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Interview 長谷川奈津 聞き手:井上典子 文・構成:竹内典子

惹きつけられるものの正体を見つけたい

自分がいいと思い、
つくりたいと思ったものが何か、
その正体はなかなかわからない。
工房風景

井上
私は初めて長谷川さんの作品を見せてもらった時に、芸大っぽい感じがないことを新鮮に思いました。芸大卒業後は、青木亮※2さんの工房に入られましたが、青木さんとはいつ頃出会われたのですか?

長谷川
芸大に進む前です。「ものすごく重たいものばかりつくっている人がいるよ」と彫刻科の友達に誘われて見に行ったら、何これーって言うくらいめちゃくちゃ重い。でも、土のゴロッとした感じが、私が子供の時に陶芸の先生から感じた焼き物のイメージと重なって、いいなと思いました。それが最初の出会いで、以来、青木さんの展覧会に行ったり、藤野の工房に遊びに行ったりするようになりました。話をすると、あまり周りにはいないタイプの大人で、本当のことを言ってくれるし、実際につくり方も見せてくれました。つくるリズムがまた楽しくて、そこにも引き込まれました。

井上
そういうつながりから、弟子入りをされたのですね。

長谷川
卒業後は1年間大学の先輩の陶芸教室でお世話になっていました。その頃に青木さんから、勉強する気があるなら来ていいよ、ただし2年で独立するという条件なら、って言ってもらえて。青木さんからは弟子じゃない、弟子って言うなとよく言われてました。弟子というのは役に立つ人のことだって(笑)。

井上
長谷川さんにとって、青木さんの作品の一番の魅力はどこですか?

長谷川
ひと言では言えないです。品があるなぁと思ってました。

井上
制作における青木さんの方向性と芸大の方向性は、ある意味まったく違うようにも思いますが?

長谷川
私は、もともと最初にお話した、小さい頃に出会った橋本先生に、沢山のことを教わりました。先生は画家を志してから焼き物の道に独学で進まれた方で、ご自分で薪窯を何度もつくり直しては、今も焚き続けていらっしゃいます。先生は焼き物の話というより、美術・芸術において「ものをつくる」ことをよく話してくれたんですね。栃木の工房に遊びに行く度に、先生の好きな音楽や絵や本を見せてくれて、私にとっては、どれもが初めて出会うものなので、夢中になって話を聞いていました。先生が見せてくれたものは、つくり手が自分のつくりたいものをちゃんと正直につくっているもののように感じました。「そうやって表現することが一番楽しいんだから、自分のつくりたいものをつくるといい」って。うまく出来ているとか、技術があるとかってことは関係ないのだと。その先生と同じことを青木さんも言ってくれて、自分もそれでいいんだと再確認することができました。そういうことを話す人には滅多に会えないと思っています。

井上
自分のつくりたいものをつくるってことは、クリエイティビティの本質ですが、簡単ではありませんよね。

長谷川
つくりたいものをつくると言っても、ただ自分の好きなようにつくるという意味ではありませんから難しいです。自分がいいと思い、つくりたいと思ったものが何か、好きな器を見てもっと知りたいと思っても、その器を掘り下げてみることはなかなかできません。考えられるのは、どうやってその器がつくられたのかということ。当然、道具も環境も違う中でつくられていますし、つくった人の精神も違います。私に出来るのは、その時代の陶片のようなものを手がかりに、精一杯想像力を働かせて、柔らかい見方を持って、自分が何を感じ取ったのかを探り、感じてつくり、また、その出来た物との違いを見ては、繰り返し手を動かすこと。それしかないと思っています。でも、そうやって自分が惹きつけられるものの正体を見つけたいと思うことが、つくる気持ちのもとにあるのだと思います。

インタビュー風景

※2:青木亮
土の表情や形を生き生きととらえた陶芸家。神奈川県の藤野に工房を構えていたが、2005年に51歳で急逝。晩年は薪窯に取り組んだ。

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