ーー
最後に、花道家として上野さんが伝えたい想いとは何でしょうか?

上野
花道とは何かというと、花によって求道するということですね。つまり、花道家とは、花を生けるということで生きるべき道を探求する人間であると、宣言していることになります。そのことはずっと想い続けてやっていきたい。そして、花も人も同じ生物であり、地球全体から見れば生物が占める割合は大した量ではありません。地球の表層にわずかに存在するだけですから。「花生け」とは、人間と植物がその小さな枠組みに存在する大切な仲間同士であることを、思い起こさせてくれる行為なのだと思います。そしてお互いの生のバランスを感じ取りこの地球上で生きていくという事の答えに迫り続けるということでもあるわけです、要するに「生きるとはなんなのか?」という事だと思います。

ーー
本日は有り難うございました。

「動」と「静」、
二つの世界観を持つ花道家。
上野雄次:インタビュー風景

上野雄次:花生け
» 花器:長谷川奈津 「壺」

上野雄次:花生け
» 花器:田淵太郎 「薪窯白磁 花入角」

*5:山羊に聞く?
花生けバトルが開催される代官山のカフェ&バー。
http://yagiii.com/