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Interview 皆川禎子 聞き手:井上典子 文・構成:竹内典子

技術を磨き「私の世界」を求めていきたい

自主トレとワークショップの受講、
その繰り返しで技術を磨いた。
インタビュー風景

井上
受講したワークショップについて教えて下さい。

皆川
一番最初は、イタリア人のチェザレ・トッフォーロさん※3のワークショップです。その頃はまだ自分の習ったことしか知らなかったので、チェザレさんが卓上バーナーで吹きの道具を使ってバーナーワークをされる方だということも知らないまま、「新島国際ガラスアートフェスティバル」※4のワークショップに参加したんです。目の前で見てすごいなと、こんなに大きい物をつくれるんだ、こんなに自由にシャープな物をつくれるんだと驚きました。

井上
他にはどなたのワークショップを?

皆川
その次に受けたのが、ドイツ人のご夫妻でハイケさんとフーベルトさん※5。ご主人がバーナーで器とかフォルムをつくって、奥様がそれにエナメルとかラスター彩を施すという手法でした。それも新島のワークショップです。その時に私はベストスチューデント※6をいただき、「ピルチャック・グラス・スクール」※7のワークショップにも参加させてもらえました。そこでルチオ・ブバッコさん※8に習いました。ソフトガラス※9を使った熟練の技術で、人物の大作をつくられる様子にすごいなぁと。あと、瀬戸でシェーン・フェローさん※10にも。 その後が、アンナ・スキブスカさん※11。ものづくりの考え方、アプローチの仕方とか、そういうことがすごく勉強になりました。 コアガラス※12の佐藤透さん※13のワークショップも「彩グラススタジオ」※14で受けました。それと「金津創造の森」※15で、ポール・スタンカードさん※16、ヴィットリオ・コスタンティーニさん※17、ダンテ・マリオーニさん※18にも習いました。一番最近では、新島でとんぼ玉※19内田敏樹さん※20です。

井上
そんなにたくさんのワークショップを受けていたとは…。 ワークショップの良さはどんなところですか?

皆川
私は一人で作業をしているので、他の方が作業をしている姿を知らない。ですから、ワークショップはすごく刺激になります。講師の方の素材に対する考え方や具体的なつくり方もわかりますし。

井上
今まで受けたワークショップの中で、最も印象的だった方はどなたですか? 皆さんそれぞれの良さがあると思いますが。

皆川
特にしみじみしたのは、コスタンティーニさんです。受ける1年前に、ヴェニスの彼の工房兼ギャラリーを訪ねたことがあって、その時に自分はワークショップもデモンストレーションもやらないと仰っていた。ただ、はるばる日本から来てくれたのだからとビーズ交換か何かしたくらい。ところが、金津でワークショップをされることになり、なかなかこんな機会はないだろうと思って受けたんです。 「これは簡単なもの、軽いもの」とか言いながらも、結局つくり始めると、どんどんすごいものになっていきます。もう何十年も第一線で活躍されてきているのに、ガラスが今でも好き、美しいものが好きという気持を、ずっと途絶えることなく持ち続けていることが伝わってきました。技術はもちろんですけど、そういう姿勢には打たれます。

井上
後日談もありましたよね。

皆川
彼のワークショップを受けて2年くらいしてからのことですね。トンボの作品は、ワークショップを受ける前から自分でつくっていたんですけど、それ以外の昆虫は彼のワークショップで習ってからつくり始めたんです。それでやっと表に出せるくらいになってきて、「ギャラリー介」での個展のDMと手紙を送ったら、コスタンティーニさんから返事が来て「上手になったね」って。すごく嬉しかったですね。

井上
他に影響を受けた方はいますか?

皆川
最初に船越先生に習ったのは大きかったです。ガラスの扱いということについて、すごく自然な方でした。ガラスの硬さとか重力とかを活かして、無理なく形をつくり上げていく。タネも、作業しやすい、良いタネに熔かしていく、そういうことについての教えはとても貴重なものです。

井上
松島巌さん※21は、どんな存在ですか?

皆川
松島巌さんは高みを示して下さる存在です。自分自身を思うと、その示された道の遙さに絶望と寂しさを感じずにはいられませんが、同時に未来は開かれていると勇気づけられ、明るい気持ちにもしていただいています。

作家それぞれの制作風景に触れ
得てきたものは大きい。
工房風景

※3:チェザレ・トッフォーロ(伊)
イタリアのバーナーワークの作家。硼珪酸ガラスを素材に宙吹きの道具を用いて制作する。伝統的なベネチアングラスのデザインをベースにしている。

※4:新島国際ガラスアートフェスティバル
毎年、新島ガラスアートセンターにて開かれる。開催中、国内外から作家を招いてワークショップを行う。ワークショップで選ばれたベストスチューデントには、ピルチャック・グラス・スクールへの留学資金(奨学金)が与えられる。

※5:ハイケ&フーベルト(独)
二人でバーナーワークの作品制作をしていた、ドイツの作家ペア。現在はそれぞれソロで活動。

※6:ベストスチューデント
ワークショップの講師から、"課題、その技術の習得に真摯に取り組み、一定の達成が見られた"と認められ選ばれた受講生。

※7:ピルチャック・グラス・スクール
アメリカ・シアトルの近くにある、国際的に有名なグラスアート教育施設。1971年にガラス彫刻家デイル・チフーリが仲間と共に設立。

※8:ルチオ・ブバッコ(伊)
「神の手をもつ」と賞賛されるイタリアを代表するガラス作家。ガラスで指先まで繊細に表現し、躍動感溢れる人体をつくる。

※9:ソフトガラス
硬質ガラスに対して、軟質ガラスのことで、主としてソーダや鉛などを混合。軟化度が低くて加工しやすい。

※10:シェーン・フェロー(米)
各種のガラス素材を扱い、独自の造形表現をする、現代アメリカを代表するバーナーワーク作家。

※11:アンナ・スキブスカ
細長くリボン状にしたガラスを絡み合わせ、繊細な立体構造をつくり上げる現代ガラス作家。

※12:コアガラス
ガラス器の成形技法の一つで、金属棒の先に芯(コア)をつくり、その芯にガラスを被せて器を製作する。紀元前16世紀末の古代メソポタミア文明時代に発明されたといわれ、吹きガラス技法の発明によって廃れたとされるが、現在、この技法で作品制作をしている日本の作家では、松島巌さん、佐藤透さんが有名。

※13:佐藤透
現代を代表するコアガラス作家の一人。

※14:彩グラススタジオ
川崎市にある伊藤けんじ氏が主宰するガラス工房。ガラス教室、レンタル工房などが充実。

※15:金津創造の森
福井県あわら市にある工芸の複合施設。ガラス工房や創作工房があり、ガラス、陶芸、染織などの各種講座を開く。

※16:ポール・スタンカード(米)
写実的な植物(花)を封じ込めた作品で知られるペーパーウエイト作家。ペーパーウエイトの世界を変えた第一人者。

※17:ヴィットリオ・コスタンティーニ(伊)
べネチアを代表するミニチュアグラス作家。昆虫や魚、鳥など、小さな生き物の世界を緻密に表現する。

※18:ダンテ・マリオーニ(米)
1964年アメリカ生まれ。華麗なテクニックからつくり出される作品は、国際的に高い評価を得ている。

※19:とんぼ玉
穴の開いたガラス玉で、さまざまな模様や色をつける。カルチャースクールのバーナーワーク講座として人気が高い。

※20:内田敏樹
超絶技巧と独自の世界観を持つ、現代を代表するとんぼ玉作家。

※21:松島巌
岡山市在住、古代の造形と現代のエッセンスが調和するコアガラスの作家。2000年前のコアガラスの技法を独学で研究し続けてきた第一人者。

Artist index 皆川禎子