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Interview 木越あい 聞き手:井上典子 文・構成:峯岸弓子

ガラスの水彩画

平面と器では、明らかに、
訴えてくる力が違っていた。
これはキレイだ。
そう思いました。
インタビュー風景

井上
すでに器の作品の発表をされていますね。これまでの板絵の作品とはかなり作風が違いますけど、お客様の反応はいかがでした?

木越
明らかに違いました。薄々はわかっていましたけど、こんなにも見る人の反応が違うのかと自分でもびっくり!

井上
私も、目の前にある作品を見たとき、これはキレイだと思いました。これまでずっと木越さんの作品を見てきましたけど、平面の時と器になった時では、訴えかけてくるものが全然違ったんです。

木越
お客様が普通に作品を手にとって、どれにしようか選んで下さる喜び、買って持って帰って下さる喜びも強く感じました。今までの作品は大きくて値段が高いこともあり、普通の人が選んでくれることは稀でしたから。とにかく、良くも悪くも、見た人からの反応が得られたことが純粋に嬉しい。器の作品によって得られた反応が、今の私の原動力になっていると思います。

井上
木越さんのガラス作品に描かれた絵には、独特のモチーフがありますね。たとえばオオカミもよく登場しますが、そうした発想の原点はどこにあるのですか?

木越
オオカミは父性の表れなんじゃないか? なんて、私の深層心理を追及させられる様な事を言われた経験もありますが、自分では意識していないです。ただし作品をつくる時、私の中にストーリーはあります。一つの絵の中に音楽的な流れがある。序章があって、盛り上がりがあって、静かに幕を閉じるような……。見る人にそれを押しつけるつもりはないので内容は秘密ですけど(笑)。

——
幻想的なイメージがあるのはそのせいでしょうか?

木越
それは技法的な側面の理由もあるかもしれません。カッターナイフで切っているので切り絵に近い。ペンや筆なら滑らかだけど、カッターナイフで描くともっと直線的。だから何となく影絵的だったり、幻想的なイメージをもたれたりするのかもしれないです。

絵の中には音楽がある。
序章があって、
盛り上がりがあって、
やがて静かに幕を閉じる…。
工房風景
「コージーガーデン」とは、
気持の良い庭という意味。
小さくなった自分が、
迷い込んだ庭のイメージ。
インタビュー風景

井上
先日見せていただいたデザインスケッチには、花や植物の絵がありましたけど、オオカミのシリーズとは違うイメージですね。

木越
今、器の作品では2つのシリーズがあり、花や植物のシリーズは「コージーガーデン」、もうひとつのオオカミのシリーズは「ナイトメア」と名付けています。ナイトメアって、悪夢って意味なんです。よくコワイって言われるので付けてみました(笑)。

——
確かにそうかもしれません(笑)。私はどちらかというと、童話的なファンタジーを感じるのですが……。

木越
その要素は入っていますね。大学の時、絵を描くためにたくさんの童話を読みました。赤ずきんや白雪姫の話は実は残酷だったりして、ディズニーとは違う童話の世界に興味があるんです。特に、何かしら教訓が暗示されているところなんかが。登場人物が何かを象徴しているとか、伝承の過程で変わってしまったストーリーだとか。童話には、そんなことを発見する面白さがあると思います。

井上
もうひとつの「コージーガーデン」というシリーズにはどんな意味が込められていますか?

木越
気持の良い庭、という意味です。小さくなった自分自身が、庭の中に迷い込んでしまったイメージ……。

——
木越さんのHPに、板ガラスの作品を使ったデジタル絵本が載っていますね。フラッシュの動画で美しく幻想的な世界を表現している。まさに木越ワールドです。

木越
2008年の展覧会につくった壁掛けタイプの板ガラスの連作です。「New song」というタイトルで絵本仕立てにしました。それをHPで紹介する時に、作品の中のモチーフが動き出すようにつくってもらいました。

» 「New song」特設サイトへ

工房風景

木越あい