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Interview 西浦裕太 聞き手:根本美恵子(ギャラリー「日々」コーディネーター 文・構成:竹内典子 Feb. 2012

風景を描く彫刻

行き先を無理しない。
木と語り合いながら
気の合う方へ歩み進む。
工房風景

根本
つくりたいものをつくっていくには、技術の習得は重要なことと思いますが、工芸というと技術面から入ってくることが多くて、アートというとそれがあまりなくても成り立っているところもありますよね。でも、西浦さんの作品のように、素晴らしいアートというのは、工芸的な技術もあって成立しているというふうに思えます。

西浦
こういうふうにしたいな、ここをちょっと削りたいなっていう時に、技術とか応用力が自分にないと、制限されてしまうことはあると思います。散歩のコースをいろいろ知っている方が、いろんな発見もできるし、面白いところにも辿り着けるみたいに。でも、僕はそこでもあまり無理をしないというか。たとえば彫っていて木が割れてしまったり、折れてしまったりすることはあるんですが、それはもちろん僕の技術的な部分が足らないこともあるけれども、それ以上に、これはちょっと木が望んでいなかったかもしれないなと。じゃあ、こういうふうにしようよと、木に納得してもらえるような形にしていきます。

根本
なるほど。

西浦
これはこういう形にしたかったのに、こんな形になってしまったからダメだということがないんです。何かあったらそこから木と一緒に落としどころを見つけ合ってつくる。だから僕だけの意識じゃなくて、それこそ散歩じゃないですけど、こっちは行き止まりだから、あっちに行ってみようかという感じですね。

根本
木は育った年数だけ動くとよく言いますよね。100年生きた木だったら、その後100年間動き続けるとか。たぶん西浦さんが扱っている間にも木はどんどん変化していくだろうし、そういう意味では、木に対して語りかけつつ、呼吸があるというのは、よくわかります。その留めどころというか、やり過ぎない塩梅というのはあるのですか?

西浦
ありますね。これはやり過ぎちゃうなとか、逆に何かまだ足りないなっていう時は、とりあえずちょっと置いておいて、空気にさらして、どんな色になっていくか、どんなふうに見えてくるかを見てみます。

根本
作品を一つずつ順番に仕上げるのではなく、複数を同時につくると仰っていましたが、いろんな作品を少しずつ手がけて、同時進行していくものが常に手元にあるというのは、そういう理由もあるんですね。

西浦
はい。でも、展覧会で発表する時点で、それが完成だとも思っていません。以前、買っていただいたお客さんがいて、まだ目の前に作品もあった時に、「ちょっと変えてもいいですか?」って話して変えてしまったことがあります(笑)。これで完成です、じゃなくてもいいのかなと。

根本
それは面白いですね。
制作工程の中では、どういう作業が好きですか?

西浦
彫っている時です。

展覧会での発表、
その時が作品の
完成でなくてもいい。
工房風景
木の中に埋まっているもの。
鑿で削っているうちに
だんだんとその形が見えてくる。
作品

根本
木そのものが手の中にあってというところですか。

西浦
だんだんと木の中に埋まっているものの形が現れてくると、「あぁ、出てきた、出てきた」って。手に鑿を持ってカンカン削っていくと、そういう時にものすごい喜びがあるんです。でも、機械で削ってしまうと、僕の力だけではないので、そこは木に申し訳ないなと思うんです。木にとっては切断してほしくないところを切断してしまっているかもしれないし、木にちょっと勘弁してねという時はあります。

根本
なるほど。作業として苦手なものは?

西浦
昔からなんですけど、色付けはちょっと。小学生の頃、下絵はよくできているのに、色を塗ってぐちゃぐちゃになっちゃうということがよくありました。でも、求めている色を得るために、塗っては削ってを繰り返して、いろんな色の層をつくっていく僕の今の塗り方は、そんな経験からきているのかもしれません。

根本
今は、どういう素材を作品に使われていますか?

西浦
木、鉄、金属のワイヤー、色付けの土、弁柄などの鉱物などで、こうして材料名を並べてみると、曜日を並べているようです。「月」以外はすべて使っているように思います(笑)。

Artist index Yuta NISHIURA