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Interview 長谷川奈津 聞き手:井上典子 文・構成:竹内典子

惹きつけられるものの正体を見つけたい

轆轤は手を加え過ぎない。
土を生かし、
衒いのない形を生み出そう。
工房風景

井上
青木さんの所では、どんなことを教わりましたか?

長谷川
たとえば井戸形の茶碗を自分でつくろうとしても、イメージはあるのにうまくできない。青木さんは「こうやるんだよ」って、話だけじゃなくて目の前でやって見せてくれる。そうすると自分がなぜできなかったか、やり方の違いがわかるんです。それは道具ひとつで変わったり、作業のタイミングの違いで出来るということがわかると、ポンと背中を押してもらえるというか、どんどん楽しくなりました。蹴轆轤もその一つです。

井上
蹴轆轤と電動轆轤では、どのような違いが?

長谷川
上手な人がやったら、仕上がりはそれほど変わらないと思いますが、つくる上で一番違うのは、蹴轆轤はスピードの加減がしやすいこと。足で1回蹴ったら、自然に止まって行く。電動は速度の調節はできるけれど、自然に止めることはできないんです。なるべく手を加えないで器の口元を挽きたい時には、蹴轆轤なら止まりそうなくらいの最も遅い回転で挽くことができます。削りの時も、電動では高速回転になってしまうので、ついつい2周も3周も刃が当たってしまうことがよくあるのですが、蹴轆轤だと1周で削ろうと思えばそれで済みます。

井上
なるほど。

長谷川
蹴轆轤は手を加え過ぎないで済むということを最初に教わりました。電動はパワーがあるのでキュッとやるだけで簡単に形ができちゃうけれど、蹴轆轤でキュッとやったら止まってしまう。だから、力を入れないでフワッと挽いてあげる。それとずっと蹴り続けなければならないので、なるべく手数を減らそうとするんです。一蹴りで土をあげて終わりとか、1周で刃を入れて終わりって具合に。そうすると、いじり過ぎないで済むんです。

井上
蹴轆轤はすぐ覚えられましたか?

長谷川
いえいえ。もともと電動も下手なんですけど、蹴轆轤はさらに手と足がバラバラ。思うように動かせないから、思ってもない物ができる。そこが、最初は面白くて、引き込まれました。

井上
その頃と今では、何か変わりましたか?

長谷川
蹴轆轤を始めた頃の、思うようにいかない面白さというのは、その時にしかなかったもので、それなりに技術もついてくると、今度は最初に出来た物を狙っていくようになってしまうんです。でも、あのフワッとした柔らかさは出せない。同じような柔らかさを出そうとすると、いやらしくなるんですね。何年か経ってからは、身についた技術の中でやりたいことをやろうと考えるようになりました。

井上
焼き物をつくっていく上での魅力を、どこに感じていますか?

長谷川
土と轆轤と釉薬や焼きが、合わさったところですね。全部がそろってこないとよくならないですから。でも、焼きはうまくいったとして、これで土がよければとか、轆轤がよければという具合に、全部がそろうことなんて滅多にない。そこが面白くもあり、悩むところでもあり…。

井上
一番大変なのは?

長谷川
土ですね。自分で掘ってないので、産地にいて土に詳しい人と比べたら、土に関しては弱い。たとえば灰なら、自分で材料からつくると細かいところまでわかるんです。土は買ったもので試すしかなく、手間をかければいいってことではないけれど、元を知っているか知らないかで、扱い方が違ってくると思います。でも、全部そろったからっていい物ができるわけではないし、焼き物の仕事はどれも全部やろうとしたら個人ではやり切れない。それぞれのどこを絞ってやるかだと思っています。

井上
窯は何を使っていますか?

長谷川
電気とガスと灯油の3つがあって、使い分けています。一点物の時は、灯油窯に薪も入れてとか、かなり焼き込んだものをつくりたい時にはガス窯でとか。どれも小さいので、テストはしやすいです。でもフル稼働の時は大変ですね。

焼き物の魅力は
土と轆轤と釉薬や焼きが
どう合わさるか。
工房風景

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