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浜野まゆみ ひとつひとつの磁器
白に想う
端正で上品な白い器。まっさらな縁に、細くスッと引かれた口紅(鉄釉)。浜野さんの器の白さは、季節や節目によく寄り添いハレの料理に気品を添える。そして、もう一つの魅力は、日々に使って爽やかなこと。定番のおかずが色褪せない。家族の枚数を重ねた姿も美しく嵩張らない。白さの中にハレとケを受けとめる。古伊万里の時と今この時をつなぐのは日本の美意識だろうか。絵付けの皿と並べながらふと着物の白足袋のようだと思う。礼服に平服に、着物の色や紋様を、凛として受けとめる白さ。その潔さとともに生き生きとする絵柄。白い器は星の数ほどあるだろう。白さとは何か、想いを巡らしながら愉しんでみては。三寸皿と五寸皿。それぞれ小皿や醤油皿、銘々皿などに出番の多いサイズ。無地と口紅有の二種類。同じ白磁に絵付けをしたものが二種類。丸紋の五寸皿と虎紋の七寸平鉢。
五寸丸皿 白/三寸丸皿 白/五寸丸皿 口紅/三寸丸皿 口紅白色絵丸紋五寸皿色絵虎紋七寸平鉢

色絵虎紋 筒型ぐい呑しっとりとした肌合いの白磁に、赤と金で描かれた虎の紋様。その取り合わせの鮮やかさと、余白の中をいまにも虎が動き出しそうな構図に魅かれて手に取ってみる。虎は金色の目を光らせながらも、何か言いたげな表情をしていて、見え方のひろがる愉しいぐい呑である。「美術館で見た柿右衛門様式のお皿の虎が、目に金が入っていて、きらりとしていたんです」と浜野まゆみさん。朱色のような赤は、柿右衛門様式の特徴で、当時はわずかしか採れない貴重な絵具が使われていたという。その「柿右衛門の赤」に近づけたいと、浜野さんは明るさを試行錯誤しながらつくり上げている。色の表情も虎の顔も、ひとつひとつが味わい深い。「一匹ずつ、良い顔になるといいなと思いながら描いています」。

色絵櫻花紋筒型ぐい呑色絵櫻花紋筒型猪口匂やかな肌合いに愛らしい櫻花紋/猪口を手の爪で弾くと、キンキンとした音が響く。薪窯焼成ならではの芯までよく焼き締まった高音。それでいて表面の肌合いはやわらかく、しっとりとしていて、そこはかとなく色気もただよう。江戸時代に使われ、現在は使われなくなった佐賀県有田町の泉山陶石をあえて使い、薪窯で焼き、生地の質感にこだわった作品。古伊万里に魅せられ学んできた浜野さんにとって、丈夫に焼き締まりながら、肌合いはしっとりした磁器というのは「ずっとこうしたいと思い描いてきたもの」。小ぶりの筒型で、高台は浅く広く、匂やかな肌に赤絵と呉須の櫻花紋がはんなりとした趣。「日本の四季を大切に、常に意識していきたい」という浜野さんらしく、季節を手元に感じられる。櫻花紋は古伊万里の皿から裏側の紋様を写し、今の感覚に添うよう取り入れた。歴史ある窯業地・有田では、磁器といえば熟練の職人技によって同じ物が揃うことが当たり前とされてきた。今回のように、ひとつひとつ違う、いわゆる一点物として、そこを味わい楽しむ磁器づくりは、浜野さんにとって画期的なこと。「焼成時にサヤに入れないので灰のかぶり具合もさまざまです。鉄粉の様子、呉須の色味の濃淡、内側の雰囲気、高台周りの雰囲気なども、ひとつひとつのよさとして楽しんでいただけたら」。

白磁長皿静かに響き合う細部の仕事/浜野さんが探究を続けている「糸切成形」は、17世紀半ばから後半にかけて、伊万里焼において流行った技法。この長皿は、糸切成形による最新作で、よく焼き締まりながらもしっとり仕上がった肌合いと、装飾的なデザインが美しく響き合い、古陶磁の上物のような気品がただよう。弧を描いて立ち上がった縁に、錆釉を施したものと無地のものがある。約22x11cmの長皿は酒肴、前菜、主菜など幅広い用途に向き、和洋中を問わず料理が映えそう。糸切成形は、轆轤ではなく、板状の粘土を型に被せて形をつくり、型の縁からはみ出た部分を糸で切り取って成形していく。当時の上物は、手間を惜しまずつくられていて、それらに魅了された浜野さんも細部まで丁寧につくり上げる。たとえば、縁のとがった部分は、成形後に細い紐状の土を貼って、エッジを整えている。口紅とも呼ばれる縁の鉄釉は、線がにじまないよう、縁の先端部を細く面取りしてから描くという。高台も手を抜かず、わざわざ高台の角度を内側に倒して仕上げる。「器の表の雰囲気と裏の雰囲気が合うのは理想。そこは時代の色に感じる部分でもあります」。細部の仕事が響き合い、凛として丈夫に。

白磁白土猪口やわらかな白磁に型紙摺りの白紋様/染付の仕事で知られる浜野さんには珍しい、白い絵付けの猪口。素焼きした生地に、紋様を切りぬいた型紙を当てて、白土の粘土を塗ってから型紙をはがす「型紙摺り」という絵付技法を用いている。松・竹・梅の紋様にはかしこまったイメージもあるが、この猪口はおもてなしにも日常にも扱いやすい形・大きさで、白く浮き上がる紋様もさり気ない。また、轆轤成形の際に、均一なきれいさにならないよう、動きのある形に挽いていることも、釉薬の表情や味わいを深めていて、凛とした中にも温かみが感じられる。全体的に白っぽいものと青味のあるものとあり、これは釉薬を2種類使用しているため。どちらも有田町で採れた天然の釉石で、採取地域によって色味が多少変わる。「有田は陶石も釉石も豊富に採れますし、近くの地層から得た材料同士はまず相性がいいです」。白い猪口に、有田の自然風景や、浜野さんの目にしてきた白磁への想いが垣間見えるよう。

文・構成:竹内典子